127.んッ!?んッ!!!!!


 俺たち五人が戻った先に静けさは無く、物々しい雰囲気に包まれた集団が幾つにも、分かれ広がっていた。


「何ですかこれ、合図一つで戦争状態に入りそう感じ何ですけど」


「四の五の言ってられそうに無かったので、九藤さん達に加え隊員達に指示を出しました」


 自衛隊の人達が動くだけでこの纏りかよ。


 数時間前と比べても、人数配分に各グループ毎の間隔も設けられ、それぞれが丸く集まっているから見やすいし、もう色々ズルけど、これが二回目で良かったと思う。


「助かります、ですけど三分の一は寝かせて下さい」


「良いのですか?敵が攻めて来るかも知れ無いのに」


「時葉さん、だめダメ感覚ズレてますよ。俺みたいな奴じゃ無い限り、みんな眠くて役に立たないですよ。それなら数減らしながら交代で寝かせてやって下さい、というかこれからは常に三交替制にやっちゃって下さい」


「分かりました、取り掛かります」


 後ろから素早い衣擦れの音が聞こえ、時葉さんが癖に等しい敬礼をしてから歩き出し、俺達から離れて行った。


「大塚さん達もどちらかは寝て下さい、こっちは時葉さんに九藤さん達も居ますが、そっちに今同時に寝られると緊急時の対応がよろしくない」


「ってよ。優李さきに寝て来いよ」


「お兄の方が先でしょ、私さっき仮眠して起きたから寝れないよ」


「馬鹿言うんじゃねぇよ。寝れる時に寝ないと、育つもんも育たねぇぞ」


「お兄のアホッ!一生起きてろッ」


 友宏が盛大に地雷をわざと踏んでいたが、顔を赤くした妹さんは怒鳴ってからは逃げる様に走って行き、方向的に恐らく眠りに行った筈だ。


「妹の取り扱い書でもあるのか?」


「此処にあるぜぇ―ぇっ」


 友宏が自分の頭を指で突きながら言い、声を掠らせながら楽しそうに笑っていた。


「悪い兄だ」


「教えてやろうか?」


「止めろ、多分身内限定だろ」


「二人とも話してる内容が酷いわよ」


「それもそうだな。っと、お二人さんは寝ないのか、特に」


 望奈さんに言われて妹の話しを止めた友宏が、俺と望奈さんの方を見て寝ないのか聞き始めたが、何故か最後ら辺の方からは俺しか見ていなかった。


「特に俺ってか」


「まぁな、見てて不思議なぐらい元気そう何だが、四日間ぐらいで考えたら、シュ…千田さん、全然寝てないだろ?」


 何故か変な気を使われ、途中で呼び名が千田に変わっていたが別にどっちでも良いが。確かに直近四日間の睡眠は十時間と少しで、明らかに少ない。


 まだこれがゲームだけなら保つが…


「そうだな、寝てると言えなくも無いが寝てない。そぉもぉそもぉ…ふっははぁっ」

 

 駄目だ何か欠伸まで出て来やがった。


「まぁ、見ての通り眠いらしいから、俺は寝るわ」


「おう、お疲れさん」


「おやすみ、望奈さん行きましょ」


「私も!?」


「当たり前ですよ、じゃないと誰が膝枕やるんですか、考えて下さいよ」


「いつから私は貴方の枕役に成ったのよッ!」


「えぇ~功労者を労って下さいよぉ~ささっ、行きましょ」


「ちょっとッ誰も良いなんて――」


「それじゃ、友友また後でなぁ」


 友宏が呆気にとられてる間に、望奈さんの背中を押してテントの方に進ませているが、殆ど触れないでも望奈さんは真っ直ぐテントに向かっていた。


 嫌な事だったら直ぐに表情に出る望奈さんは、良くも悪くも分かりやすく。望奈さんに何か言う時は顔色を見てれば良いんだけど、逆に望奈さんに何も言ってないのに怒るからそこが分からない。



 そして歩いた俺と望奈さんはテントに着き、外の寒さから逃げ込む形でテントの中に入り、入り口を閉めていた。


「やっぱり中も寒い事には変わりないですね」


「このテントが真冬用って訳じゃないもの、仕方のない事よ」


 テントの真ん中あたりで座った望奈さんが毛布を羽織り、両内腿を床につけて座っていた。


「ほら、どぉうぞっ」


 斜め上を向いたまま望奈さんが小さく呟き、自分の足を軽く叩いていた。


「実は膝枕ってのは嘘何ですよね」


「はぁ!?貴方ねぇ。私が―」


 上を向いていた望奈さんが声を上げ始める中で、近づき膝に頭を乗せるなどはせずに、望奈さんを巻き込む形で両手で抱え倒していた。


「んッ!ちょっ…ぇ、」


「今日は寒いので、抱きまくらでお願いします」


 望奈さん横並びになって倒れると、おでことおでこが触れ合う程に近く、目を泳がせた望奈さんが慌てて瞼を閉じていた。


「ぃぃっ……てよね。びっくり、するじゃない」


 望奈さんの声が比べ物にならない程に小さくなり、髪と髪が触れ合う距離でなければ恐らく聞き取れなかったと思う。


「でも言ったら言ったで、膝枕より難易度上がったでしょ」


「………」


「それとも迷惑でした?」


「……ぃ」


「聞こえないのですよ」


 音に成らない程に小さな声は聞こえず、只でさえ近かった距離は、望奈さんが身体を丸めた事で更に近くなっていた。


「―ねなさぃ」


 風の音に掻き消されそうな程に小さな声は聞き取れ、望奈さんにねなさいと言われていた。


 それにこれ以上起きて話すと、望奈さんが再起不能になりそうだったので、俺も目を閉じ眠る事にしていた。


「最後に一言良いですか」


「なに」


「望奈、おやすみ」


「……おやすみなさぃ」


 入った時に感じていた寒さは何処かに消え、俺と望奈さんの間には確かな温かさが、心地よい空間を生み出していた。









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