150
人の顔も名前も覚えるのは苦手でも、初対面じゃない限り、会えば大抵思い出せるが此奴は、誰だ。
高校、大学と男女問わず外見が変わるのは理解出来るも、思い出せない所か、それっぽい奴すら浮かび上がらないのは何故だ。
「誰?」
迷った俺は、最悪の想定もしつつ、無難に対応出来る聞き方を行い、相手の出方に合わせようとしていた。
「誰って酷いなぁ〜私だよ、私!」
何だよそれッ新手の詐欺かよ!
「詐欺師ですか、そうですかすいせまん」
露骨に視線を逸らし、会話を終える素振りを見せると、女性の方から止めに入っていた。
「ぇえっ!本当に分からないの」
「あぁ分からない」
「もぉぉ仕方ないなぁぁ。この私が一肌脱ごうじゃないか」
全くもって分からないのに、乗り気な女性が羽織っていたカーディガンに手を掛け、物理的に一肌脱ごうとし始めた段階で、周りがそれを止めに入っていた。
「
俺の目の前に居た女性が、声を掛けながら歩いて来た子の手を掴み止め、腰のあたりに手を下げさせて、落ち着かせていた。
「どうせこの人達は、地下牢に入るのですから」
「えっ!本暁お姉ちゃんに何したの!?」
この姉にして妹と考えると、外見的にも内面も似て無く。雪という名前にすら覚えの無い俺は、酷く困惑していた。
「何もしてないけど、捕まるらしい」
「うっそだぁあ~、どうせ姉ちゃんの胸でも揉んだんでしょ」
「な訳あるかッ!」
地下牢に入れられるという最悪の展開の前に、訳の分からない茶々を入れられ、俺を含めた全員が困惑していた。
「良い子だから、下がってて…」
「はぁ~い。じゃぁ、また後でねぇ~本暁~」
嵐のように駆けた謎の子は立ち去り、場をかき乱した上に。『後で』という言葉を聞けただけで十分過ぎる。
「確かに、何も不祥事を起こしてないのに、地下牢というのは些か割に合いませんね」
「なにゅお言ってっ」
微笑むと何を想像したのか、女性は両腕を胸の前で組み、背中を少し曲げながら後ろに下がっていた。
「今は脅迫されてるから従いますが、せめて罪状ぐらいあった方が良いですよ?」
「余計なお世話ですッ」
「はいはい。それじゃ牢屋に入れて下さい」
「言われなくても、入れるわよ。武南連れてってッ」
大分感情的になった女性が声を荒らげ、武南に俺達の誘導を命じ、牢屋が在るであろう方を腕を伸ばし指していた。
「行くぞお前ら」
武南が俺達に聞こえる声の大きさで話し、俺はゆっくりと皆の方を振り向いていた。
「らしいから、みんな…」
≪ガッ……………≫
振り向いた俺も含め、見える全ての人が動きを止め。その聴きたくないノイズから始まった音は、例え耳を塞ごうとも脳に響いていた。
まさか此処で来るのかよ。
≪ワールドゲームがスプリットウルフ・ハーヒィングによって開始されました≫
聴き間違う事も無く、その言葉は頭に入り込み。
俺を含めた数名の者だけが、各々で気持ちを整理させていたのに対し、友宏以外の他の者は明らかに動揺が観られ、それは俺達を牢屋に入れると、息巻いていた女性からも見受けられていた。
≪対象は人種一万五千四百三十四人・血統ウルフ種一万二千三百三十頭≫
≪指定範囲・連鉱寺周辺の大森林全域≫
≪人種の勝利条件をハーヒィングの討伐とし≫
≪血統ウルフ種の勝利条件を人種の殲滅とします≫
前と変わらない条件が提示され、断る事も逃げる事も出来ない地獄のゲームが、また始まろうとしていた。
≪零時に開始とします≫
今なら確実に一部の人だけなら逃げられるが、この理不尽を体験していない者は、向こう同様にまだ混乱していた。
≪それでは双方共に頑張ってください≫
どうせ死ぬんなら、どっちに対しても始まってから、死んでもらいたい。
「ねぇ、そっちは大丈夫なの?」
逃げる選択肢を諦めた俺は、女性の方に向き直り。既に脳の処理が限界に近いのか、動きを止め親指の爪を噛んでいた女性に話し掛けていた。
「………」
待てども返事は返って来ず、女性は殆ど反応していなかった。
「それにしても、これで二回目とは、俺達も運が無いよなっ皆」
わざとらしく特定の単語で声を張り、ピクリと反応した女性が顔を上げ、上目遣いのまま俺を睨んでいた。
「それどういう事か、教えなさい」
「人の話は聞かないのに、教えろと暴論かよ」
「良いから早くっ――」
≪ガッ………≫
かなり焦っているらしく、取り繕いが消えた女性が一歩前に近づき、俺に手を伸ばしたタイミングで、再度動きを止めざる終えなかった。
何か言い忘れた、のか?
前回同様報酬も勝手に確認しろとか言ってたが、そういえばあれから確認した記憶がねぇわ。
≪ワールドゲームがスケルトンキング・ヴァルアによって開始されました≫
はぁ?今なんて…
≪対象は人種一万五千四百三十四人≫
≪ワールドゲームの重複を確認しました≫
≪これよりワールドゲームの統合を行います≫
何を……
≪ハーヒィングによって開始されたワールドゲームを破棄≫
≪人種・血統ウルフ種・屍霊種によるワールドゲームを開始します≫
≪対象は人種一万五千四百三十四人・血統ウルフ種一万二千三百三十頭・屍霊種四万三千四百一個体≫
≪指定範囲・連鉱寺周辺の大森林に加えて北部墓地周辺≫
≪各種族から王と配下を選定し≫
≪勝利条件・他二種族の王の討伐≫
≪種の王が討伐されると配下は死に≫
≪配下が死んでも王は死なないものとします≫
≪一定条件を満たした配下は上記の条件外とします≫
≪明日の宵の口に開始致します≫
≪それでは各種族に存続あれ≫
心にも思ってないだろう言葉を言われるも、流石に許容範囲を超えていた脳が、気に留めることは無かった。
≪血統ウルフ種の王にハーヒィングを選定≫
≪屍霊種の王にヴァルアを選定≫
≪人種の王に千田本暁を選定≫
≪各配下を選定しました・王はご確認下さい≫
嘘だろ、
選りにも選って俺かよ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます