154.


「無益な争いは何も生まず。まだ続けますか」


 友宏を吹き飛ばした鷺森は落としていた腰を上げ、姿勢を戻したと思えば髭を触りながら笑みを浮かべ立っていた。


(近接分類のステータスだけなら俺は負けていても、友宏なら同程度か、勝っている可能性はあるが、望奈さん同様に元の技術が異常過ぎる)


「生きてはいるみたいよ、動けるかは別だけど」


 望奈が視線を向けていた先には、むき出しとなった鉄筋と、飛び散った破片の上に横たわる友宏に向かって走る時葉の姿が見えていた。


「そうですか、有難うございます」


「おや、無視ですか。これでも年配者なんですよ。少しは、労ってはどうですか」


 独り言だと思って無視していた千田だったが、鷺森の方から再び話しかけられ、それに応じる形で返していた。


「すみませんね。自分に話しかけてるとは思ってませんでしたよ。それに、続けるも何も、止めたら自分は死ぬだけですよね」


「何も殺すとは限りませんよ。大人しく従う事が条件ですが」


 僅かに首を傾けて話す鷺森を見て、千田が一考し終えていた。


「どうします、大人しく一緒に降参でもしますか?」


 意を決したら千田が、自身同様に狙われてる東城姉の方に振り向き、様子を伺っていた。


(数分前までの元気は無いか)


 酷く困惑しているのか、東城姉は呆然と立ち尽くしてゆっくりと千田を見ていた。


「わたしは…」


 小さな声が聴こえ始めたそばから、千田と望奈の間近から鷺森の声がしていた。


「言い忘れてましたが、彼女には死んでもらいます。一度実権を握った者は危険ですからね」


 千田が振り向く最中、既に視界には自身の頭部目掛けて打ち込まれるであろう手の平が、鷺森の傍らで構えられていた。


「止まれ」


 平手が打ち込まれる既の所で、無数に重なる半透明の壁が、鷺森の攻撃を受け止め激しい衝撃音と、壁が砕け散るが音が部屋中を満たしていた。


「――」

「―ッ⁉」


 千田が言葉を発する素振りとほぼ同時に、鷺森が跳躍した数歩で瞬く間に距離を置いて立っていた。


「私が知っている技とは違うようですね。どういった能力なのですか?」


「教える訳ないじゃないですか、仲間との秘匿事項ですよ」

(なるほど、ただのマジックバリアを違うスキルとして認識したんだ、やはり俺達よりスキルについて詳しいって事はなさそうだな。って言っても何十にも重ねてるのだから、違うと言えば言い切れる程には違う)


「とても残念ですが。片付けてから聞く他、ありませんね」


「おい、ちょッと待て。俺も混ぜろや」


「ちゃんと生きてたか」 

 

「勝手に殺すなッ、まだ戦える」


 そう口では言っている友宏だったが、口元の血を乱暴に拭き取った後を千田が見て、苦笑いを浮かべていた。


「何か言いたそうな顔だな。言っとくが、俺は戦うぞ」


「さっきも言っただろ、好きにしろ。俺も勝手にやるが」

(戦闘狂のバーサーカーを止めたって、まともに止まらないだろうからな)


 千田と友宏の二人が敵に向き直り。


「てな訳だからよ。受けた分、きっちり返させてもらうぜ」


「何度やっても、結果は変わりませんよ」


「そっくり返すぜ。お前が横たわる結果からは、どう足掻いても変えようねぇだろ」


 鷺森と友宏がほぼ同時に動き出し。

 接近した友宏の攻撃を鷺森は器用に剣の面を捉え流し。剣の柄から手を離せない友宏は身体を曲げて鷺森からの反撃を避けていた。


「よーし、焼き尽くしますか」


「仲間も巻き沿いな上に、此処には食料や水があるのに正気⁉」


(確かに、友宏は仕方ないとして。あの段ボール箱の山は貴重だな)


「駄目だからね、アレにはお菓子が入っているのよ!良い!?」


 近づいて来た武南と東城姉妹。


 そして姉は建物の被害や他の飲料や食べ物よりも、お菓子を強調しながらそこに立っていた。


「それと、武南は離脱するから」

 

「すみません。所用で行かねばならぬ故、失礼します」


 別に勝手に行ってくれても構わない千田だったが、軽く手で応え。それを見た武南が東城姉妹と目を合わせると、近く窓を身体で突き破りながら走って行った。


 出て行く武南を視認した鷺森だったが、ただ視認しただけで、逆にその隙を狙った攻撃を友宏が喰らい、後ろに飛び退き、近くに着地していた。


「あぁ、また良いやつ貰っちまった」


「じゃ俺達逃げるんで、後は東城さんに任せました」


「ちょッと何でよ、これから一緒に戦おうって流れでしょッ」

「本暁っち酷いッ。か弱い私を置いて行くなんてッ」


「おい、俺は逃げねぇぞ。良いの二回も食らって逃げれるかよ」


(結構真面目に言ってるんだけどな、メリットないし)


「そうですよ。逃げないで頂きたい。っと言っても逃げられないでしょうがね」


 鷺森が言い終わる頃には、目に見える窓の外を取り囲まれており。武南が破った場所からは、次々と人が入り込んでいた。


「こりゃぞろぞろとお出ましなこって」


「お前は、目の前の老兵だけで良い。望奈さんは後ろの皆を」


「言われなくても、そうするさ」


「分かったわ」


 広く散らばっていた人が建物の周囲に集まったのを見た千田が、友宏と望奈に短く言い残し。横に居る東城姉妹に身体を向けていた。


「それと東城さん。最後に聞くけど一緒に戦うって事は、一緒に奴らを殺すって事だけど、ちゃんと分かってる?」


(どっちが味方で、誰までが仲間なのか)


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