152.


「だから私は違うって‼」


 周りを囲まれた場所から、千田達と東城姉妹に武南は広い平屋の建物に移動し終え、話し合う中で東城憂花が変に声を荒げていた。


「なら他に誰が食べたの、この部屋の出入りは私とお姉ちゃんしか出来ないよね」


 これから差し迫る脅威の話しを道中も交わし、その際は千田も意識を向けていたものの、数十人が入れそうな大広間に入ってからは、まともに聞いていなかった。

 原因は全て、千田達に雪がペットボトルのお茶を渡そうと、無数に積まれた

 段ボールの上から別の箱を下ろし、雪がお菓子の箱の異常な軽さに気づいた事が引き金となっていた。


「何なんだ、あの姉妹は」


「飲み物を出そうとしてくれたまでは見繕っていたけど、もう私達を忘れて、素で姉妹喧嘩を繰り広げてるわね。それは置いといて有り難く飲み物は頂きましょ」


「そうですね、武南さん有難うございます」


 東城姉妹が言い争うを始めた直後、武南が人知れずお茶の入った段ボールを脇に抱え、雪に代わり千田達に無言で手渡していた。


 武南から一度視線を返された千田は、ペットボトルのキャップを開けてから微かに下唇をつけてから、飲み物を机に置いてから話し出していた。


「あの二人が居ない間に、こっちもどうするか決めよう」


「それって戻るか、戻らねぇって話しか?」


「敵がいつ来るかにもよるでしょ」


「それもそうだけど、あれ。今回って何時からでしたっけ…」


「明日の宵の口よ」


「望奈さん、それって何時のこと言ってます?」


「日暮れ時よ。だから日が落ちて直ぐ、だから。夜ね」


「夜か、最悪だな」


「だな。まだ早朝の方が俺は良かったぜ」


「こればっかりは仕方ない。なら俺達は此処で話を纏めて、早朝には一度戻るか。って言っても」


「彼女達、次第ね…」


 話しを聞いていた者全員が東城姉妹に、冷ややかな視線を向けるも二人がそれに気づき、言い争いを止めるなんて奇跡は、起きなかった。


「これはこれで休めるから良いか、次いつ休めるか決まってないし」


「最近やけに休んでねぇか?」


「言われてみれば確かに、、、って。元が余り休んでなかったから良いんだよ。いくらステータスがあっても身体を壊したら戦えなくなる」


「訛ったら意味ねぇけどな」


「今の内に休んでて良いわよ。戦闘始まったら、しっかり戦ってもらうから」


 優しさ半分と、別の含みを感じる言い方を望奈さんにされ。戸惑いながらも、有難く千田は受け取っていた。


「そういう事だ、休め」


 周りに居る他の者に届く声量でそう話した途端、今になって東城姉妹が返事をした。


「あら、休憩?」

「本暁っち達、休むの?」


 呑気な声と共に、呆れ果てた者達からは小さなため息が溢れていた。




「普通に考えて、戦力を分散させるのは微妙じゃねぇか?」


 東城姉妹が戻って来た直後に、姉妹を除いた全員が目配せでそれとなく意図を読み取り、姉妹喧嘩再発防止に気をつけながら話しをしていた。


「纏まってると守る側は楽だから俺は良いと思うけど、全滅する時は一瞬だからな。特に、俺等にはどうでも良い威力でも、広く放たれたら耐えられないLvが低い人は耐えられない」


 友宏の疑問に、千田が肯定しながらも起こり得る可能性について語り。仲間内で話していた千田と友宏を見た望奈が、東城姉妹に話を振っていた。


「東城さん達の方は、そういった非戦闘員の扱いはどうしてるんですか?」


「私達の方はその段階はわからないんです。今までは、敵が来ても周囲を守ってる日人が倒して、村の中にいれば基本安全なので、何処かの建物に集めた事はない、です」


 東城姉の優花が冷静に答えるその様子を、妹である雪を含め周りの面々も何処か緊張した面持ちで見ていた。

 

(まぁ、武南さんも含め三人とは言っても、明らかにこっちが多いもんな)


 次第に望奈が話しを進め始め。

 千田は、自身で話さなくても大丈夫と思った時には、呑気に周りに意識を向けながら周囲の観察をしていた。



「数から考えて、今回の戦いもやはり防戦一方になれば厳しいと考えます。なのでそちらとも基本的には協力しつつ、敵の頭を取りに行くという事で良いでしょうか?」


「はい。問題ありません。というか…」


「私達には、拒否権ないもんねぇ~お姉ちゃん」

 

「もお、雪は黙っててよ。話しがややこしくなるから」


「ややこしくなるって何よ!」


(何なんだこの姉妹は。てか、他のこいつら何だ…)

「はぁ」

 

 一人だけ周りに意識を向けていたからか、千田は他の誰かが気づくよりも先に、自身が居る建物の周囲に集まり始めた人に気づいていた。


「本暁っちが怒ってる」


「雪が絡むからでしょ、謝るのよ」


「お姉ちゃんが、でしょ」


 姉妹に呆れてない訳では無いが、千田の中でそれは優先順位としては後回しの部類であり、他の事に意識を割いていた千田の意識は屋外に向いていた。


「そこの姉妹、外の連中は何だ、盗み聞きにしては数が多いし。離れすぎだ」


「外?」

「ん?」


 東城姉妹が首を傾げながら首を動かしながら窓に向くも、見える位置に居ると言って無い千田からすれば、その行動を見て呆れていた。

 

「申し訳ありません、我々の仲間に囲まれてます」


 二人が理解するより先に、武南が謝りながら事実だけを口にしていた。


「どういう事ですか、東城さん。説明をお願いしたのですが」


「直ぐに、確認しにッ――」

「止せ」


 望奈さんの言葉に反応した東城姉が勢いよく立ち上がり、走り出そうとしていたその体は、武南が腕を掴んだことで止められていた。


「突然申し訳ありません、失礼致します皆様」


 突如として広い部屋の扉が開き、

 そこから入って来た老人の声が、静まり帰ったその空間を一度駆け巡り、間をおいてから再び全員の耳に声が届いていた。


「どうか、大人しく投降して下さい。でなければ殺す他、ありませんからね」


 聞き逃す筈のない状況で、現れた老人は躊躇なく、そう言い放っていた。

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