17:結末

「これが俺たちが浮気をしていない証拠だ。これに異論があるやつがいたら手を上げてくれ」



 俺の言葉に誰も口を開こうとしなかった。

 まぁ、ここまでの証拠を見せたのに反論してくるやつがいる方が驚きなのだが。



「じゃあ、次は俺たちを虐めていた奴らをここで発表したいと思う」



 俺の言葉に反応したのは数人の男女だった。

 心当たりがあるのだろう。

 女の子たちはすでに涙を流している。

 まぁ、そんな涙どうでも良いんだけどね。


 俺はスライドを次ページにすると、ミチルと森下、南の幼馴染3人組とその他4人のクラスメイトの男女が俺の机に悪戯書きをしたり、物を盗んでいる写真が映し出された。

 意外だったのが、この虐めのグループに弥生は参加していなかったことだった。



「な、なんでこんな写真が!」



 俺が映し出した画像を見て、ミチルや森下が大きな声を上げた。

 そして、先ほどまで涙を流していた女の子たちはついに声を荒げて泣き始める。


 この画像は、窓際にある俺の机の付近だけが映るようにサッシに隠しカメラを設置したので撮影することが出来たのだ。

 もちろん隠しカメラはすでに回収済みである。



「うるせぇよ。大きな声を出すな。大きな声で泣き叫ぶな。被害者ヅラしてるんじゃねぇよ。俺たちがどれだけ苦しめられたと思ってるんだ。お前らのせいで俺たちは学校に来ること自体が苦痛で仕方がなかったんだよ」



 俺の声に俺たちを虐めてた全員が体を震わせた。

 すると時間が結構経過していたのか、ドアがガラリと開いて担任が教室に入ってきた。



「お、おい。これは一体どうしたんだ?」


「先生すみません。先生に相談したにも関わらず、何も対応もしないどころか、俺たちが悪いと仰られたので、勝手にですがこの時間をお借りして、我々が無実であること。そして虐めがあったことを証明させてもらってました」


「はっ!? 何か勝手なことをしてるんだ!? 今すぐやめるんだ!」


「お断りします。これが終わったら私は校長室へ行き、ここで発表したことと同じ説明をしたいと思っています。また、この間先生に相談したときの音声データもしっかり残っているので、そちらも併せて提出する予定です」



 俺がそう言うと担任は焦ったように「ま、待ってくれ。俺は何もしなかったんじゃない。様子を見ないとダメだと言ったんだ」と言い訳を始める。



「いいえ。そうではありませんでした。私は先生と話したときの音声データを持っていると言いましたよね? なら先生は、その音声データを聞いたあとの校長先生にそう釈明すれば良いだけです。私たちは自分の意見を曲げることはありません」


「頼む。俺が悪かった。だから校長への報告はやめてくれ」


「いいえ、それはできません。もし学校が有耶無耶にするなら、このデータをマスコミにリークしたいと思います」



 俺がそう言うと先生は頭を抱えて「終わりだ……。俺はもう終わりだ……」とブツブツと何かを呟いている。

 そんな担任を白い目で見ていると、教室から「バチン」と大きな音が何度も聞こえてきた。

 そちらに顔を向けると、弥生がミチルの頬を思いっきり平手打ちをしていた。



「お前私を騙してたのか! コタくんは私を裏切ってなかったのか!」



 弥生は絶叫しながら何度も何度もミチルの顔を殴っていた。

 こんな弥生の顔を俺は見たことがなかった。

 その表情は怒りに満ちていて、ミチルのことを殺してしまうのではないかと思うくらに激しく殴打をしている。


 そんな弥生に呆然としていたが、クラスメイトの男子が弥生の手を掴んでなんとかミチルと引き離した。

 すると弥生はその手を振り解いて、俺の方へ縋るように歩み寄ってきた。



「ね、ねぇ。コタくん……。私騙されちゃってたよ。ごめんね。コタくんのこと疑ってごめんね」



 弥生は俺の元まで来ると、虚な目をしながら俺の足元にしがみついてきた。



「わ、私悪くないよね。被害者だよね? だ、だからさ。またやり直せるよね?」


「やり直せるわけがないだろ。お前は俺たちを信じなかった。そして、俺だけじゃなく、瞳ちゃんまでいじめの被害に合わせたんだ。――もう俺たちが以前のように笑い合えることはできないんだよ」


「そんなことないよ。だって、私がコタくんのことどれだけ好きだったか知ってるでしょ?」


「ちょっといい加減にしてよ、弥生!」



 今まで静かにことの成り行きを見守っていた瞳ちゃんが、俺と弥生の間に割り込んできた。



「弥生。あんたが鼓太郎くんに何をしたのか忘れたの? 確かに騙されたのがきっかけかもしれない。だけど、その写真を鼓太郎くんに見せて相談したら、すぐに騙されてたってことに気付いたんだよ? それに鼓太郎くんにはバイトのタイムカードだってある。いつでもあいつの嘘を見抜くことができたの。――それなのに、あなたは鼓太郎くんに何をしたの?」


「う、うるさい! あんなの見せられて信じられるわけがないじゃん。私は仕方がなかったのよ!」


「だからって他の男にすぐ抱かれるのはどうなの? ラブホや家だけならまだしも、学校の、しかも鼓太郎くんの机の上でなんて!」



 瞳ちゃんはそう言うと、スライドの最後まで移動する。

 そこには動画ファイルが埋め込まれていた。

 この動画は正直ここで流す気は俺にはなかった。

 だけど、証拠として一応入れておいたものだったのだ。

 瞳ちゃんが動画を再生すると、俺の机と中心がモザイク処理された映像が流れ始めた。



『弥生! お前を裏切った男の机で犯られるセックスはどうだ?』


『気持ちいい。……最高に気持ちいいよ。ザマァみろって感じ。……あっ、もっと。ミチル、もっとしてぇ……』



 モザイク処理されているが、獣のような大きな声を出しながら、俺の机でセックスをしている弥生とミチルの映像だった。

 それを見たクラスメイトは全員がドン引きして「ないわぁ……」「ミチルって本当のクズじゃん」「ビッチかよ」などと言っている。

 ミチルは頭を抱えて机に突っ伏し、弥生は「やめて。もうやめて」と譫言うわごとのように呟いていた。


 そして、混乱した状況のまま下校となり、俺と瞳ちゃんは校長先生の部屋にいる。

 弥生が「ごめんなさい。ごめんなさい」と縋ってきたが、クラスメイトが引き離してくれたので無事に校長室へ来ることができた。

 校長先生は真面目に話を聞いてくれて、まずは虐めがあったことに気づけなかったこと。

 相談があったのにしっかりとした対応ができなかったことを謝罪してくれた。


 そして、俺たちを虐めたクラスメイトは停学処分にすること、虐めを見て見ぬ振りをした担任を取り敢えずの処置として謹慎にし、虐めの主犯でもあり学校でセックスをしたという理由でミチルは退学処分にすると約束をしてくれた。

 また、弥生に関しては虐めに加担はしていなかったものの、学校でセックスをしたことで退学処分になるということだった。

 この約束が反故になったら、諸々のデータをマスコミにリークするということは念の為伝えている。


 また、弥生に関しては「帰りたくない! コタくんと話をするんだ!」と抵抗していたらしいのだが、先生の車で無理やり家に送り届けたらしい。


 こうして俺と瞳ちゃんの復讐は終わったのだ。

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