122.


 大塚兄を見かけた俺は一直線に向かい、木々に隠れる訳でも無い俺が話し掛けれる距離に近づいた時に、大塚兄が両手で握りしめた大きな剣を使い、クローマウルフを縦に切り裂いていた。


「豪快だな」


「おっ千田か、そっちも抜け駆けのLv上げとかか?」


「そんな大義名分は無いよ、ちょっとミスって森に逃げたんだ」


「まさかさっきのやべぇ雷は、お前の仕業か!?」


「ご想像にお任せするわ」


 両手で持っていた大剣を左手に持ち直した友宏ともひろが、俺の居ない方に剣を振るって血を飛ばしながら、苦笑いをして俺を見ていた。


「怖いね、これだからLvゲーは休めねぇ~んだよ」


「そう言えば、友宏って以外にゲーム詳しいよな、見た目は完全に陽キャな海でナンパしてそうな奴なのに」


「そんなにかッ⁉……俺はどっちかつぅと、陰キャだと思ってたんだけどなぁ~」


「見た目だけの話だよ第一印象さ、俺だって全身黒い物を着て、オタクっぽいだろ?」


「いや千田も、別にオタクには見えねぇだろ。眼鏡外してイケメンだけどイケメンにも成れず、オタクにも成れなかった、顔が良い学校で男女両方の味方してそうな奴だ」


「何だよその分かりそうで分からん例えは」


「そんな何考えてるか分かんねぇ普通の奴が、平然と人を殺すんだからな、溢れ出る外道の方が楽だったぜ」


 勝手に俺は人殺し扱いされてるが、見殺しにした点では仕方ないか。そして友宏が当たり前の様にウルフを捌き始めて、いつの間にか火も焚いてるし。


「さっきから地味に酷くね?」


「あぁ悪い、つい言っちまったけど、別に嫌いな訳じゃねぇんだぜ?…勿論仲間としてだが」


「おいっそれ以外に無いだろ止めろ」


「言わねぇと変な勘違い野郎が居るんだから仕方ねぇだろっ」


「分かったから、そんな焦るなよ。逆に疑わしくなるわ」


「考えて見ろよ、千田の所のトップがあの緋彩さんだったとして、それと俺の妹が支配する居住空間とかもぉ息も出来ねぇよ」


「それもそうだな」


「それよりも座れよ、肉も焼けるし、美味い部分だけでも贅沢に食っとけ、どうせ持って帰れない分は腐っちまうから焼くんだ」


 立ったまま話していた俺は、友宏と二人分ぐらいの位置で焚き火の側に座っていた。


 俺が座り、直ぐに話題が戻る訳でも無く、焚き火の木を燃やす音だけが静かに、小さく鳴り響いていた。


 焚き火と焼いた肉の匂いに釣られて、魔物が寄って来ないのかは疑問だが、今の所その気配は無く、周囲の森も静けさを保っていた。


「おっかしぃなぁ、やっぱ、勝てねぇ」


「何がだよ」


 急に放たれた不可解な言葉に、俺は直ぐに返していた。


 だけど友宏から直ぐに答えは返って来ず、焼いている筈の肉すらも見ていない瞳が焚き火の方を向いたまま、友宏は動きを止めていた。


「俺がいま千田に斬りつけた場合の勝敗だよ」


「そんな物騒な事してたんかっ?」


「だって近接がこの距離で、負けるって変だろ」


 いや分かるような分かりたくないプライドで、俺を殺すイメージをしないで頂きたい、それ勝てる未来が見えたら斬りかかるの?普通に怖いよ。


「変かどうかは知らんが、俺は普通に首と身体がさよならする気もするけどな」


「本気で思ってねぇだろ」


「そんな事無いぞ、だって妹さんの剣速とか普通におかしいだろ」


「はっ、あれは別だ、ガキの頃からずっとやってたからな、俺にそんな技術はねぇし、力に任せてゲームみてぇに敵に突っ込むのが良いんだよ」


「そんな事言ってたら、妹さんに何か言われるだろ」


「ぁあ、もう馬鹿だの脳筋だの、仲間には言われたな、敵が…何だっけな」


「敵がこんなにも馬鹿だったらありがたいであります、か?」


「そう、それだ!そうやって、俺にチャットを……」


 俺を見ていなかった筈の友宏が今は俺を見て、目を開き、口を半開きにさせたまま動きを止めていた。


「どうした、肉が焦げるぞ」


「いや、どうしたじゃねぇだよっ、何で知ってるんだよ」


「知ってるって何がだ」


「何で俺が仲間に言われた事だよッ!答えろよ」


 友宏の口調が強くなり怒鳴る様に言葉を発していた。


「脳筋に言いそうな事なんて、どこでも同じだろ。それっぽい奴を言っただけさ」


「それで一言一句正しいって事が起こるかよッ」


「仲間に言われた事を思い出せ無かった奴に、一言一句合ってるとか言われても説得力は無いけどな」


 あぁ、笑えない。


 この報告しない残念タンクの大剣くんは…


 高確率でやり取りしてた、ゲーム仲間じゃねぇかよ…

 

 待て…


 会えたのは嬉しいが、知れた場合が大変だぞ、今の関係のまま信頼を築き上げるのが良いだろうか、その方が報告をしない残念な点を改善出来るだろうか…


「―っておいっ、聞いてるのか?!」


「何だよ、自称剣士タンカ-ぁッ―」


「ほらみろ、やっぱり知ってるんじゃねぇかよッ、誰だよお前は!あの憎たらしい魔法オタクじゃねぇだろうな?」


「いやソレは無い」


 てか此奴、普通にメンバーを憎たらしいとか言うなよ、あの人は好きで魔法を徹底的に調べて俺達に情報を流してくれてるんだから…


「なら誰だよっ」


「一言一句同じとか言ってた癖に、最初に魔士を選んだ仲間の事すら忘れたのかよ」


「はっ?…」


「はって何だよ」


「黒幕か!?」


「黒幕は勘弁してくれ、頼むから…それ名前でもねぇじゃん…」


 


 

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