157.


(一度冷静に考えよう。俺は何をした)


 眼の前の女性二人を放置し、挙げ句に真隣の鈴木すらも忘れて考え込んだ千田は、自分が何をしてしまったのか考えていた。


(どう考えてもわからん。要望も出してないし、何故だ…)

「あの、何かしてしまいましたか?」


「そのっ…」

「と…」


 分からなければ直接聞く事を躊躇わなかった千田は、二人が更に萎縮する姿を目視するまでその判断が間違っていた事にすら気づいていなかった。


「千田さん、彼女達に何したんですか」

「それが分からない」


 声量を抑えて話しかけて来た鈴木に、千田も耳打ちする様に手で口を隠して話すも、本当に二人の行動理由など分かっていなかった。




「私、あの人おかしいと思います」


「やっと気づいたの?まだまだね」


 離れた場所で呟いた白浜に、同調する訳でもない望奈が、その鈍感さを指摘するかの様に、微笑みながら返していた。


「ひょぇ!?私、劣ってるんですかッ!?」


 その場に望奈さえ居れば、他を気にしない自分勝手な白浜は、誰よりも大きな声で明るく騒いでいた。


「少しは静かにしなさい」


「え…何で、ですか?」


 その言葉を返された瞬間、望奈を含め聞いていた者は、ある部分において千田と白浜は、同類である事を察したのだった。


「何でもないわ。向こうに行きましょうか」


「はいっ」


 千田と鈴木が悩み、東城姉妹が居心地の悪そうな立ち位置で佇む場所に、二人が移動すると。


 望奈を見た東城姉妹は目力で助けを求め、千田は困惑した面持で見つめ、鈴木だけが変わらず東城姉妹を見ていた。


「すごい状況ね」

「それ程でも」


 流れる様に千田が言葉を返し、


「少しも褒めてないわよ」

「はい…」


 即座に否定された形で、千田は落ち込んだ様に首に手を当て、首を傾げていた。


「すみません。緋彩さん、千田さん…」


「はい」


 東城姉が、余計な言葉は言わぬ様気おつけながら、ゆっくりと話し出していた。


「私と、雪の二人、で、混乱はどうにか収まったのですが、これからの事が分からなくて…」


「ぁ…」

「そうね。元々その事についての話し合いだったのだから、そうなるわよね」


「はい…すみません」


(すっかり忘れてたけど、そうだったな。元はと言えばこのお馬鹿姉妹が喧嘩して、それが長引いてたら騒動が起きたんだよな)


「取り敢えず、集まった人達は一旦定位置にでも、戻って頂きたいですけど。東城さん、あの人達からまたお二人が目を離しても、本当に大丈夫だと言い切れますか?」


「恐らくは、大丈夫だと、思います…」


 最後まで煮え切らない声色で話した優花だったが、直後から現れた悪寒を感じ取っていた。


(本当に協力なんて必要なのだろうか。彼等が束になったとして、それはプラスに働くのか?今の不信感を互いに抱いてる状態なら、必要ない、のか…)


「大丈夫だから、皆を助けてよ。お願い」


 優花とは違い、ハッキリと断言した雪は、自然と笑みを浮かべ手を合わせて頼んでいた。


(その根拠は何処にあるんだ?なんて言ったら、それこそ怯えられそうだし。望奈さんに怒られそうだな。今は黙って女性の言う事を信じるべきなのか。でも、これで信じたら雪の事は信じるんだとか、また理解に苦しむ発言を周りにされるのではないだろうか、なら結局どうしたら良いんだ…)


「とにかく、今回はまだ時間がある方よ。一回バラして明日の朝、打ち合わせするのが良いんじゃない?」

 

 望奈のその言葉を聞いた千田は、一番に食いついていた。


「そうですね。そちらの事は東城さん達に一度お任せ致します。それに伴い一つお願いがあるのですが良いですか?」


「はい…何でしょうか」


 千田に頼まれるとあって、不安を隠せない優花が、慎重に伺っていた。


「そんな物騒な事じゃないですよ。ただ明日の朝までに、パーティー単位での編成とそれに準じた指揮系統の統一をお願いします。朝話して決まった事を、まともに実行出来る人が居ないんじゃそれこそ、邪魔でしかありませんから」


「わかりました…」


「千田さん。それ僕も手伝って来て良いですか?その方が、両陣営の人員の数や大まかな配置なども分かると思いますので」


 東城が返事をしたのと同時に、横に居た鈴木が会話に割って入り、自ら東城姉妹の手伝いを名乗り出ていた。


「私としては有り難いのですが」

「えっ、何手伝ってくれるの!?」


(まぁ一人ぐらい送ってた方が後々楽か)


「鈴木さん、申し訳ないですがお二人を手伝って上げてください。望奈さんそれで大丈夫ですよね?」


「ええ、問題ないわよ」


「だそうです。それと時葉さんも、一緒に連れて行って下さい。怪我の治療をした彼女が居た方が鈴木さんも動きやすいと思いますし、あの人は組織図に自分らよりは詳しいプロなので」


「そうやって、貴方また、人に仕事押し付けて無い?」


「適材適所です」


「物は言いようね」


「あの……こちらとしてはとても嬉しいのですが、良いのですか?そちらだって色々とやる事があったり――」


「良いのよ。現状で見たら、私達の方は安定してるものよ」


 そう言って周りを見た望奈だったが、直ぐに視線を東城姉妹に戻していた。


「時葉さんには、自分が話しておくので、その後は鈴木さんと東城さん方は、一緒に行動をお願いします」


「有難うございます」


「良いんですよ、今は」


 東城姉の礼を軽く受け取った千田は、大した言葉も話さないまま、時葉が居る方に一人で歩いていた。





 

















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