第6話 救出願います
この国は世界一の大国だ。人口も毎年多くなり、他国からの移住先としても人気の地になりつつある。それなのに未だに若い女性が連れ去られ売られる事件が後を絶たない。その女たちは娼婦館に売られるか貴族に買われるかするらしいのだ。貴族たちにも売られた女を買うと罪に問われるがそもそも露見しない。
取り締まってもその網をくぐり抜けて、また事件が発生する。怪しい商人からワイロを貰い野盗を門に入れるバカも後を絶たない。その繰り返しだった。
その日、俺は夜勤で門を閉めるよう指示を出していた。
「おい、そろそろ時間だ。閉めるぞ」
「おお、…ん、ちょっと待て。なんか場違いな女が走ってくる」
「は?場違いな女ってなんだ」
もうひとりの門番に門を閉めるよう声を掛けた時に一人の女が走ってくるのが見えた。汚れてはいるがキレイな異国のドレスを着ている。しかも、真っ赤な瞳と髪が印象的な美人だ。
「はあはあ、助けてください」
女は息を切らし、振り返りながら走ってきて門の手前で倒れこんだ。
「大丈夫か!」
俺は女の腕を取り門の待合室に通した。水を飲ませイスに座られて落ち着かせた。
「どうしました。話を聞きましょう。私はここアルベルスの門番でチーム班長です。どうしたのです?」
女は荷物も持っておらず、とてもこの恰好で砂漠を超えて来たとは思えなかった。
「…わ、私は攫われて…私だけ隙をみて逃げて来ました。他にもいました。森の中の岩場に…」
それだけ聞くとすぐに俺は動いた。待合室から飛び出し、もうひとりの門番に兵士に連絡するように指示を出しすぐに女がいる待合室に戻った。
「もっと、詳しい話を!」
女に詳しい話を聞かなけれなならない。またもや女売買だ。
その日の夜に屯っていた男たちは捕らえれた。その男たちは若い女性を他の国から連れ去りこのアルベルスの貴族たちに売りに来ていた。兵士や国の騎士にも連絡が行き総動員で野盗を捕らえる事が出来た。騎士が来たことで貴族の誘導により野盗が逃がされるかもとヒヤヒヤしたがそんな素振りを見せるものはいなかった。まだ腐っていない貴族もいるようだ。
今回は門に入る前に捕らえることが出来たので腐った貴族は手出し出来ない。変に出張ってくれば自分が黒幕だと言っているようなものだ。トカゲのしっぽ切りではあるのだろうが、それでも今回女性たちを救う事が出来たのはよかったことだろう。あの女は近くの宿に泊まっている。朝にもう一度門に来て貰う手筈になっている。
次の日の朝、女は言う通りに門に来た。昨日は豪華なドレスを着ていたが近くの古着屋に用意してもらい、この国の衣服を渡していた。その服を着て門に現れた。美人はどんな格好でも美人だなと思う。そして、お礼にこの女を無事に故郷の国まで送り届けなければならないだろう。
「…あの、もう故郷には戻りたくはありません。この国においてもらえないでしょうか?」
「家に帰りたくないのか?」
「はい、売られたようなものなので…」
「しかし、一度は戻らないと身分証明も出来ないだろう?」
攫われたのではなかったのか…
「そうなのですか…」
「故郷を言わないつもりか?」
「はい」
困った…俺は美人に弱いのだ。
攫われた女性たちは二十数名おり、あの岩場以外にも隠していた。その攫われた女たちの出身地は皆バラバラで攫われた人の顔などはあまり覚えておらず、移動の際には目隠しをされていたという。助けを求めてきたこの女のことを覚えている人もいなかった。一人ぐらい覚えている人間がいてもいいのではないかと思ったが、助けを求めに来て野盗を捕らえられたのだ。なにを疑うことがあるのか…。
野盗の中には懸賞金に掛けられていた奴もいた。あの女にはすべてではないが懸賞金が支払われることになった。その懸賞金で住民権を購入することが出来たようだ。
これでサウーザ王国の住人だ。
女は、ルイボスと名乗った。金持ちらしくない、しかも変な名前だ。元の名前を変えたのだろう。売られたと言っていたからな。住民権を購入しても懸賞金はまだ残っているようで、昨夜の宿に泊まるという。なんとなく気になり翌朝、宿に向かった。すでにルイボスは宿を出ていた。どうやら入れ違ったようだった。それからあの女がどうなったかは分からない。
住民権はサウーザ王国に移住するための身分証明証になる。外から来たものや生い立ちを隠したい者だとかが高い金を支払い、住民権を購入する。森や山などから来たものなどは元々身分証明になるものは持ち合わせていない人も多いのだ。
他の攫われた女たちは故郷の国に戻る手配をした。あの女だけ行方が分からない。みんな帰りたいと願う者が多かった。売られたと言っていたから帰る所がないのだろうか…もう一度会いたかったがもう会う事もないだろう。
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