第48話 女子会になりました

 ルイはその日は一日中図書館いた。ノーズレスクとピティナスピリツァ王国の歴史を読み漁った。ピティナスピリツァ王国はお伽話程度の話しかなくなにも分からなかった。しかし、ノーズレスクの事は少々解明出来た。

 ピティナスピリツァ王国と今繋がっているのはあのキャラハン公爵だろう。ノーズレクスの王族すらも、もしかしたら知らないのかもしれない。


 キャラハン公爵の顔を見ることが出来てラッキーだった。これは大きな手掛かりだ。


 時刻はすでに夕暮れに近い、ルイはお昼も食べずにいた。お腹が空いた。帰って夕食だ。そして明日はロザージュと密会だ。など考えながらルイは図書館を後にする。


 その帰り道、モナルダとラグ爺に話を聞いてみる。

「モナルダ、炎の聖杯って知ってる?」

『もちろんよ、聖杯はいつの頃から私が守っていたわ。そして、いつの頃からその聖杯はなくなった』

「え?なくなった?やばくない!?」

『なにが?なくなったのは仕方ないでしょ?』

「え、でもなくしたら怒られない?」

『誰に?』

「え」

『誰に怒られるの?』

「えっと、、神様?」

『カミサマ?カミノアの兄弟かなにか?』

「ちがう…けど」

『僕に兄妹はいないよ』

「じゃあ聖杯ってなに?」

『あれは炎を纏っている杯よ。永遠に火を絶やさないの』

「へぇ…すごい、え?それだけ?」

『そうよ』

「なんで守ってたの?」

『火が大切だからじゃない?でも今は簡単に火を起こす事が出来るから大切ではなくなった。だから杯はなくなったのよ』

「…」

 モナルダは当たり前だと言わんばかりだが…どこに行ったんだろう。

「虹の橋でその杯の所にはいけないの?」

『何度かいった事があるけどあの国が浮いてからはいけなくなったわ』

「なんで?」

『わからないわ』


「そう…えっと、、モナルダって風の神なの?」

『カミ?』

「えっと、風の属性?」

『違うわ』

「じゃあなに?」

『属性でいったら、火じゃない?火を守っていたし、しようと思えば杯から炎を取り出して火を出せるし』

「え!火を取り出せる?すごい事が出来るのね。ラグ爺の属性は?」

『わしか?わしは風の属性じゃな』

「ラグ爺が風なのね。書物にはモナルダとラグ爺が反対の属性だったわ」

『人は間違うから』

「そ、…ね」

 人は間違う…まさにだわ…

「杯から火を取り出せるの?」

『出せるわよ、だからどっかにはあるのよ』

「探さないの?」

『なんで?』

「…」

 そう、なんで探すのか。火は取り出せるのだ。捜す必要がモナルダにはない。人間だけよね、所有したいと思うのは…お腹空いたわ。早く宿に戻ろう。



 翌日の朝、ルイは宿を出た。公爵様が連れて来たとはいえ、随分よくしてくれた。ルイは街を歩きながら色々回っていた。名物の水の宿があるようだ。外観は普通の建物だが中に入ると色んな物が水で出来ていて夏になると気持ちがいいらしい。寒い時期には温かい水のベッドになるらしい。


 お昼が過ぎて時間になり、ロザージュと待ち合わせの地下の喫茶店に行く。一応、カミノアにかの国の人はいるかと聞いてみた。

『さぁ、どうだろう?』

「え?分かるって言ってたじゃない」

『え?かの国が来たら分かるって言ったんだよ』

 かの国の人たちではない。

「そんなの私でも分かるわよ…」

 がーーーーん、とカミノアは凹んだ。

『まあ、大丈夫じゃない』

 モナルダは言う。

 この三体は何があっても大丈夫なのだろうが、私は大丈夫じゃないんだけど…


 ルイは警戒しているのが自分だけなのでバカらしくなった。喫茶店の扉を開くとロザージュの姿が見えた。可愛く手を振っている。ロザージュはもちろんひとりだ。


「監視されているって言ってたでしょ?大丈夫だった?」

「ああ、だからビクビクしてたのね。監視って言っても毎日ビタッとくっ付いているわけではないわ。どこに住んでいるとか仕事をやめて逃亡してないか、とかよ」

「なんだ、監視って言葉使わないでよ」

 ほっとした。どうやらなにかの舞台のセリフだったようだ。


「この間は聞くのを忘れたんだけど、どこの宿に泊まっているの?」

 同じことをルイも聞きたかったが先に言われてしまった。

「門の近くにある角にある大きな宿よ。ロザ…」

「え!?あんな高級な宿に泊まっているの!おお、ルイ。あなたお金は大丈夫なの?ルイはお嬢様で働いたことがないからお金の使い方が分かってないのでは?心配よぉもっと、、」

 ロザージュはまたしても舞台女優のようなオーバーリアクションをした。

「ロザージュ、大丈夫よ。そこの宿代は偶然居合わせた公爵様が支払ってくれたわ。今日は手頃な宿にするつもりだから安心して」

 ルイはロザージュの言葉を遮った。

「公爵様ってキャラハン公爵でしょ?王都に来た若者に振舞うって聞いたことがあるけど本当だったのね」

「それより、ロザージュの事聞かせて。今はノーズレスクで暮らしてるの?」


「住まいはパルドブロムで祖国の荷渡しをしているの。ノーズレクスにはたまに仕事で来るくらい。私は今は休暇中なの一ケ月はあるわ。まだ十日目よ。だから大丈夫。でももう辞めたいわ。結婚もしたいし両親からも帰ってこいと言われているし」

 ロザージュは溜息を吐く。


「パルドブロムで仕事をしているのね。」

「…ええ、でも荷渡しなんてホコリまみれだし、姉と叔母の事を調べたら帰るつもりだったし」

「ご両親はよく反対しなかったわね」

「まぁ、私が外の世界に憧れていたし、母を説得したの。姉の事を調べるからって。母はずっと病んでたわ。姉はそれはそれは器量良しだったから、私は幼く覚えてないけど…。こっちで亡くなっているのがはっきりすれば母も踏ん切りが付くかなってね」

「運が悪かっただけでは親は納得しないわよね」


「今は虹の橋に近くの宿に泊ってる。ルイも私の宿の近くにしたら?」

「同じ宿ではだめなの?」

「そんなの面白くないじゃない」

「面白くないって…」


 動物たちの事もあるのでペットOKの宿を探した。運よくロザージュの宿から徒歩十分の所に見つかった。でもやはり会うのは一日置きでこの喫茶店になった。夕食は共にはしなかった。ふたりでいるのがバレるからだそうだ。ロザージュはどんな設定の舞台を見ているのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る