09:卒業式と入学式

 今日はついに中学校の卒業式だ。

 4月からはコタくんと瞳ちゃんと一緒に、4駅先にある県立高校への入学が決まっている。

 そう。私は必死の勉強を甲斐もあって、コタくんたちと同じ高校に入学することができるのだ!

 合格通知を見たときは、今までの苦労とかどうでもよくて、ただただコタくんと一緒の学校に行けることが嬉しくてその場に泣き崩れてしまった。

 その姿を見たお母さんが優しく背中をさすってくれたのが嬉しかった。



「今日でこの学校に通うのが最後って思うとちょっと寂しいな」


「そうね。だけど、私は弥生や鼓太郎くんと一緒の学校だから良いけど、聡くんはかなり寂しいんじゃないの?」


「う、うっせぇ! まぁ、俺は最初から別の学校に行くことがほぼ決まってたしな。高校に入っても部活しまくり人生だよ」


「部活が休みのときは、また俺たちと一緒に遊ぼうな」


「うん。そうだよ! 今日で会えるのが最後ってわけじゃないんだからさ! これからも隙を見てはみんなで遊ぼうね」


「私もそう思うわ。これからもみんな仲良くしましょうね」


「うっ、うぅ……。お前たち本当に優しいなぁ……」


「うわっ! お前泣いてるのか? つか、鼻水出てるぞ! ほれっ、ティッシュやるからさっさと拭け」


「鼓太郎……ありがとな。――ブビィ〜〜〜」



 聡くんは涙を流しながら、大きな音を立てて鼻をかむとそれが何故か面白くて、みんなで笑い合って、そしてこの日常が終わるんだと思うとちょっと涙を流した。

 私たちはその後近所の公園で、中学時代の思い出をたくさん話し合ってから、聡くんとコタくんとバイバイって別れた。

 今日は最後だから、小学校からの親友の聡くんと一緒にコタくんは帰ることにしたのだ。

 だって、9年間同じ学校にいた友達と離れ離れになっちゃうんだもんね。

 今日くらいは一緒に帰りたいってワガママは言えないよ。

 だから今は瞳ちゃんの二人で家に向かって帰っている。



「聡くんに会えなくなるのは寂しいわね」


「そうだね。だけど、聡くんの部活がないときにまた会うことも出来るからさ。あと、聡くんが試合出れるようになったら私たちで応援に行ってあげようよ!」


「うん。そうよね! 私たちが応援に行ったら聡くん多分ビックリするわよね」



 聡くんと離れ離れになって一番寂しそうなのは瞳ちゃんだった。

 瞳ちゃんは好きな人が一年生の頃からいるって言ってたけど、ひょっとしたら聡くんだったのかな。

 言ってくれたら協力したのに。



「瞳ちゃんって……聡くんのことが好きだったの?」


「え? 違う。それは違うわよ。好きな人は別にいるの」


「そう、なの? だって、聡くんと別れるとき寂しそうにしてたから……」


「あぁ、聡くんには色々と相談に乗ってもらってたからさ。なんていうか、戦友的な感じだったんだよね」


「戦友? うーん。なんだかよく分からないよ。――あと、私にも色々と相談してほしかったな。私も瞳ちゃんの力になりたいって思ってるし」


「うん。ありがと。次は弥生に相談させてもらうね。だから良いアドバイス期待してるよ」


「あはは。もちろんだよ! 弥生ちゃんに任せておいて!」


「あっ、もう家に着いちゃった。――じゃあ、弥生。高校生になってもよろしくね」


「うん。こちらこそ。ずーっと親友でいようね、瞳ちゃん」


「えぇ。それじゃあね。バイバイ」



 うーん。

 瞳ちゃんが好きな人って聡くんじゃなかったのか。

 じゃあ誰なんだろ?

 瞳ちゃんが中学時代に仲良くしてた男の子なんて、聡くんとコタくんくらいしかいなかったと思うんだけど。

 ひょっとしたら憧れ的な感じで、ずっと影から見守ってたりしてたのかな?

 うん。多分そうなんだろうな。

 だって、瞳ちゃんって美人でかっこいいんだけど、自分からグイグイ行くタイプでもないしね。

 だからこそ、瞳ちゃんが私に相談してきたときに、的確なアドバイスをしてあげなくちゃ。

 瞳ちゃんには絶対に素敵な男の子と付き合ってもらいたいもん!




 ―




 春休みはコタくんと一緒に遊びまくってたら、気付いたら入学式の当日になってしまった。

 楽しい時間って本当にあっという間に過ぎていく。


 入学式には、私とお母さんと瞳ちゃん、そして瞳ちゃんのお母さんで行くことになった。

 コタくんとは駅の改札口で待ち合わせだ。

 私はコタくんに制服姿を早く見せたくてウズウズしていた。

 そして、コタくんの制服姿も早く見てキュンキュンしたい。


 私たちは駅に到着すると、コタくんがどこにいるのか探していると、改札口の端っこでコタくんママと一緒に待っていた。

 コタくんも私を見つけてくれて、手をブンブンと振ってくれた。



「おはよー。コタくん、私たちの制服姿はどうですかね?」


「めちゃくちゃ似合ってるよ! なんか2人とも一気に大人な感じに見えちゃうから不思議だよ」


「ありがとー! コタくんもかっこいいよ! ね、瞳ちゃん」


「ふふ。そうね。鼓太郎くんも制服似合ってるよ」



 私たちはお互いを褒め合いながら、改札を通って電車に乗る。

 なんか電車通学って大人って感じがするよね。

 本当に高校生になるんだな。

 なんかドキドキしてきちゃったよ。


 私たちは電車に揺られながら、高校生活がどうなるか色々と話していた。

 瞳ちゃんは部活には入らずに、早速塾に通うことになるらしい。

 もうすでに大学受験を視野に入れてるの本当に凄いなって思っちゃう。

 素直に尊敬だよ!


 コタくんはアルバイトをしてお母さんの力になりたいらしい。

 一緒にいられる時間が減ってしまうのは寂しいけど、コタくんの家の事情は理解しているつもりだ。

 ここで我儘を言うとコタくんのことを困らせてしまうことになるだろう。

 だから、バイトがない日はたくさんイチャイチャしようねって約束してるんだ。


 私はというと、特にやりたいことなどはない。

 部活に入る気もしないし、塾にはまだ通わなくても良いやって思ってる。

 だから帰宅部って感じかな?

 だって、部活なんて入っちゃうと、それこそコタくんとの時間がなくなっちゃうしね。

 私はコタくんに会えるように、自由な時間をいつでも確保しておくのだ!


 チラッと親の方を見てみると、お母さんたちがコタくんのママと仲良さそうにお話をしていた。

 うんうん。

 親同士の交流も深まってるみたいだね。

 これは私とコタくんの未来的にもとても良いことだよ。

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