151.


 騒然とした場の中心に立つ千田は、ゆっくりと瞼を下ろし、視覚からの情報を遮断して考え込んでいた。


(俺が死ねば、他の連中も…)


 不気味に表情が動いた千田を近くで見た女性は、その様子に悪意を感じたのか、片足を地面に擦り着けながら後ろに動かしていた。


「あの」


「ぃッ―」


 千田が小さく出した声に反応した女性は、短い悲鳴を出しながら身を引いていた。


(さっきと明らかに違うんだけど、なんでだよ)


「あっ私、貴方の配下に選ばれたみたい」


「俺もだわ」


 後方から声が聞こえた千田は振り返り、望奈と友宏に目を向けるとその背後でも、小さく手を上げていた時葉が映り、他にも泉や鈴木だけでなく白浜までもが、頷いたり手を上げたりしていた。


(まさか…)

「すいません。まさかそちらも、俺の配下に選ばれたんですか?」


 再度後ろに向き直った千田は、先程と比べ物にならない人の悪い笑みを浮かべ、声色は変わらないまま女性に言葉を投げ掛けていた。


「………」

「あぁ、その様だ」


 女性が一向に答えないまま、隣に居た武南が答えてしまい。


「どうして言っちゃうのッ、あっ…」


 咄嗟に武南の肩に女性が手を置き止めに入るも、その慌てっぷりが女性自身も配下に入っていると、周りに教えているようなものだった。


(そういえば配下を確認、しろとか言って)


 配下の事を考えていた千田の目の前に、ステータス画面と類似した物が突如現れ、名前と詳細と書かれた文字が、ずらりと縦に並んで表示されていた。


(ステータスと同じで便利だな。緋彩望奈、大塚友宏、大塚優李、泉彩寧…鈴木……森田………東城雪、東城憂花、これか。雪で探して、同一名字を探せばあると思ったが、本当にあったわ)


東城とうじょう憂花ゆうかさんで、読み方あってますか?」


「どうしてっ、知って…」


 つい応じてしまった、憂花の顔色は真っ青になっていき、口元を隠した手は微かに震え、今にも倒れそうな程に身体から力が抜けていた。


(この詳細って)


 気楽に詳細項目を千田が指で触り、画面が切り替わるのを待つも、数秒経ってもそれが変わる事はなかった。


(なんだ、UIだけか)


「それで東城さんは、僕たちを地下牢に拘束するんでしたっけ?」


「それは…」


「無論だ」


「どうして勝手に言っちゃうのっ!」


 下を向きながら親指の爪を噛んだ憂花が考え込むも、横に居た武南が代わって答えた瞬間、顔を上げ声を上げていた。


「まって、今のは違うのっ」


「ならこの辺で、俺達を牢に入れる話は無しにして、手を組みませんか?」


 一歩前に出て距離を詰めた千田は、慌てて手を左右に動かし身振りを行う憂花に向けて、手の平を斜め上に向け手を前に出していた。


(最初で最後の譲歩だ、断れば…)


「良いのです、か?」


 反射的に途中まで伸ばした手を憂花が止め、怖気づきながらも、ゆっくりとした口調で再度確認していた。


「状況が変わったんです、そのままとは行きませんよ」


(片側だけならまだしも、二種族相手はどう考えても、俺達だけじゃ手に負えない。それは向こうだっていくら武南が強くても、数の前では限界がある筈だ)


「でしたら、手を組む方向で、お願いします」


 伸ばしていた手を憂花が掴み、それを見た周りの者達が構えていた弓や剣を下げ、殺気立っていた周囲の空気が僅かに柔いでいた。



 ――

 ――



 

「落ち着いて下さいッ!!」


「皆さん冷静に!冷静になって下さい」


「お願いですから下がってっ!」


 千田の人選によって残された、九藤、優李、上原の三人は、次から次に押し寄せてくる群衆に向けて、声を張り上げ叫び続けていた。


「何で、僕達しか居ない時に」


「仕方ないですよ、僕達でどうにかするしかないですね」


 九藤が泣き言をこぼすも、上原が受け止めながらも背中を押していた。


 一つ目のワールドゲームが脳に響くと同時に、避難所からは戸惑いの声が細々と上がり人は集まり始め、二度目でその不安は爆発し。経験した者もそうでない者が一斉に、九藤達の居る場所に押し寄せていた。


「落ち着きませんか?皆さん」


 低く透き通る声が流れ、聞いた者から静かに成り。一部が静まり返れば、それが連鎖し徐々に喧騒が落ち着きを見せていた。


 その様子を見た九藤が、訝しんだ目で声を発した森田に視線を向けるも、直ぐに目付きは変わり話していた。


「凄いですね」


「森田さんは、信頼されてますからね。任せとけば間違いないって感じですかね」


 群衆が静まり返ったタイミングで、優李が目立つ場所に立ち、大きく息を吸った後に話し出していた。


「皆さん、先程の話によれば含まれてる人の数は、此処に居る人々よりも多いです。勿論私の兄も含まれており。真実であるのなら、千田さんは確実に含まれてる事になります。ですから今は、落ち着いて下さい」


 沈黙が保たれた場に、優李の声だけが響き渡り。


 ゆっくりと長く話した事で、冷静に考える時間を得た人達は落ち着きを取り戻し、此処に居ても意味が無いと考えた人から、次第に足を動かし離れ始めていた。


「助かりました、有難うございます。僕一人でしたら解決出来なかったと思います」


「そんな事ないですよ。皆居たから場を保てたんです」


「恐縮です」


「それで九藤さん、そっちは大丈夫ですか?残ってる人からして、殆ど一人で行ってると思いますが」


 申し訳なさそうな表情をした優李が、遠慮しながらも話し掛けていた。


「優秀な人材を二人程見つけたので、今の所はまだ大丈夫です」


 苦笑を浮かべた九藤は、一考するも考え終えた後にお辞儀をしつつ断っていた。


「手が回らなくなったら、いつでも言ってください。上原さんにでも丸投げしちゃって良いので」


「僕ですか!?」


 場を和ませるためか、冗談だろう発言を優李は自然と放ち、歯を見せながら笑っていた。


「頑張って下さいよぉお、上原さんと森田さんには期待してますからっ」


「分かりました。程良く頑張ります」


「お願いします」


 場の収束を終えた三人と森田は、後で集まる事を決め。


 各々でその場所から離れ、立ち去っていた。





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