第60話 フィロデンVSシオン
シオンとカインはローズに会う約束をして夕食を一緒にする事にした。フィロデンとハート、シオンとカインだ。今回は久しぶりの再会との事でいとこ同士の会食とした。
「久しぶりだね、ハート。おお、相変わらず、美しいな。嫁に出したのは間違いだったかもしれないな」
シオンは久しぶりに会ったハートを大げさに褒めた。
「まあ、ありがとうございます」
ハートはにこりと笑った。
「そうだ、カイン、あれを」
「うん、ハート、久しぶり。元気そうだね。これは今サウーザで流行っているアクセサリーだよ。よかったら使ってね」
ふたりはハートに贈り物をした。小さな長方形の箱をハートに渡した。ハートは箱の蓋を開けるとそこには大きなダイヤの石が付いた付与付きのネックレスが入っていた。こんな大きな宝石が付いたアクセサリーが貴族であろうと流行るはずがない。
「まあ、ありがとうございます」
ハートは入れ物ごとメイドに渡すとシオンとカインに向かって「お座りください」と言った。
なにかピリッと空気になった事を感じ取ってはいたがシオンとカインはそれがなんだか分からないようだった。
ふたりはフィロデンと挨拶を交わし、席に着いた。終始和やかなムードであるものの少々の違和感があった。それはいつも優しくにこやかなハートがなぜか氷の女王のような笑みを浮かべているからだ。高価な土産は渡したし、褒めもした。なにか気に障っているかシオンとカインには分からない。
「ハート、ローズが色々と済まなかったね、いつまでも君に甘えてばかりいるようだ」
シオンは自分の妹なので謝っているフリをする。でも心の中でハートにもっとしっかり管理をしてほしいと願っている言葉だ。
「ええ、本当にいつまでも子供のように。いい機会だからシオンやカインからきちんと言い聞かせてほしいわ」
予想外の言葉にシオンとカインの手が止まる。
「そ、それは済まなかった。フィロデン殿も申し訳ございません」
フィロデンはワインを一口飲むとちょっと不機嫌そうにシオンを見た。
「こう言ってなんですが…ローズ様は一国の姫としての立場をまったくご理解していないのでは?サウーザともあろう大国の姫があれでは…どういう教育をされたのか…それにいずれこの国の王妃になられる方、こちらでも妃教育を施そうとしているのですが聞き入れてもらえません」
「…」
「実を言うと王も王妃も、これでは王太子に王位を委ねる事は出来ないと言っています。サウーザの姫ならばと最初は大変喜んでいたのですがね…はあ、、あ、失礼した」
「いえ、こちらもローズには昔から困っていたが未だにそのような…本当に申し訳ございません」
「いえ、私どもは小国、サウーザに比べると余裕がないのもあるのです。姫にはここでの生活はやっていけないのではと…」
「そ、そんな事はない、ローズはこの国を大変気に入っている。この国には素晴らしい発明があるではないですか」
「しかし気候の変化も激しいですし島国で田舎です。一度国に戻られてはどうかと…」
「そ、それは…」
「いえ、ここだけの話です。親戚同士の話です。この話は持ち帰って頂いて結構です。しかし御父上としっかりと話し合いをして頂きたい。私どもはサウーザに支援も恩もない。これ以上我が儘妃を野放しには出来ません。ひどい言い方になってしまいましたが、私どもも国を支える立場ですから、きちんとこちらの要望をお伝えせねばと思いましてね」
「まったく、その通りです。しかし今回は支援すると言う事でこちらに来ましたが?」
シオンは負けまいと優位の立場がこちらにある事を示す。
「は?ルイ殿の宝石を返しに来ただけでは?宝石の事で恩を売る形にしたいのかもしれませんが、そもそもあれはルイ殿が持っていたもの。そうでなければ、かの国の事をおしゃっられている?それならば、かの国の住民に恩をお売りください。我が国は関係ありません。それに荒れ地の人間が不足していたのでしょう?いい話があったと来たのではないですか?」
フィロデンはワインを飲み干し、ゆっくりとシオンに目をやった。
「…さすがです、そう通りですよ」
「兄上…」
「わかりました。ローズにはしっかりと言い聞かせます。そしてこれが最後とも国に出戻っても荒れ地に行かせます。我が儘はもう言わせません」
「お願いしますよ。少々遅い決断ですが…」
「…」
シオンもカインもフィロデンにはなにも言い返せなかった。あんな姫を押し付けたのが大国サウーザの失態なのだ。その補填をハートにさせようとしたが、ハートの夫の方が一枚上手の様だった。
食事が済み、少しの談笑をした後、お開きとなった。
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