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「改めて順に、鈴木、白浜、時葉、泉、緋彩、大塚の友宏に、自分が千田です」


 多少時間はかかったものの、全員を集め終えた俺は、鈴木さんと白浜さんだけを集まった人混みから呼びつけ、二人を加えてもう一度紹介をしていた。


 覚えられる人を一人だけでも覚えてくれ、これを後何回か繰り返すから、一人ずつ覚えていく。俺ならこのやり方の方が助かるというものだ。


「武南だ」


「千田さん、今から武南さんが避難してる場所に、行くという認識であってますよね?」


 集まって直ぐに、端折って説明を行ったにも関わらず、鈴木さんには概ね伝わっており、話に耳を傾けたかすら怪しい、白浜さんとは大違いだった。


「はい。合ってます」


「話は済んだか?ならば行くぞ」


 待っていてくれたのか、俺と鈴木さんの言葉が途切れたタイミングで、そう言って歩き出した武南さんの歩幅は広く。普段から歩くのが遅い者は、多少離される度に小走りを挟んで進んでいた。


「シュヴァ…」

「何だ」

「危ねぇと思ったら斬るかんな」

「そうしてくれ」


「二人で何こそこそ話してるの?」


 武南さんとは自然と距離が開き、離れた状態で先頭を歩く俺と友宏の会話に、望奈さんが静かに割って入り、身体までも俺の隣から入り込ませていた。


「望奈さんも、もしもの時は…」

「その話ねっ、了解よ」


「話が早くて助かります」


 異常なまでに察しが良い、望奈さんが二つ返事で直ぐに返し、不必要に肩をぶつけてきたりと、さり気ない演技か本心からの行動が行われていた。


 取り敢えずはこのメンバーが知っていればそれで良い。時葉さんには俺から言うまでもないし、残りは知らない方が良い方向に動いてくれそうだ。


「でもそう思うのなら、戻れば良かったんじゃないの」


「距離が近いようで遠いですからね。それに九藤さんに優李さん、自衛隊員全員を連れて来るとかですが、それだと明らかにやる気満々じゃないですか」


「それで良いじゃない、下手に出るより飲み込む勢いは大切よ。貴方ならそうすると思ったんだけど、私の感も外れたわね」


 何故そうも自信ありげなのかが気になるも、自分の判断が間違ってるのかと思わされる。戻ってしまえば今日の安全性は上がるが、引き換えに明日以降の生存率は下がった筈だ。


 話通りにあのウルフが複数体居るのなら、更に高確率でその上の魔物が居ると考えるのが普通だ。それを野放しにも手に負えなく成り、他の者に任せてしまえば限られた経験値を奪われ、他の脅威に対処出来なく成ってしまう。


「望奈さんの感は外れてませんよ」

 

「外れてるじゃない、何なのよ」


 不服そうな望奈さんが言及するよりも先に、戦闘を歩いていた武南さんが止まり、立ったまま此方に身体を向けた事で、その先に何かあるのは明白だった。


「着いたぞ」


 深く考える事を止めた俺は、立ち止まった武南の元に行き、止まった場所の木々を境に広がる景色に、驚いていた。


 既に見た事のある二つの避難所の光景を思い浮かべても、明らかに乖離しており。目の前に広がっていたのは、丸太のままに使用された木の建物に加え、その大小様々な木の建物の間を流れる川に水車など、この場面だけ切り取って見れば、日本などとは到底思えないものだった。


「こりゃすげぇな」


 武南さんが一旦止まったタイミングで俺だけが速度を上げ、友宏達が着く頃には既に武南さんは進んでおり、この光景を見た人が次々に足を一旦止める中、


「こっちだ」


 無愛想ながらも、少し進んだ所からは、そんな止まっていた俺達を呼んでくれる声が聞こえていた。


「なぁ、友宏こんな凄い場所、一週間以内に造れると思うか?」


「普通は、無理だな」


 戦闘面だけで見ても武南さんは強く、その人が居る場所の仲間ならば、泉さん的な生産職の人間がLv10を超えれば可能なのかもしれない。


「これだけで来た価値はあったな」


「ならもう帰るか?」


「ばか言え。有益そうな情報が二つは確定で転がってんだぞ。どっちも生きていく上で必要だろうが」


 もしかしたら、何かのコンセプトを持って、平和な頃に作られた可能性だって有る訳だが、そもそも今居る付近は森じゃ無かったし。これ程までに木の建物が密集して作られてては、何かしらの話題性を引っ掛け、興味が無くとも知っている筈だ。


「それもこれも向こうで、待ち構えてる連中に聞けば分かんだろ」


 話しながらも歩いていた俺達は、木の建物が並ぶ場所の端で。村の入口みたいに設けられた広場に、集まる人々が見えていた。


 その殆どの者が大小様々な剣に、木製の盾から銀ぽい色の盾に加え、槍、弓、歪な形をした棍棒を持ち、衣類の一部は見慣れないローブやベスト、中には泉さんが作ったコートに似た物すらも、視界に入っていた。


「さて、何が出るやら…」


 集団に近づいた武南が言葉を交わす後ろ姿を見て、話の行末を全員が見守り。一部の人間を除いて大半の者が、願わくは戦いだけは嫌だと、思っていたのは言うまでもなかった。







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