第二章 2-4 その王は誰だ?

 災厄の龍は退けられた。

 勇猛なる王と楽団の献身によって。


 しかし、その王は既に居ない。

 「炭化」などという言葉では生ぬるい。灰すら残らないほどの超熱火力で分子分解され、祇園精舎の鐘の声と消えた。諸行無常を語るまでもなく、塵と消えたのだ。ホンの一瞬で。


 だからもう僕らは、呆然と見つめるだけだ。一兆℃でえぐり取られたコロッセオ跡を。

 ただ呆然と、だらしなく口を開けたまま。皆等しく茫然自失。

 あまりに苛烈な【災害】を前にして。


 そんな脱力した静寂の中、白々と夜が開け始めた頃……


 ――――ブツッ!

 砂嵐の魔法ビジョンが、唐突なノイズと共に復旧した。

「「「「!!!!」」」」


 そして万民が驚愕! ビジョンに映し出された人影に目を疑った。

「王よ!」

 彼は死んだはずだ。

 龍が吐いた渾身の一撃で、コロッセオを枕にヴァルハラへ旅立ったはず。

 対龍最終作戦【龍曲掃界 ポリフォニカ】の無残なる失敗によって。

 王の率いる宮廷楽団と音響魔法師部隊を道連れに、天へと召されたはずだ!

 帝都民全員が、その悲劇を目の当たりにしたはずだ。


 なのに! ―――― 王 は 生 き て い た !


『我が臣民よ!』

 魔法ビジョンに映し出された王は、小ぶりの玉座に座っていた。

 肌や衣装に落ちる影は、室内光のもの。天井も低いので、王城内ではなさそうだ。


「王城の丘の奥に掘られた、王族専用の防空壕ですな。この帝都で最も安全な場所」

 テュルミー中尉は、独り言のように呟いた。表情一つ、変えずに。


『余は健在ナリ! 我が愛する帝都ドラゴグラードと共に、余は不滅である!』

 王の肉声は、計り知れない効果を民へ及ぼした。

『余は臣民に約定する。この龍に襲われし都を、必ずや復興なさしめると!』


 ウワーッ!!!!


 すると帝都に響き渡る歓呼の声!

 傷だらけの自警団も、怯え潜んでいた防空壕からも、

「王は不死身だ!」

「マクシミリアン帝、万歳! 万歳!」

「不死身のマックス・ザ・ダイハーデッド! 我らが不死鳥王!」

「神に加護されし聖王よ!」

 現人神あらひとがみここに降臨せり、とばかりに平伏して王を崇める民衆たち。

 興奮は留まることを知らず――熱狂は続いた。



 ただ一箇所、

 沈黙お通夜の離宮避難壕を除いては。

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