126.


「何処に行く気?」


「おにいぃ、何してるのかな」


 決断を下した俺たちが逃げる間も無く、横を振り向きその一歩を踏み出した時には望奈が直ぐ近くに居て、望奈さんが言葉を言い終える頃には大塚妹の姿も、傾斜の下りきった場所に見えていた。


(何の冗談だよ…こいつら本当に人か?!早すぎるだろ)


「ちょっと二人共、速すぎませんか」


 そして遅れてやって来た時葉さんの呼吸は僅かに上がっていたが、恐らくそれが普通だと俺は思いたい。


「おや、三人揃って女子会ですか?実は俺達も似たような感じで―」


「貴方にはそう見えるの?」


 有無を言わさない圧が言葉に含まれ、友宏は無言のまま顔を背けており、俺よりも身体が大きい筈なのに俺の後ろで身を潜めていた。


「見えなくも無いですが、揃ってるのは好都合です」


「何かあったんですか?」


「優李さん気をつけないと、誇張報告に意識を割かれて、何も無かったかの様に話を流されるわよ」


「ふぁっぁあ!?そんな手法を、千田さんは駆使するんですか!」


(俺の印象操作が行われてる件について、毎度の事ながら言いたい事はあるが、まぁ良いか)


「さて敵が来る前に言うが、友宏と俺の攻撃で死ぬ気配が無い敵が出てきた、それも数からして一兵の奴だ」


 茶化されながら話が長引く前にと、話に割り込む形で淡々と敵の事を話、遅かれ早かれ敵に対して意識を割いてもらう。


「千田さんって嘘が下手なんですね?」


 何故か疑問よりな口調で時葉さんに言われ、無言で返していた。


「…冗談とかじゃ~ぁ」


「残念な事に冗談じゃ無いんですよねぇ~」


「「「………」」」


「三人とも黙ってないで早く上がりますよ、いつまで森を背中にして喋らす気ですか、怖くて話にも集中出来ませんよ」


「それもそうか、上がろうぜっ」


 ようやく言葉を発した友宏が我先にと傾斜を上がり始め、固まっていた三人をそれぞれ触れない程度に手で押しやって歩かせて、最後尾から俺も上がり始めていた。


 上りきった傾斜の上から森を見渡しても、今夜下りた時とその景色は対して変わっておらず、あの木の魔物が実在したという実感は、あるようで確かなものでもなかった。


「一つよろしいですか千田さん」


「はい」


「少し前に巨大な電気が放電してたとの報告がありますが、千田さんですか?」


「やっぱり騒ぎに成ってましたか、すいません」


「いえ、それが原因で起こされたとかじゃ無いので、気にしないで下さい」


「はい…」


 俺の耳の調子が悪いのか、さっきから聞こえてくる言葉に含みを感じてしまう。


「ゥォオオォォオオオォンッ――」


 自分の聴力を疑っていると、聞き逃す事の無いクローマウルフの長く引いた遠吠えが森の中から聞こえ、一匹が発した音に連鎖した遠吠えが次々に森を木霊していた。


「戻りましょう皆さん、お兄も戻らないと」


「ああ、攻めて来そうだしな」


 この場所に来てからというものの、聞かされてなかった敵のボスらしき魔物に、新種の敵と違う種でも連携をとって戦闘をされたりと、敵の変わりようが余りにも早すぎる。


 あの大きなウルフは成長で現れたのか何なのか知らないが、木の魔物と同じに日に姿を現し、急に敵の魔物が連携を行ったりと、一つで満足なアプデを同時にされたみたいで良い迷惑だけど、これはこれで――…


 「ねぇ。ちゃんと見えてる?」


 俺に向けられたであろう望奈さんの言葉は、歩き出していた他の者には聞こえておらず、一番後ろで止まっていた俺の耳にだけ届いていた。


「暗いですけど、ちゃんと足元は見えてますよ?加えて言うのなら、儚げに声を掛けてくれている、望奈さんの姿もちゃんと見えています」


 見えてるのか聞かれた俺が返し、それを望奈さんが受けるもこれといった反応も無く、今無くても良さそうな茶化した発言に対してもそれは変わらなかった。


「そうじゃないの」


「他の意味って事ですか?」


 他の意味で捉えようにも、それは余りにも広く、現状の暗い夜道や背後に敵が居る状態では、それに類似した事柄を問われているのだと思っていたが、望奈さんが聞きたかったのは敵側についての見解とかだったのかもしれない。


「今から襲って来る可能性のある大型ウルフも厄介だと思いますが、異常に硬い防御力を有している木の魔物には俺と友宏の攻撃も効かないのでそれ――」 


「知っていたけど、貴方ってやっぱり変な人ね」


「酷くないですか、一応真面目に考えてるんですけど」


「なら聞くけど、その考えてる中に人の命は含まれてるの?」


「それは…」


「含まれて無いんでしょ、別に今になって守れだなて私も言わないわよ。でも貴方は、最初こそ遠回りだろうとその他大勢の事を考えていたのに、今日敵と戦ってからは落胆して勝手に思考が切り替わった様に、どこかで線引が動いたんでしょ」


(これだからこの人は)

「すぅう…はぁぁ。有難うございます、そんな事言われ無かったら自分が気づいたのかすら、怪しいですからね」


「ううん。私は別に他人を守れって言いたいんじゃ無いっ、ただ貴方の命はぐらいは最優先考えてねって話よ」


「分かりましたよ…」

(守りたいものは、守ります)


 

 


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