123.


 謎にテンションが上がって要領を得ない友宏を落ち着かせ、肉を口に入れたら黙ると思ったが、そう甘い筈も無く、食べながら友宏が喋りかけて来ていた。


「なぁ黒幕さんよ」


「あのなぁ、ゲーム名でも無い名前を愛称みたいに呼ぶなよ、普通に物騒だわ」


「ならシュバルツさんよ」


「何だ剣士タンカー、のタンカーよ」


「いや、これと言ってって訳じゃねぇがよ。違和感みてぇな、感じてたもんが、綺麗に収まった感じがするんだよな」


「お前みたいなのがッとか、事務男とか、散々言っといてか?」


「止めてくれよ、立場があったんだ。知ってたら言わないぜ」


「知って無くても初対面には言うなよ、その方が平和だ」


「平和とか無かっただろっ、俺いきなり殺されかけて死んだと思ったんだぜ?」


「ご愁傷様、俺としては話しが早く進んで助かったけどな」


「あれに話し合いなんて表現はねぇよ」


「確かに…」


 いま思い返しても、矢を一度突き付けた後に行う話し合いに、対等なんて言葉は存在しないか。一方的に望奈さんが何かしらを話して、相手は了承せざる終えなかったんだろうが、唯一の救いは望奈さんが相手に話したであろう内容が、常識の範囲内だった事か。


「本当に化け物しか居ねぇな、今は他には誰も会ってないんだよな?」


「あぁ居ない、出逢うとは思っていたが、こうも簡単って訳じゃ無かったが、出会えたのは良かったよ」


「何で出逢うって思ってたんだよ」


「自分で言ってるだろ、どの方向に転んでも化け物か変な奴の集まりだ。生きてたら嫌でも逢うだろ、しかもLvゲーと来たら俺よりトチ狂ってる奴が多いからな」


「勘弁してくれ、今でも優李ゆりの技術にステータスで追い付くだけでも必死なんだ、これに加えてLvを熟知してる奴等に追いつける気がしねぇよ」


「同感だ…数名ならLv20超えてる気がして来た」


「マジカよ俺まだ11だぞ、そっちは?」


「16だ」


「そっちも大概ぶっ飛んでるじゃねぇか、大体こっからLv上がんねぇだろ、だから他の職業を上げてるのに、どうやって上げたよ」


「Lv10以上の魔物を探すしか無いな」


「って言ってもそうそう居ねぇもんだろ。そっちはそんなに居たのか?」


「あの大きいウルフのゴブリン版が三匹と、背が伸びたゴブリンが数十匹に魔法使う奴とか色々居たけど、その代わり犠牲者も多いが聞いたか?」


「…いや」


「約一万人…それがボスのゴブリン三匹含んで、百にも満たない奴等に殺された。一兵ゴブリンに殺された数なんて数百とかにも満たないんだぜ、笑えない話しだよな」


「普通にバグだろ、って文句言っても修正されねぇし、そろそろLv上げすっか」


 勢い良く立ち上がった友宏が向上心を溢れさせていたが、既にのんびり肉を噛み話していたが、これ以上森に居れば寿命が縮むが、今なら雑談してたという嘘偽りない真実を語れる。


「残念だが俺は戻るよ、矢を突き付けられたくない」


 矢を突き付けられるという発言を聞いた友宏の表情は固まり、何かよろしくない記憶がフラッシュバックしてる可能性が高いが、その身で体験した者ならば帰してくれる筈だ。


「悪寒が走ったわ。確かにアレは受けたくねぇな」


「だろ?」


 焚き火を散らして燃え続ける薪を、足で踏み砕きながら話していた。


「俺としては帰ってもらっても良いんだが、無理みたいだぜ?」


 友宏に連られて視線を周囲に向け、暗がりに蠢く影とその周囲には、消え行く火を反射する物が無数に動いていた。


 その動く物は横に二つ並んでいた事で、目という確信は直ぐに持てたものの、クローマウルフにしては、目の間隔が狭い物や広すぎる奴が紛れ込んでいた。


「明らかウルフじゃないのが混じってるよな?」


「ぁぁ気をつけろ、アレが一角野ウサギだけど、後ろの奴は分からねぇ」


 人と同じかそれ以上に高い位置に目はあり、その間隔はクローマウルフより広く、此方を見据える様にじっとしていた。


「アレ全部がでっかいウルフなら死ねるな」


「そうだな囲まれたし、逃げ場ねぇなっ」


 敵に囲まれて逃げ場が無いと言うわりに、明るい口調で言っており、戦闘が行える事か、俺が巻き込まれた事を喜んでいる感じだった。


 次第に魔物が木々の間から出て来、俺達が焚き火をしていたほんの少し拓けた場所に顔を出した事で、空から降り注ぐ月明かりがその姿を照らしだし、俺と友宏の二人は驚愕と同時に飛び退いていた。


 出て来た筈のクローマウルフの、後頭部辺で何かが動いたと思った瞬間、隠れていた一角野ウサギが、鋭い角を前に出し一直線に跳躍していた。


「んなぁのアリかよッ」

「それは俺のセリフだ、此奴等が組むなんて聞いてないッ」

「俺も今知ったんだ、すまんっ」


 斜め上に飛ぶよりも、真横に向かって飛ぶ方が速いのは理解出来るが、俺達が避けた事で一角野ウサギは後ろの木に当たり、手よりも長い角が深々と木に刺さり、縦に亀裂を入れてる方が理解出来なかった。


「マジカよ」

「気をつけろって言っただろ、あの攻撃はVITが10ぐらいの奴なら一撃で身体貫かれて死ぬぞ」


「いやその情報もっと早く言えよ」


 俺のVITは14だぞ、んなの一発で終わりじゃん…

 

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