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「向こうの方がやる気じゃねぇか?」
「デフォで進んでるだけだろ、って言いたかったんだけどな…」
「どうした」
「俺ら…」
「私達周りから狙われてるわね」
割って入った望奈さんに先に言われ、言われたのならばと、言葉を追加していた。
「事を起こせば、俺ら以外全滅だからな」
左右に友宏と望奈さんが居る俺の立ち位置は、話し掛ける素振りで首を動かし、木の高い位置に居る者共を視界の端に入れられるが、この二人はそうもいかない。
「前後左右にか?」
「前以外には居る」
片面に少なくとも十人は居て、それが三方向となると、避けるか防ぎきれない者は、二度三度と、攻撃されている内に被弾してしまうだろう。
その中には俺も含まれてる訳だが、俺と違って多方向に自由展開する、ドクロンと一緒の泉さんが何なら一番安全かもしれない。
「そりゃ多いな、犠牲は?」
「本当にヤバい状態を除いて認めん」
誰がみすみす、経験値をくれてやるものか。
そもそも今回の進行には、戦える戦力の育成も含んでるんだぞ。それを失うのなら敵ではなく、こちら側に流れて貰わなければ損失が大き過ぎる。
「ヤバいってのは、誰のからだ」
「そうだな、白浜さんか鈴木さんからだ」
「おうって、向こうも終わったみてぇだな」
話していた武南が此方に向かって歩き出し、その背後には武南よりも体格が大柄な男と。年の近そうな女性はうっとりとした笑みを浮かべ、歩いていた。
武南がスポーツ選手よりの肉付きに対して、大柄な男は筋肉の突出が分かりやすく、何方かと言えばボディビルダーの様な男だった。
明らかに強そうな男二人に、比較的若者が多い俺達に対して、好きそうな奴は好きそうな女性で来たのは偶然か。向こうは見た目から入るタイプなのだろうか。
というか…
「私むりかも」
望奈さんが何を言わんとしてるか分かる、平和な時に街で見かけるなら良いが、戦闘が大前提の今は、外面を作ってそうな女性は無理だ。
「待たせたな」
「いえ、それで来いと言われたので来たのですが、取り敢えず話し合いで、情報共有でもしますか?」
「必要ないです」
近づいて来た女性が一歩前に出て、より近づいた事で目の横にある泣きぼくろが目に入るも。その見た目に反して、歯切れの良い口調で話していた。
そこはゆっくりと、話してほしかったなぁって…この人今なんて?情報共有しないん?
「あなた方には、地下牢にでも入って頂きます」
聞き間違いだろうか…
「すいません、今なんて言いました?」
「あら、お耳も遠いみたいですね。あなた方は地下牢に、入るとおっしゃいましたの」
聞き間違いじゃなかったわ。
「てめぇ舐めてんのか、あぁ?」
急に突っ掛かった友宏の口調は、街で肩をぶつけられたその道の者だった。しかもそれを女性相手に、遠慮なくやってるのだから尚凄い。
「舐めたくなんてありません。汚らわしいじゃありませんか」
「てっめぇえッ―」
「其処までだ、友宏」
「あぁ!?武南、オメェが来いって言ったんだろ、どうゆうこったぁ?!」
「そうですよ、武南さん。ご説明願えますよね?」
今にも掴みかけた友宏と女性の間に武南が入り込み、友宏を制止しているが、そもそも付いて来いと言ったのは、この人で幾ら何でもこのままでは理不尽過ぎる。
「俺は、死なれては困るから、付いて来いとしか言ってない」
「だから、付いて来た我々の待遇などは、一切考慮しないと?」
「そういう事だ」
武南がこう言うのなら仕方がない。
「それじゃ、帰ります」
「それは出来ない」
俺の発言は武南に否定され、
「大人しくなさるのなら、長生き出来ますよ」
剰え、武南の肩越しに女性が話し、目線も立場も、とことん上からの物言いに、想像を飛び越えていたので、俺は必死に笑いを抑えていた。
「情報共有も、自由も無いのに、更には帰さないと?」
「生きてるだけで、感謝したらどうですか?」
「俺達とやるつもりですか?」
「質問に質問で、返さないで下さい」
「そっくりそのまま、お返しします」
不毛な言葉の応酬が行われ。俺が一歩前に出ると、張り合った女性も前に出た事で、手を伸ばせば触れる距離に近づいていた。
「この距離なら、殺れるぞ」
「止めた方が賢明かと思われます。周りが見えませんか?」
女性の放った言葉に従って、俺は首を左右に動かしてからゆっくりと、再び女性の方に向き直し、目を合わせていた。
ドクロンバッグを前に構えた泉さんは可愛く。なんてどうでも良く、この人俺より背が高いんだけど、170はあるだろうか…目を下に向けると、ローファーが目に入り、負け惜しみながらも仕方ないと考えていた。
「先に配置するなんて、卑怯じゃ無いですか?」
「殺し合いに卑怯も正義もありません」
言質は取ったものの、その考え方が出来るとは思ってなかった為に、俺は心の中で素直にこの人の事を称賛していた。
「俺が他を捨てて、あんたを殺す事を選べば、あんたは死ぬ」
「出来るんですか?後ろの少女は間違いなく死にますよ?」
女性がその言葉を放った瞬間、武南ともう一人の男性の視線が泉さんに向き、目の前の女性は笑みを浮かべていた。
ヤバいちょろくて笑いそうなんだが、
「あれッ
そんな呑気な考えをしていると声が聴こえ、武南側の集団から一人の女性が走っている事に気がついたが、本暁って誰だって………俺か。
はぁ!?なんで俺の名前呼んでんだ!?
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