第67話 お仕置きよ
「おい、医者はまだか?」
王は第一王子をベッドに寝かせ医者をただじっと待っている。第一王子はげっそりとしているものの意識はあり元気そうだが支えがないと歩けないらしい。
「なんでここにメイドがひとりもいないんだ?」
第二王子が部屋を歩き回る。
「変です、父上。部屋の外にはメイドも見張りの者もいません」
第五王子が廊下から部屋に戻ってきた。
「なに?メイドを呼んで来い」
「ですから、見張りも兵士もいないのですよ」
「マピオン、お前が捜してメイドを連れて来いと言っているんだ。早くしないか!」
「わ、わかりました」
マピオンとは第五王子の事である。
城の廊下を歩くマピオン
「なぜ一国の王子がこんな下働きのような事をしなければならない。見張りはどこに行ったんだ。職務放棄じゃないか。ムチ打ちの刑だな」
ブツブツ独り言を言いながらフロアや食堂などに移動する。誰もいない。大きな城の中には誰もいない。なんの音もしないのだ。
「なんだ…なぜ誰もいない…」
シーンとしている城内。誰の物音も聞こえない。誰もいないかのようだ。マピオンは怖くなり自分の住宅の方向に走り出した。誰もいない、誰もいない。どこを走っても誰もいない。この世は自分ひとりだけのような恐怖を感じだ。
「誰か…誰か…」
マピオンは焦り、馬で城下町に行こうとしても馬もない。馬屋にも誰もいない…
鳥のさえずりさえ、しないのだ。
マピオンは闇雲に走っていた。走って走って走って絶望と共に落胆した。どこを見渡しても誰もいない。道端に膝を付き動けないでいた。息を切らして動けないでいると前方に人影があった。マピオンは安堵した。安堵して腹が立ち怒鳴り付けようと立ち上がった。そして歩いている者の姿を見た。
黒いローブに身を包み水色の髪に蒼い瞳、肩には虹の橋の番人のオウム、黒猫を共につれ、ウサギを抱いている。身に覚えのある顔だった。
「…ビ、ビアンカ…なのか…」
「今はルイよ」
「なぜ、おまえがここにいる?娼婦館に売られたのではなかったのか?」
マピオンはこの状況になっても嫌味を忘れない。
「あなたには関係ないわ」
「なんだその口の聞き方は!フ、フン、まあちょっとは見られるようになったじゃないか…頭を下げて頼み込めば妾ぐらいにはしてやるぞ」
マピオンはルイと婚約破棄をしてから正妻を娶るも次々に愛人を作った。使用人にも手を出していた。それに怒っていた正妻はこの脱出劇にホイホイと乗ってきてこの国を後にした。夫とは離縁すると誓約書にもサインをして国に帰ってしまったのだ。
「謝るなら今だぞ」
「そこをどいてちょうだい」
「はぁ?この先は城だ。おまえが入れる場所ではない」
ルイは小物の相手をしている暇はないとばかりに、そっと手を上げ、軽く下ろした。マピオンのすぐそばに雷を落としたのだ。
いつのまにかルイの背後には黒々とした雲が囲いゴロゴロと鳴っている。そして隙間からピカッと光っている。
「な、な、などうど、どどどうなっている」
マピオンは雷に打たれた事で腰を抜かしている。ルイはまた手を挙げた。
「ひいいいい、ま、まってくれ!俺が悪かった許してくれ!」
マピオンはガクガクと腰を抜かしたまま立てないようだ。
「こ、こ、これはおまえの仕業なのか?」
マピオンはキョロキョロと辺りを見渡している。これとは誰もいない状況の事を言っているのだろう。
「そうね」
「婚約破棄をした僕を恨んでるのか?わかった…不本意だが今からでも正妻はムリだが妃には迎えよう、、だ、だから許してくれ、、、」
「いいえ、結構です。望んではいません。あなたはただのおバカさん。だからなにも怒ってないわ。どかないから雷を落としただけよ」
ルイは抱いているウサギを撫でながら話をする。
「はは、お、おバカさんかぁ…この国の王子にずいぶんな言い方だな、、まぁいい。妻は無事なのか?妻の所に連れて行ってくれ。そうすれば許してやろう」
「あなたの許しなんて必要はないけど、いいわ。お付きのメイドと国に帰って貰っているけど、あなたが望むなら奥さんの所に連れて上げてもいいわよ」
「そ、そうか、ビアンカ、では頼む。今頃だがあんな事すべきではなかった。第二夫人くらいにしてあげればよかった。そうすればここまで君を傷付ける事はなかったのだろう」
頓珍漢な事を言い出すマピオンを無視してルイは話しをする
「あなたには感謝してます。あのままあなたの妻になっていたら、なにも知らずに私はこの国で生贄にされていた」
「生贄?」
「そうよ。この国は生贄を捧げる事で成り立っているの。そんな国潰した方がよくない?」
「そ、そうだね。す、すべて君に従うよ」
「お願いがあるの、私の事は言わずにこの状況をあの王たちに伝えて、バレないように怖がっている演技を忘れずに。そうすれば奥さんの所に連れ行って上げる」
「わかった、任せてくれ」
「お願いね」
「ああ、ビアンカ。僕の名前はマピオンって言うんだ。君には特別に僕の名前を教えよう」
「それはどうも…」
最後まで頓珍漢なマピオンは城に戻っていった。
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