146.


 空高く飛んだ矢が落ち。

 

 矢が地面に突き刺さり巻き上がった砂埃が、他の矢が飛来した衝撃で更に舞い、奥側の森の視界は遮られていた。


 概ね成功だろうか。後続の敵は負傷した状態で姿を現し、攻撃した前と後では、現れる数そのものが減っていた。


 こんなに居るって分かってたら、最初からやったんだけどな。


「しんどっ」


 想定以上の結果をもたらした望奈さんは、片膝に手を置き姿勢を下げていた。


「有難うございます」


「仕事した分は、払ってもらうからね」


 だから無理してまで、過剰に攻撃したのね。別にやり過ぎて悪い事は無いが、今から動き回る余力は残ってるのだろうか。



「水矢」


 敵が射線上に重なったタイミングで放ち、二匹の胴体を貫いた矢は、砂埃に吸い込まれ見失っていた。


 戦闘を行っているウルフはドクロンの攻撃を受け、後続の敵は望奈さんの攻撃によって、無視出来ない負傷を受けている事で、比較的有利に戦闘は進んでいた。


 前線を張る友宏も、複数同時に相手にしているものの、群れる前に切り裂いて倒し、まだ余裕をもって戦っていた。


「これなら、私がやらなくても、大丈夫そうね」


 少し息の上がった声が後ろから聞こえ、振り向いた先には姿勢は直したものの。上下に動く衣類が、望奈さんの呼吸の大きさを表していた。


「そんな無理してまで、体裁保たなくても」


「何か言ったかしら」


 触れてはいけない箇所に触れ、俺は睨まれるも、


「ゥォォォオオオオオオオオオオオンッ」


 嫌な予感は気の所為であれと願うも、外れる事はなく。長く綺麗な遠吠えが森中を轟かせ、連鎖したウルフ達の遠吠えが再び響いていた。


「何処だ…」


 何処にいる…


 木霊した音から、位置を探る事は困難を極め。周りを見渡しても、目立つ大きさのウルフの姿は見えず、募る不安だけが増していた。


「周囲を警戒しろ!」


 聞こえる者だけでも構わない、少しでも被害が抑えられるのならと、思った俺は声を出していた。


 でも、これって…


「ヴァルツ上だァアッ!」


 叫ばれた内容を理解する前に、感じていた違和感は、頭上から落ちてくる巨大なウルフによって、確かなものに変わっていた。


 此奴、叫んだ奴を狙ってるのか…


「雷放」


 前の戦闘で襲われた鳥類系の魔物と比較すれば、高く跳んだ魔物が、自重に任せて落ちてくる速度は、そう速くも無く。


 落ちきる前に攻撃を受けたウルフは、着地時に踏み潰さんとする姿勢から、無防備な状態になり、攻撃を受けた箇所から真下に落ちていた。


「マジックアロー」


 落下時に木を薙ぎ倒した事で、砂埃に加え葉までもな盛大に舞い。殆ど何も見えない場所に、感覚で矢を放つも、擦り出た大きな肉球が打ち叩いていた。


「お手みたいに、叩くなよ…」


 そんなペちっ、っと叩いて落とせる威力のつもりは、無いんだけどな。あれでも俺の攻撃には他ない訳だし。


「ようやくお出ましか、随分遅せぇじゃねぇか」


 群がっていた奴等を倒したのか、近付いて来た友宏が俺と巨大ウルフの間に入り、大剣を構えていた。


「気おつけろよ。あの感じだとお前でも、二発で死ねるぞ」


「一発耐えれんなら十分だろ」


 一撃すら受ける事を許されない俺からすれば、その強気の発言は羨ましくもあり、一度しか許されない中で行うその覚悟に、俺は頼っていた。


「任せた」


「任せろ」


 敵が動くよりも先に駆け出した友宏は、大剣を前に突き構えたまま、剣を盾にしながら前に跳躍していた。


「ァッン」


 矢を叩き終えたウルフは、再び上げた前足の爪で、友宏を引き裂こうと横向きに走らせていた。


「水矢」


 右目を狙って放った矢を、頭を動かしウルフが避け、友宏を狙っていた爪の軌道がズレた時点で、友宏の攻撃さえも避けに回ったウルフは飛び退いていた。


「よっ、とぉぉ…危ねぇアブねぇ」


「すまん邪魔したな」


「いや、どっちにしろ当てられてねぇよ」


 巨大なウルフが飛び退いた事で、仕切り直しだと思ったのも束の間、飛び退いた先には無数のウルフが、臨戦態勢で付き纏っていた。


「これじゃ、さっきより最悪じゃねぇか」


「文句言ったって始まらんだろ、取り敢えず雑魚を…雷放」


 密集しているウルフ達に向けて放ち。空中を縫うように駆け巡った電撃は、先頭の巨大ウルフに触れた途端に、無数に漂っていた攻撃全てが、巨大ウルフに集約されていた。


「嘘だろ、帯電とか…」


 攻撃を喰らったウルフの毛並みは逆立ち、俺の放った電撃が、今体全体を駆け巡っていた。


「ならさっきのも効いてねぇって事かよ」


「笑えん」


 なら彼奴は俺達との戦闘で未だに、ダメージを負ってない事になるが、そんな理不尽をあの図体でやられたら、HPを削って倒しきるのは何時になるんだよ。


「プラン変更だ」


「それって」


「焼き尽くす」


森で火なんて使いたくは無いが、あの電撃で木が発火してないんだ。想定以上の早さで、燃え広がらない事を願ってやるしかない。


「良いのか?それだと倒せたとしても、事後処理が大変だろ」


「これで無理だったら。どの道、この森から諦めて逃げるしかねぇだろ」


友宏が確認してくれるも、他に思い付く攻撃も無く。望奈さんが矢を放てたとしても、無理をさせる前に残された手段を俺は試したい。


「魔術展開…」


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