156.


 その結末を、周囲の者が静寂と共に見届け。


 鷺森を失い。残された者達と、鷺森を討ったからと戦闘が終わるか分からない友宏達は、次にどう動くかを考えながらその一時を、ゆっくりと生きていた。


(これからの事後処理の方が面倒だな。ここは東城姉妹に頑張ってもらう他ないか)


「東城優花さん、直ぐに周りの人達は纏めて下さい。それぐらい出来ますよね?」


「はい…」


 不気味に微笑んでいる千田の表情が、東城姉に選択の余地など与えず強制的に応じさせていた。


「言い忘れてましたが、お二人が掌握出来ないのでしたら、不穏分子は片付けますから」


(背中から突かれる程厄介な事もないしな)


「可能な限り囲い込みますっ。ほら雪行くわよ、手伝って」


「う、うんっ」


 慌ただしく走って行く二人を見ながら、その頼りない背中に不安を抱くも、千田は任せることにして視線を外していた。


「時葉さん、怪我人の手当をお願いします。一応敵だと思って警戒はして下さい」


「わかりました」


 直ぐにそう答えた時葉だったが、行動には移らず千田をじっと見続け、それに気づいた千田が言葉を投げかけていた。


「どうかしましたか?」


「私が対処するべき事案だったと、今更ながらに悔い、どう謝罪を…」


「要救助者の手当こそ、時葉さんの仕事ですよ。自分はそっちに関しては疎いので、頼りにしてますよ。なので、謝罪よりも今は行って下さい」


「わかりました。この話はいずれ」


「はい」


 時葉が居なくなったその場所で、息を吐いた千田は暫くの間下を向いていた。


(別に必要ないんだけどな…)



――

―――

――



 ワールドゲーム内の北側、その酷く泥濘るんだ土と、視界を遮る霧が満ちた墓地を無数の影が蠢き、重なり合った軽い音が絶え間く鳴り響いていた。


「オロカナモノダ、ニンゲンドモヨ」


 人一人を飲み込める大きさの顎を持つ頭蓋骨が動き、空気を切る掠れた声が発せられていた。


 何万という白基調だった筈の全身骨格は汚れ、人と大差ないスケルトンの群れと共に、辺りの木々よりも数え切れない骨達が盛り上がり、自重で巨大に広がったその塊は動き、南に向かって進み。


 その盛り上がった塊の上に、大きな頭蓋骨だけが突起した形で居座り、その存在はゆっくりと周囲を飲み込みながら動いていた。


「ナカマワレトハ、ジツニ滑稽ナ」


 一度動けば木々や建物を押し潰しながら進み、骨が磨り減り、砕ければ、周囲を取り囲むスケルトンがその身を山に押し付け、分別した骨骨が山の一部となっていた。


「キサマラハサキニイキ、ニンゲン、ト、ケモノヲ、コロセ」


「カッ」

「「カッカッ」」



 それぞれ異なる姿に衣服や防具を身に付けた三体の骸骨が、骨を叩き合わせた様な声で返事をし、それが終わると姿を消していた。


「ワレラハ」


「ワレラガ、イクコロニハ、オワルデアロウ」



 鎧で身を包んだ骸骨は、山成の姿をした骸骨の上で剣を傾斜に突き立て、仁王立ちでその場に留まっていた。


「タノシメ ソウダ センダ カ…」




――

―――

――




 最も南に位置する森の中を、軽快に長い体を捻らせながら進むウルフと、その周囲を取り囲む大小様々なウルフが森を移動していた。


「ヴヴルゥゥ」


 中央のウルフが唸っては、それに合わせゆっくりと森の木々が動き。阻んでいた場所が拓け道が広くなり、動いた木々は一匹の大型ウルフの死骸がある場所に向かって、動いていた。


「ウォォオオオオオオオオオンッ」


 やがて目的の場所に辿り着くと、中央のウルフが吠え。


 それに合わせて動いた周囲のウルフが、今度は死骸の周りを取り囲み。何度も何度も空に向かって遠吠えを繰り返していた。


 近づいていた一匹のウルフが、その場を離れるまで。





――

―――

――




「望奈さん、大丈夫ですか?」


「 何が?怪我はしてないわよ」


 望奈からの返答は素早く返され、心配してた筈の千田が僅かに呆気にとられていた。


「貴方の方こそ、大丈夫なの?」


「別に怪我はしてませんよ?」


 意図的に返したつもりは無くとも、似た様な返事をされた望奈が眉をひそめ、ジト目を千田に向けていた。


「すみません。けど、大丈夫ですから」


「なら、私も大丈夫よ」


(なら?俺が大丈夫なら、大丈夫なのか?)


 会話の意図を見失った千田が勝手に納得し、その視線を周囲に向けるも、返ってくるのは嫌悪と憎悪に満ちた視線ばかりで、どれも好意的なものは一つ足りともなかった。


(そりゃ、殺人者の扱いはこんなものか。それにしても時葉さんには感謝だな)


 怪我を負った者達の手当を時葉が行った事で、千田以外の者に、直接的な悪意を向ける者は居ないと言っても差し支えない状況にまで落ち着いていた。


 それも時葉だけでなく、この周囲には居なかった東城派の人を集め、離反を起こした者達の掌握を急いだ、東城姉妹の努力の甲斐あっての事だった。


「凄いですね。彼女達は、あの状況からどう言いくるめたのか、気になります」


「内部分裂してしまったが、紛れもなくリーダーとして此処を回してたんだ、その事実があれば、表向きは纏まるさ」


 千田の近くに来た鈴木が呟きながら、東城姉妹に視線を向け、千田も話ながら見ていた事で、東城姉妹が二人に気づき向かって来ていた。


(何で来るんだよ…)


 千田だけは、内心面倒がっていたが、


「あの…千、田さん」


 そんな歯切れの悪い言い方で東城姉が話始め、その横に居る東城妹までもが、何処か上目遣いのまま怯えていた。

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