125.一難去っても、また一難!?


 止めてくれ。


 そんな不吉な事を言わないでくれよ。


「もし仮にだ、俺達が囚われてるとして、狙いは俺達だと思うか?」


「時間稼ぎってか、小賢しいなおいっ」

 

「まぁ正直に言えば、向こうを狙ってくれた方が助かる」


「イヤやべぇだろ、被害が大き過ぎる」


「馬鹿か、普通に被害云々よりも、今こっちにあのウルフが来てみろ、普通にそっちの方がヤバいだろ。向こうには三人も居るし…」


(オマケにヤバい骸骨も居るんだ…)


「普通に俺達の心配しろ、って言っても向こうから仕掛ける気は本当に無いみたいだな」


 話し合っている人間を見ても、クローマウルフに一角野ウサギですら攻撃を仕掛けて来る気配は無く、初手の攻防だけで済ませ様子見に移っている感じだった。


「ならこっちから仕掛けるだけだろぉよ」


「それもそうなんだけど、あの木は本当に燃えるのか気になってよ、もし奴等が俺の攻撃を耐えるような事があれば、忽ち逃げ場の無い蒸し焼きだ」 


 普通のマジックアローよりも貫通力がある攻撃を防がれたんだ、純粋に木が火に弱い以前に、攻撃が通用するのかすら怪しい。


「ならどおすんだ、最初に言っとくと俺に他の手段は無い」


「おぅ」


 聞く手間が省け、現状から考えないといけないが、友宏ことタンカーさんは考える事を放棄したらしく、その一言を言った後は更に敵と睨み合っていた。


 燃える、範囲が効かない、貫けない、切れない、折れないと考えれば考える程に、現実を突き付けられていた。


「懸けだが、とりま一方に攻撃するから、倒せたら良きに、燃えたらヤバいけど見えるから、ピンポイントで逃げ道作って逃げようぜ」


「分かったっ、殺ってくれ」


雷放スパークッ」


 首を動かし周囲を見渡してから、前後左と二体は木と思われる魔物が居るのに対して、右側の位置だけはそれらしき陰が一体分しか居らず、俺は迷わず攻撃を放っていた。


 手から放たれた電流が空気中を駆け巡り、放った方向に居た数匹のクローマウルフと一角野ウサギが、感電によって死に一瞬にして焼け焦げ、駆け巡った電流が到達した事で木の魔物に纏わり、その姿を照らしていた。


 その姿は辺にある木と殆ど変わらず、ただ違うのは他の木よりも高さは無く、枝分かれし始めた箇所から両側に一本ずつ伸びた枝には、独特の目らしき光る物が花を咲かせる様に付いていた。


「死んでないぞッ左右の網状の蔦を切れッ」


 微動だにも動いて無かった木が小さく揺れるも、電流は停滞したと思えば、木から出る様にその周囲を巡っていた。


「任せろ、一刀破砕ッ」


 距離を詰めた友宏が網目状の蔦に切りかかり、縦に振り下ろした大剣が、蔦を地面に押し付けていた。


「出ろ」


 友宏が飛び出したタイミングで直ぐに後に続き、蔦が下がった瞬間に俺の身体は外側に出て、大剣の切っ先を軸にした友宏が、足で円を描く様に前に飛んでいた。


「よっとっとと、一件落着だな」


「何呑気に言ってやがる、囲まれる前に走るぞ」


 包囲網から抜け出した俺達は、警戒をしながら帰路を走り出していた。


「ってか他にも技有ったんだな」


「んやぁ、アレは叫んだだけだ」


「はぁ?」


「その方がカッコいいし、力出るだろ?だから叫んだ」


 俺がスキルだと思っていた攻撃は違ったらしく、ただ叫んだだけと言われて、この前衛がゲーム中も無闇矢鱈と謎のスキル名を叫んでいた事を、俺は思い出していた。


「そんな顔すんなよ、楽しんだもん勝ちだろ?」


「それには半分賛成だ…」


 死んだら終わりで、今となってはそう簡単に死ぬ訳にはいかないが、多少は薄くなったとは言えゲーム思考が消えた訳じゃ無い俺は、人の楽しむとは違うが、ゲーム的なのには賛成出来る部類だ。


「半分って何だよ、そこは全面的に賛成してくれよっ」


「って言ってな、どっかの誰かさんみたいに全力で楽しんで、報告すらしない奴になったらどうなると思ってんだっあぁ?」


「んっ……さてと、帰ったら警備の連中に、ちゃんと木の奴を伝えないとなぁ~」


 予想を裏切らない程に友宏がはぐらかそうとし、理解出来ない程に上手い口笛を吹き鳴らしていた。


 その特技は何だよ、せめてそれも下手であれよ。


「警備連中の報告は任せたから、明らかに森で響く音を出すな、そんな事をしてたら鉢合わせ率が上がるだろうが」


「こうやってモンスター集めて、レベリングすんだろ普通」


「まさか今日もそんな感じで集めて狩ってたのか?」


「おうっ、あいつらクローマは耳が良いからな、案外来るんだぜ?」


 あそこまで綺麗に包囲された原因は、味方が撒き過ぎたヘイトの所為かよ。


「巻き込まれたのが俺だったから別に良いけど、他の奴が巻き込まれたら自分も死ぬの分かってるんだろ?」


「まぁな…」


「分かってんなら良いさ。それよりも―」

「あぁ…」


「「逃げるか?」」


 森の中を走り、傾斜に差し掛かる直前で止まった俺達は、傾斜の上に立っている三つの人影が目に入り、その見覚えのあるフォルムから目だけを逸らし、互いに見合わせていた。


「逃げて迂回しよう」

「そうだな、迂回して広場で飯でも食うか」


「それが良いな…」

 

 

 

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