130.


 望奈さんに遺言を求められた俺は、追い詰められていた。


(仕方ない、なるようになれだ…)


≪第Ⅵ職業を契約士にしました≫

≪職業補正によりRES+1されます≫

≪スキル・契約を獲得しました≫



「例えば契約ってさ小村さん」


「はい」


「俺と望奈さんで行うとして、どうすれば良いの?」


「それは緋彩さんと千田さんが互いに、承諾をすれば大丈夫です」


「それは、望奈さんが小村さんの件で怒らないって事と、俺がそれを信じるとか曖昧な物でも良いって事なの?」


「はい、大丈夫です」


「ふざけないで、許さないわよ」


 低い声で言われ、怒られたくない気持ちを察して尚逃しては、くれなさそうだった。


「例えですよ例え、だってそんな理不尽なのが通ったら色々まずいじゃないですか」


「それはそうでしょ、何だっけ。私が小村さんの件で貴方を怒らない。だっけ?」


「そうそう。その言葉信じますよ」


「何言ってるのよ、そんな調子の良いこと言って、本気でそうなる訳ないじゃ無い、そんな理不尽な契約私がする訳無いでしょ」


≪契約を受理しました≫


「んッ?!」


「まぁ。そういう事です」


「待ってよ、何がそういう――」


 突然頭に響いた声に驚いた望奈さんが、俺の言葉に応じて問いただそうとするも、直前に話してた内容と、響いた声が告げた内容で理解したのだろう。途中で言葉を止めていた。


「お二人ともどうかしたんですか?」


 そして急に様子がおかしくなった望奈さんを見て、小村さんが聞いてきたので、答えていた。


「何処かの誰かさんが、無言で契約のスキルを発動させたように、ちょっとトラブルが有っただけ何だけど、小村さん。俺に脅されたんだっけ?」


「あははははぁ…そろそろ私は、戻りますよねぇ~」


「おいこら散々脅されただの、平然と見捨ててくれたな。それに君のお陰で、俺も思い出せたよ。確か君は、命懸けて渡してるんだっけ?それってさ、解釈次第で君の命は俺が持ってるって成らない?」


「何言っちゃってるんですかぁ~そんな訳無いじゃないですかぁ~」


「右手上げて」

「はいっ。あっ……」 


 俺が言葉を発すると、小村さんは元気よく右手を上げていた。


「これはどういう原理?」


「酷いです、千田さんが自分で言ったじゃないですかッ右手上げてって」


「いや言ったけど、そうじゃなくて。どうして上げなくちゃいけないの?って事だよ」


「それはアレですよ…あっ、絶対本気でマジで言わないで下さいよ?復唱禁止です?口閉じてて下さいね」


 そう言われたので、頷いてみる。


「渡す何て曖昧な表現が悪いんですけど、まぁ言う成れば、死ねって言われたら私は死のうとするって事で、つまりはその…まぁ、命よりも大事な事なんて無いですからねぇ、死ねって話しが通るなら、それ以下の事は通るって事ですよぉおお…」


 こりゃ酷いな。てかそんな恐ろしい事を、俺に無言でやってたの?


「左手も上げてバンザイっ」


(というか強制力凄いな…)


 今や小村さんは両手を上げ、ちゃんとバンザイを維持していた。


「下ろさせて下さいいぃぃぃ」


「両手を下ろしてっ」


 今度は小村さんが素早く下ろして、安心して息を吐いていた。


「右手上げてっ左手上げないっ」


 ささっと右手だけが上がり、上がろうとした左手は瞬時に下がっていた。


「今のは小村さんが、間違って左手上げようとしたのを、効果が下げたの?」


「はい…そうです。ですから、お願いしますから、下ろさせて下さぁい。私で遊ばないで下さぁぃ」


「ごめんごめん、下ろして良いよ」


 取り敢えず使い方は分かったというか、普通にヤバい力でしょ、だってこれ初期から有ったよ?確か。それなのに何なのさこのぶっ壊れ感はさ、相手を騙しても成立するってのが尚更ヤバい。


「それで望奈さん…どうかしましたか?」


 目を向けた望奈さんは、今にも爆発しそうな程に顔を赤くして、鬼の形相で俺を見ていた。


「えぇ、どうしてかしらね。小村さんの事で怒れないから、他の事で怒ろうと考えてるのにどうしてかしらね。まぁ貴方が脅した事も、今女の子で遊んだ事も許したとして、私は何で怒れば良いのかしらねッ」


 偉大なるスキル様ありがとうございやす、これがスキルの効果ですね。あの望奈さんが怒りたいのに怒れないって、強すぎますって。


「それは怒らなくて良いって事ですよ、ねぇ小村さん」


 毎度小村さんを巻き込んで、間接的に怒れない様にしよう。じゃないと望奈さんの怒りが爆発した時には、俺がやってる事的に殺されそうだ。


「そうですねぇ~」


 小村さんが苦笑いをしながらも、味方についた事で賛同を得られ。望奈さんは目がつり上がってるが、まだ爆発はしてない。


「さてそろそろ行きますか。せっかく早起きしたのにゆっくりし過ぎるのも、どうかと思いますので」


「はい」


「えぇ、そうね。早く外に行きましょう、小村さん有り難うね、もう戻っても大丈夫よ、皆を起こして上げて」


「それなら俺も九藤さんと鈴木さんを起こすので、小村さんと望奈さんは、あの二人を起こして下さいね」


「あっちょっと、待ちなさいっ!」


 望奈さんに呼び止められるも、俺はテントから飛び出すように脱出し。止まる事無く九藤さん達の所に向かっていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る