10:裏切り
高校に入学して一ヶ月が経過した。
私たち三人は運よく同じクラスになることができたのだ。
そして、新しいお友達も出来た。
南美咲ちゃんと佐久間ミチルくん、そして森下琢磨くんだ。
この三人は幼馴染らしく、小学生の頃から同じ学校で仲良しさんということだった。
最初にコタくんとミチルくんが仲良くなって、それから徐々に私たちとも仲良くなって気付いたら6人で良くいることが増えたって感じ。
美咲ちゃんはサバサバしてる感じで、なんかかっこいい女性って感じで、森下くんは明るいムードメーカー、佐久間くんは笑顔が優しい雰囲気の男の子って感じ。
なんとなく、佐久間くんとコタくんが仲良くなるのが分かるなって感じがした。
高校生活の滑り出しは順調と行ったところだろう。
だけどちょっと誤算があったのは、コタくんが予想通りモテてしまっている。
入学して一ヶ月だというのに、すでに女の子から告白をされたのだ。
コタくんは私と付き合っているから、と言って断ってくれたんだけど、中学と違って私とコタくんの関係を知らない人は多いので、これからもっと積極的にアピールしないといけないって思った。
放課後は基本的にいつもの三人で帰っている。
瞳ちゃんは週に3回、そしてコタくんは週に2回、私たちの駅の一つ手前の駅で途中下車する。
瞳ちゃんは塾に通って、コタくんはバイトに行くためだ。
コタくんのバイトは、大型スーパーの店員さんだった。
ここを選んだ理由は、シンプルに時給が良かったかららしい。
だけど、一緒に帰っていてちょっと寂しいと思うときがある。
と言うのも、毎週火曜日だけコタくんのバイトと瞳ちゃんの塾が被っていて、一緒に途中下車をしてしまうのだ。
その日だけ私は一人で家まで帰るのだが、これがとても寂しくて仕方がない。
まぁ、コタくんはバイトが終わって家に着くと必ず連絡してくれるし、寂しいのは家に着くまでの数十分くらいなのでこれくらいは我慢しないとダメだと自分を言い聞かせている。
こんな生活が数ヶ月続いて、夏休みが間近に迫ってきたある日、佐久間くんが重要な話があると言ってきた。
どうやら人には聞かれたくない相談事があるらしい。
私は「幼馴染の2人じゃダメなの?」って聞くと、「あいつらにも言えないことなんだ」と言ってきた。
ここで私はピンときた。
多分佐久間くんは美咲ちゃんのことが好きなんだ。
それであの2人には相談できないことを私に聞いてほしいと言うことだろう。
火曜日の放課後は瞳ちゃんとコタくんが途中で帰ることも知ってるし、そのタイミングで相談を持ちかけたのだろう。
私は「いいよ。けど、2人と途中まで帰りたいから、私の最寄駅の近くにあるカフェでも良いかな?」って聞いてみると、とても嬉しそうな表情で「もちろんだよ。ありがとう」と言ってくれた。
私の相談で一人の迷える男の子を導けるんだね。
そう思うとワクワクしてきてしまった。
こんな感じで、男の子の恋愛話を聞くのは初めてだったのでちょっと浮かれてしまったのだった。
―
「ここだよー」
店内で待っていると、佐久間くんがお店に入ってくるのが見えた。
「遅れてごめんね。あいつらが離してくれなくてさ」
「あはは。それは仕方ないよ。いつも一緒に帰ってる人が途中で抜けるって言ったら「なんで?」ってなるもん」
佐久間くんが飲み物を取ってくる間に、私は美咲ちゃんとどうやれば付き合えるかなって脳内シミュレーションをしていた。
まぁ、佐久間くんって見た目も悪くはないし、話も上手で気遣いができる優しい感じだから普通に告白したら付き合えそうな気がするんだよな。
だけど、昔からの関係を崩す可能性もあるんだし、そりゃ慎重にもなるか。
なんて勝手に脳内完結していると、佐久間くんが「お待たせ」と飲み物を持って戻ってきた。
トレーの上にはチョコレートケーキが2つ乗っている。
「佐久間くんケーキ2つも食べるの?」
「いや、これは今日付き合ってもらったから、一つは三島さんのだよ」
「え? 良いの? 嬉しい! ありがとう!」
やっぱり佐久間くんは良い人だな。
さて、じゃあどんな相談なのか聞くとしましょうかね。
「それで、佐久間くんが相談したいことって何かな?」
私がそう言うと、佐久間くんの表情に影が差して急に口を重くしてしまった。
「どうしたの?」
「いや。俺が口で言うよりも、これを見てもらった方が早いかも」
そう言うと、私に一枚の写真を渡してきた。
その写真を受け取って見ると、私の頭は真っ白になってしまった。
「な、にこれ……」
「この間の火曜日に偶然撮ったんだよ……。三島さんに教えるか悩んだんだけど……」
三島くんから受け取った写真に写っていたのは、コタくんと瞳ちゃんがラブホテルに入るところだった。
とても仲良さそうに身体を寄せ合いながら歩いている。
服装は制服ではなく洋服になっていたが、その顔はどう見ても私の大好きな彼氏と一番の親友だったのだ。
ひょっとして火曜日に一緒に降りてるのって、バイトでも塾でもなく浮気をしていたってことなの?
私は気持ち悪くなってしまい、トイレに駆け込んで便器に思いっきり吐いてしまった。
なんで?
これはどう言うことなの?
いつから2人は私を裏切ってたの?
高校に入ってから?
それとも中学生の頃から騙してたの?
私の頭は混乱していた。
気付いたら両目から大量の涙が溢れていた。
私がトイレにこもっていると、ドアがノックされて「三島さん大丈夫?」と言う声が聞こえてきた。
大丈夫な訳が無い。
だけど、このままトイレに籠ることもできないので、私はなんとか外に出ることにした。
「ごめんね。やっぱり見せるべきじゃなかったかも」
「ううん。佐久間くんは悪くないよ……」
「そんな顔じゃここに居づらいだろうから、公園でも行かない? これから話したいこともあるんだ」
そう言うと私にハンドタオルを手渡してくれた。
「これ綺麗なやつだから、安心して使ってよ」
私は素直に受け取って「ありがとう」と言い、佐久間くんの肩を借りてなんとか公園まで歩くことができた。
「それで、これから三島さんはどうするの?」
「どうするって?」
「あの2人との関係だよ」
「……別れるしかないと思ってる」
「別れるだけで良いの?」
「――え?」
佐久間くんが何を言いたいのか分からない私は、間抜けな声を出してしまった。
「いや、裏切られて傷付けられた三島さんが泣き寝入りするのは可哀想だなって思って……。あいつらに復讐したいと思わない?」
「復讐……」
「そうだよ。なんで被害者が苦しまなきゃいけないんだ? そんな巫山戯たことが許される訳がないよ」
確かに佐久間くんの言う通りだ。
なんで私がこんなにも苦しんで悲しまなくてはいけないんだ。
復讐したい。
私を裏切ったあの2人に復讐をしたい。
「……復讐したい。だけどどうやってするの?」
「もし三島さんが良ければなんだけど、俺と偽の恋人にならないか?」
「え? 偽の恋人?」
「そう。あいつらに裏切られた人間の苦しみを味合わせてやれば良いんだよ」
「そうだね。この苦しみをあの2人にも味合わせたいよ」
「分かった。じゃあ、とりあえず一学期が終わるまであと数日だ。この数日だけ我慢して、夏休みはあいつらから誘いがあっても用事があると言って断ろう」
「元々夏休みはバイトと夏期講習で忙しいって言ってたから、そんなに会う予定もなかったから大丈夫だよ。まぁ、それも今となっては嘘で、2人で遊ぶために私たちに言ったのかも知れないけどね」
私は自重気味に笑うと佐久間くんが「そんなに自分を傷つけるようなことを言ったらダメだ」と抱き締めてきた。
私はビックリして固まってしまう。
「三島さんは悪くないんだ。一番信頼してた2人に裏切られたんだから。俺は裏切らない。三島さんを絶対に裏切らないから安心してくれ」
佐久間くんはそう言うと、私を更に力一杯抱きしめてきた。
私は目頭が熱くなってきて、気付いたら佐久間くんの胸で号泣してしまった。
私を裏切った2人を許せない。
絶対に同じ思いをさせてやる。
泣き終わる頃には、あの2人に復讐することしか私の頭にはなかった。
――――
ラブコメは死にました。
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