153.


「東城さん、これは?」


「私は何も知りません!勿論妹も関係ありませんッ」


 声量を抑えながら東城姉に話しかけた千田に対し、東城姉は声を張り上げ否定していた。


 千田が東城妹の方を向くと、既に首を左右に動かし姉にならって否定していた。


(ただの離反か…このタイミングとは、余程不満があったらしいな。どうせなら敵を倒した後に、俺達が居なくなってからでも良いだろうに)


「ちょっと不味いんじゃない」

「かなり」


 近寄ってきた望奈に千田真面目に答えるも、視線は老人に向けられており。周りに何度も視線を送る望奈とは重ならない。


「何で向こうさんは、あんなに殺気立ってるんですかね」

「そんなの私が聞きたいわよ。東城さん達は関与してないみたいだし、仲違い?」


「全くいい迷惑ですよ、こっちは…(人相手に、どれだけ戦えるかさえも分からないのに、いきなりだな)最初に囲まれた時みたく、分かりやすいシチュエーションが良かったですね」


「そうね、厳しいかも」


(まぁ変に動かれても困るし、座っててくれた方が楽か。それにしても出来れば戦いたくはないな)


「鷺森さん、これは一体どういう事ですか」


 話さない東城姉妹より先に一歩前に出た武南が、立ちながら自身の短い髭を触っている白髪の老人に向けて、訝しみながら話しかけていた。


「武南くん、君はこちらに来るんだ。君の戦闘能力はあって困りはしない」


 武南の疑問には答えようとすらしない、鷺森と呼ばれた老人は、ゆっくりとした口調で話しながら、武南に移動を促していた。


(話が合わないとは、これを言うのだろうか)

「勝手に、話を進めないでもらえますか?一応俺達も居ますよ」


 武南にも動く素振りはないまま、間を掴んだ千田が会話に割って入っていた。


「おっとこれは失礼致しました。千田 殿、貴女方もどうか、大人しくして頂けると助かるのですが」


「それは、其方次第では?」


「仰る通りですが、時間も無ければ。そこまでの余裕は無いのですよ」


「此方も浪費出来る時間はありませんよ。鷺森さんと呼ばせて頂きますが、そちらこそ分かっていますか?時間も無ければ余裕もない、この状況で、どう考えたらこのタイミングで騒動を起こす考えに至ったのですか」


「それが問題なのですよ。私共も誰も死にたくはありませんし。可能な限り大勢を生き残らせたいと考えています」


「そう仰るのなら、今のまま協力した方が良くありませんか?」


「えぇ可能な限り協力して頂きますよ。ただ優れた者が全権を握り、勝機を高めるだけの事、ですよ」


「私が来た時、そちらは東城さんが纏めていたと思うのですが、東城さんに不満が?それとも後から来た我々。いえ、私が信用なりませんか?」


「両方ですよ。だから、大人しくしなさい」


 千田と話していた鷺森の視線は、二人が言葉を交わす前からぶつかり合い、言葉を交わしてからはより一層険しく、鷺森から殺気が溢れ出ていた。


(男性に見られて嬉しくないが、てかあの老人、ずっと髭触ってるな。癖なのか)


 千田が鷺森を意識してから殆、右手で髭を触っている気がした千田だったが、直ぐに意識から外して注視していた。


「何だかよく分かんねぇけど、敵ってことで良いんだよな。それなら俺が斬って良いか?」


 隠すことのない笑みを浮かべていた友宏が歩き出し、既に取り出した大剣の切っ先を鷺森に向ける形で千田よりも前に立っていた。


「出来るなら、好きにしろ。ミスるなよ」


 友宏の提案を千田は止めもせずに、後押しする形で言葉を放っていた。


「おう。ってな訳で攻撃させてもらうぜ」


「ちょっと貴方達、勝手に話を――」


「悪りぃな。何処の誰だか分からねぇ奴に黙って従う気はねぇよ」


 望奈が一瞬止めに入るも、意思を固めた友宏がそれだけで止まる筈も無く。


「貴方も止めなさいよっ」 


 了承した千田にも止める様に促した時には、

(他だったら、止めたけど友宏だしな)

 友宏は前に、踏み込んでいた。

 

 いくら部屋が広くとも一瞬にして接近した友宏は、前に出した左足を僅かに踏み込ませ、右下に構えた剣を老人めがけて振り上げていた。


「ほぉぉ..なかなか」


 大剣が振り上げられるよりも早く鷺森が一歩後ろに飛び、切っ先から体一個分は距離を保ち口を開いていた。


「呑気に口開いてんじゃねぇえッ」


 振り上げた力が身体を踏み込んだ左足を僅かに浮き、

 そこから更に左足を深く踏み込ませた瞬間、剣を振り下ろすと同時に、軸足から解き放たれた右足で大きく前に踏み込んでいた。


 体一個半以上の距離を瞬く間に詰めた攻撃は、振り上げよりも更に速く、

 そして重さを増していた。


 余力を残さず振り下ろされた剣の軌道が変わる事はない。だからこそ、友宏は相手の意表を突き、最大限の剣速で振り下ろしていた。


「良き、動作でしたよ」

 しかしその攻撃を読んでいたのか、片足を動かしただけで横になった体に攻撃が当たる事はなく。


「ッ――」

 

 避ける動作から自然と腰を落としていた鷺森は、直角に曲げた右肘を体に付け。無防備となっていた友宏に向かって、勢い良く突き放たれた。


「ァ゙ァ゙ッ―」


 腹部に受けた手の平が深くめり込み、受け止めきれない力が友宏を後方に吹き飛ばしていた。


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