120.



 テントに俺と望奈さんが戻って来ると、中央のテントには時葉さんを含む九藤さん達五人の姿があったので、そのまま毛布を持ったまま中に入っていた。


 テントの中央に置かれた円卓の周りには椅子が八個置かれており、俺と望奈さんが座ると一つの空席を残して埋まっていた。


「さて話しも色々あるかもしれないが、毛布をゲットしてきた」


「有り難うございます」


 歓喜の声がそれぞれから聞こえる中、九藤さんがハッキリと礼を言い。


「流石緋彩先輩ですっ!毛布も難なく貰って来るなんて、私これ華憐かれんに渡して来ます」


「待って菜奈わたしも行くから。千田さん毛布ありがとね」


 嵐の様に二人が毛布五枚を抱えて去っていった。


「早かったな」


「えぇ、それに私は毛布に関しては何もしてないのにね」


「二人がすいません」


「いえいえ、謝らなくて良いですよ。それよりも九藤さんと鈴木さんは頑張って下さいね、今あの二人毛布五枚持って行ったので、後で回収しないと二人は今夜、寒さに震える事になりますよ」


「ぅ..」


 九藤さんから聞こえてはいけない声が聞こえ固まり、再び動き出した九藤さんは鈴木さんに向けて話していた。


「海維急いで追え、俺達の命を取り戻してこいっ」


「わかったッ」


 そんな大袈裟な、と思いながらもまた一人が走って居なくなる。


「何だか俺が来て、避けられてるぐらいに人が減っていくな」


「気の所為ですよ、今は色々ありますからね」


「そうですね。それで言うと解体の件で、教えてくれる人の了承は得ましたよ」


「早いですね…こっちはまだ、今日の事を時葉さんから聞いたぐらいです」


「でも九藤さんもう眠たいでしょ?真面目な顔がぐったりしてますよ」


「疲労ですよ、こんな経験はした事無かったですからね」


「向こうに行かれた方が戻って来る前に、九藤さん向こうに行って、今日は寝るように伝えて下さい。続けても徹夜の会議なんて意味が無いですからね」


「本当にすいません。急に減っていくばかりですが、お言葉に甘えさせて頂きます」


「いえいえ、ゆっくり休んで下さい」


「はい、失礼します」


 テントから九藤さんが去って行き、残された俺達は顔を見合わせてから動き出し、用意されていた直ぐ近くのテントに着いていたが。


「ちょっと待って、時葉さんも此処で、俺と望奈さんも此処?」


「そうでしょ、今更何言ってるのよ」


 当然の様に言い返されるも、普通に考えておかしい…


「私に外で凍えて訓練しとけと?」


「そうは言ってませんよっ」


「もうさっさと入りなさい、閉めないと寒いし私も眠いのよ」


 何故か時葉さんに背中を強く押され、テントの中に入った俺は、入り口に足を向け、その中央に追いやられ肩身の狭い思いをしながら横になっていた。


「おやすみぃ~」


 頭の上に置かれたドクロンが起きてるのか寝てるのか分からないが、助けてくれる気配を察しない俺は即座に眠る事にし、一声出して目を瞑っていた。


「おやすみ…」

「おやすみ」


 余分な雑談もせずに寝たフリをして、三十は経っても俺は眠れず、左右からは物音一つ聞こえる事は無く、静かな吐息すらも聴こえ無い状況が保たれていた。


 ゆっくりとテントの入り口のファスナーを動かしてから外に出て、ゆっくりと閉めた後に森の方に向かって歩き、森に下りて行く傾斜部分に足を置き座っていた。


「眠れねぇよ」


 女性に挟まれてどうってより、昼に起きた俺がそんな規則正しく寝れる訳が無いが、眠気が来るのは昼前ぐらいだろうか、そうなると明日は徹夜か、朝に仮眠を取りたいな。


 そんな事を一人で考えながら、月明かりに照らされる広大な森を眺めていると、静かに踏まれていく土草の音が聴こえ、その場で待っていると、後ろの茂みの中から時葉さんがゆっくりと出ていた。


「報告に来ました、千田さん」


 近づいた時葉さんは淡々と告げ、俺の隣に座っていた。


「寝たフリはどうかと思いますよ?それに時葉さんも容赦無いですね。一人な俺に、ちゃんと重みを押し付けて来るんだから」


「そう言われましても、先程申し上げてたら、千田さんが良い顔をされないかと思いましたので」


「気遣い感謝しますよ。確かに…荷ですからね」


「勝手に潰れないで下さいよ、緋彩さんに怒られるの私何ですから」


「善処は、しますよ」


「そうして下さい」


「まぁ二人で抜け出してる状況も不味い気がしますけどね」


「報告させて頂きます」


「はい」 


「今回の戦いでの死者数ですが、男性二百三十一名内、高齢者三十八名、大人百五十四名、学生三十九名、次に女性ですが、全体で二十七名、内高齢者が二十名、戦闘に加わっていた大人七名で収まっています。重軽傷の者も多数いますが上々かと、特に女性達は」


「聞きたく無かったぐらいに、酷い有様だな。高齢者の死因は全部魔物?」


「いえ、大半が逃げ惑う人によって引き起こされています」 


「そうですか…」


 その後俺と時葉さんは互いに無言のまま、微かに照らされる木々の葉と夜空を同時に見ながら、時間が過ぎていくのを感じていた。


「男女間での問題は起きてますか」


「今の所は出てませんが時間の問題かと、それに九藤さんから聞きましたが解体で五十人程集めるのでしたら、志願する女性を優遇する事を推奨します」


「女性陣の不満が溢れる前にですね」


「溢れるなんてものじゃ無いですよ?大爆発ですよ、それも大噴火です」


「規模が大き過ぎて分かりづらいですが、責任者が滅多刺しにされる想像はつきますね」


「逆にそれは無いですよ」


「ん?どうしてですか」


「女性は上手く生きるのが上手いので、誰も虎の子の尾は踏まないんですよ」


「虎の尾でしょ」


「似たようなものです、それじゃ私は戻らせて頂きますね」


「はい、お疲れ様でした」


「お疲れ様です」


 時葉さんが戻って行き暫くの間、雲一つ無い星空を眺めた後に、そっと小さく声を出していた。


「ステータス」

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