158.


「千田さん、どうかされましたか?」


 怪我人の手当をしていた時葉が、近くにいた千田に気づき話しかけていたが、次から次に手際よく手当を行う時葉を、千田は一分近く見ていた。


「少しよろし良いですか?この後の事で」


 一度だけ目を見開いた時葉がゆっくりと瞼を動かし、返事をしていた。


「分かりました。けど後少しだけ待って頂けますか?」


「構いませんよ、ゆっくりで」


「有難うございます」


 返事を終えた時葉が手当に戻り、その手際の良さを千田は何か得られる部分がないか静かに見ていたのだった。


(訓練と実践は違うと良く聞くが、手際が良すぎないか?前の戦いもあの後意識が無かった俺は見てないけど、きっと時葉さんが率先してたんだろうな……)


「前の…」


(そう言えば、前のあの戦いでMVPとか言われてたな。ロクに確認すらしてないし、いや。一度確認しようとしたら電気が暴走したのが悪い、おかげで隠れる始末だったしな……)


「良し」

(ステータス・実績)


 視線を時葉に一度向けた千田が、まだ時間がかかりそうな事を見て、ステータス画面とそのMVPが表示されてる場所を開いていた。


(これの詳細を押してっと…)


 ≪ワールドゲームのMVP1stを確認≫

 ≪獲得する職業を一つ選んで下さい≫

 ≪尚既に選ばれた職業は、所有者が居る限り選択不可です≫


『選択可』

【賢者】【聖者】【聖騎士】【神官】

【付与者】【預言者】【執行者】

【守護従者】【破壊従者】【傍近者】【俯瞰者】


『選択不可』

【聖女】

【神託の巫女】


『取得済』

【勇者】【召喚者】【戦乙女】


「うわぁぁ」

(勇者が既に選ばれてるよ、凄いなおいっ。俺なら絶対に選ばん)


 漏れ出た声と共に、勇者が選ばれてる事に対して、その者に期待したい気持ちを吐き捨てていた。


(まぁ、減り具合的にトップしか選べないのなら。それでいて勇者を取る奴だ、俺と違って責任感が強いんだろうな、そんな皆の為にな精神はないや)


「さてと」

(破壊は周りを巻き込みそうだし、付与は自分が強くなれないのは良くない、聖者、聖騎士、神官は俺の戦い方と合わない気がする。以下変なの消したら、守護か賢者しか無いのだが、賢者って魔法増えて強そうだけど、攻撃に困って無いし、闇雲に攻撃が増えても意味無いんだよな。どちらかと言うと守りだ…)


 ≪よろしいですか?≫


『Yes』


 ≪守護従者を獲得致しました≫

 ≪職業欄から選択出来ます≫

 ≪第Ⅴ職業・防士を守護従者に変更しました≫

 ≪職業補正によりステータスが変化します≫

 ≪ステータスにVIT+4・RES+2加算されます≫

 ≪スキル・バリアフィールド・庇護者指定・庇護者代わりを獲得しました≫

 ≪パッシブスキル・庇護者追跡を獲得しました≫


(予想以上にVIT系が上がったのは良い。けど、扱いずらそうなスキルを手に入れたな…)


 スキル項目に目を向けた千田が、苦笑しながら手を止め立っていると、丁度そこへ、時葉が戻って来ていた。


「今は大丈夫ですか?どうやらステぃタスを操作している、ご様子ですが」


 時葉からぎこちない言葉が聞こえ、やや苦笑しつつも、先程よりはかなり明るさが混じっていた。


「はい、大丈夫ですよ。丁度一段落しましたので」


「流石ですね。私は一度考え始めたら、勝手が分からず長い間悩んでしまうのに」


「悩むのは良い事だと思いますよ、この手のステータスは結局自分で考えないと、上手く使えませんから。例え人の真似をしても、ゲームならまだしも、今は運動能力や立ち向かう覚悟も関わってしまうので、全て真似というのは破滅の道ですよ」


(まぁ、一部例外もありそうだけど)


「今度、お時間ある時にで構いません。相談に乗って頂けますか?今回は厳しいと思います故」


(出来れば、遠慮願いたい。人のなんて考えても責任持てないし、俺は異端児だぞ、常識なんて二の次だ)


「えぇ自分何かで良ければ構いませんよ、ご期待に応えられるかは、分かりませんが」


 千田は明確に否定はせず、やんわりと断ったつもりだったが、


「是非お願いしますね」


 妙に乗り気な時葉には、伝わらないでいた。


「あぁそうだ、時葉さん。実はこの後の事でお願いがあるのですが」


「私はこのまま、東城さんと行動すれば、問題ないでしょうか?」


(話す前に分かってらっしゃる、助かる)


「はい、鈴木さんも一緒なので、お二人でパーティー単位の構成と、それと――」


畏まりました。任せて下さい」


 言葉の途中だったのにも関わらず、既に時葉は了承していた。


「ではお願いしますね」


 言わんとした事を理解したのかは定かでは無いものの、それ以上千田が押し付ける事は無く、自身としても分かってないのならそれで良いとさえ、思っていた。


(過渡な期待は良くないし、時葉さんなら出来る範囲でやってくれるだろ、それで結果が良ければ、それで良い)


「そちらの事はお任せ致します」


「ぁ、え…」


 微笑んだ時葉に、頼んだ事と同等か、それ以上の厄介事を押し付けられた千田が固まっている間に、時葉はその場から姿を消していたのだった。


(マジか……)






 

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