131.
「つまり、千田さんは」
「逃げて来たんですね」
「うん、そういう事。だから二人共見捨てないでくれ」
九藤さんと鈴木さんを起こした俺は、二人に事情を説明してから、助けを求めていた。
「そういう事なら、俺と千田さんは早めに行きましょう。海維わるいけど向こうに、先に行ってると、伝えてくれ」
「鈴木さんお願いします」
「分かりました。それぐらいなら、引き受けさせてもらいます」
何か失われてる気はするが、引き受けてもらえるのなら助かる事に変わりはない。
「有難うございます。では頼みました」
「じゃまた後でな」
一言言った俺と九藤さんが素早くテントから出て、動き出す前に二人して、女性達が居るテントに目を向けたのは、言うまでもなく。
いま望奈さんに見つかれば、疾風の如く迫られ、捕らえられてしまう不安を胸に、静かに小走りで走り出していた。
「大丈夫そうですね」
大勢の人が避難している所と間にある。薄らと見える並木道に入ってから、九藤さんからそんな言葉を投げかけられていた。
「それフラグだと思うんですが」
「大丈夫ですよ、内のフラグはな菜奈、いえ白浜が全部持ってますから」
「こっちも全て持ってかれてます。って常に仲良しの二人が、フラグ建築って笑えないぐらい、不味くないですか?」
「手遅れですね。余計な事を言わないでと、願ってましょう」
「それもそうですね」
話してる間に避難所が目に入り近付くと、数名の男女が慌てた様子で駆け寄り、話しかけて来た。
「大変ですッ居ないんです!」
「消えだんですよッ」
走っている様子からも感じていた様に、いきなり話し掛けて来た先頭の二人は慌てて話すも、大事な部分が抜け落ちていた。
「落ち着いてください。人が、居ないんですよね?…それは、何人居ないんですか」
いつも以上にゆっくりとした口調で九藤さんが返した事で、先頭の二人は少し落ち着き、後ろに居た他の人達も息を整えていた。
「はい。部隊から数名が居なくなっていて、何処を探しても居ないんです」
「人数を教えてください」
「確認では十名です」
先頭の女性が人が居ない事を認め、九藤さんが再度問いかけると隣にいた男性が答えていた。
「いつ頃気づきましたか。それとその人達は見張り番ですか?」
「見張りでしたが、そいつらと同じだった連中は皆、テントに戻ったって言うんです」
「千田さん」
「これまた厄介な事が起きましたね。自分で逃げたか、魔物の仕業か。今の段階じゃ何とも言えませんね」
「自分で逃げるというのは、些かメリットが無いと思うのですが」
「そう?俺だったら逃げるかもよ。だって集団の端くれなんて自由は無いのに、寝る時間も命令されるわ、色々厳しいじゃん?だから一人でやった方が良いとか、少人数で動いた方が良いって思うんでしょ」
「でもそれだと安全性が…」
「それこそ昨日の惨劇的に怪しいじゃん、女性側は別としてさ。それに見張りでも三分割させたとは言え、数千人居るんだよ?十名程度が逃げるなんて、起こって当然と言えば当然だと思うけどね」
「そうかもしれませんが、魔物の仕業だとしたら、対処しないといけない事に変わりはないです」
「任せます。今は人選が先なんので」
「そうだと思ってましたよ。それに人選は既に行ってますよ」
九藤さんの仕事の速さに驚かされてる間に、駆け寄って来た集団の中から二人の男女が前に出ていた。
「希望者を募った所、男からは六名」
「女性からは十三名集まりました。私と彼もその中に含まれてます」
報告をし始めた二人が人数を伝え、自分達が含まれている事を話していたが、時々目を合わせる二人の距離感は少し近いようにも感じられた。
仲良しな二人が、安全そうな解体班を選んだって所か。別に志願者が少ない今はどんな理由であれ、増えるのは有難い。
「それじゃ二人は解体でのリーダーをお願いします」
「私達がですか!?」
九藤さんが流れる様に二人をリーダーに任命し、任命された二人は戸惑いながらも、女性の方が声を上げていた。
「他と違って、男女の区分を解体には無い。それなら男性と女性を纏める二人は、仲が良い方が問題も少ないと思います。それにお二人は、任せても大丈夫だと判断しました」
「そんないきなり」
確かに早急過ぎる気もするが、決まる事は即断で決めていかないと、次から次にと問題が増えて行くばかりだ。
「まぁ決まったのなら、俺はどったでも良いですよ、九藤さんに任せてますし」
「そんな千田さんまで。統括らしく、止めて頂けないんですか!?」
「統括の判断は問題ない、ですよ。それに引き受けた方が都合の良い時間を作れると思うので、後々良いかと」
その言葉で二人は見合わせているが、引き受けた方が良いのは言うまでも無い。リーダー同士なら話し合いと称して会っても問題ないのだから。
「あっ居ました!千田さんっ」
視界に映ってる人からでは有り得ない程に幼い声が、後ろから聞こえ振り向いた先には、俺を指差しながら立っている泉さんと、その後ろにも別の人影が見えていた。
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