97.


 破壊された建物に近づき、距離を詰めた俺は、ゴブリンの姿も見えないまま、魔術を使い始めていた。


「魔術展開―魔攻炎岩えんが・トリ」


 前方に放った三つの炎が瓦礫に触れ、広範囲に広がる爆炎と風が瓦礫を吹き飛ばし、陰に潜んでいたゴブリンをも焼き飛ばしていた。


「「「「「「「ギャァアア"ア"アア"アア"ア」」」」」」」


 炎の塊が着弾した箇所よりも、更に後ろに在った壊れかけの建物は、攻撃で壁が崩れ支えを失った屋根が崩れ落ち、戦車が数台は入りそうな建物は瓦礫の山と化していた。


「居ナかっタラ、無駄ダっタろうニ」


「視認性が良くなっただろ?」


 何も言わず壁を正面に張り、爆風を防いでいたドクロンにそう返し、手に乗せていたドクロンを、前方の真上に全力で投げていた。


「ソリァソウダゼェ!アンちゃん!‥マジックアロー」


 宙を舞う頭蓋骨が顎を動かし、骨の音を響かせんがら大きな音を出し叫び、頭上に形成された幾つもの矢は下を向き、四方八方に打ち付ける様に降り注いでいた。


「「「「ギィヤァアッァッ―」」」」


 中途半端に生きていたゴブリンも含め、宙を舞うドクロンの視界に映っていたゴブリンは串刺しにされ、重なっていた悲鳴と呻き声が消え失せ、爆竹の様な建物を燃やす音だけが残っていた。


「イテッ」

 

 自身で何もしなかったドクロンが、地面に落ち衝突して跳ね返り、ゴブリンが死んだ場で無傷な頭蓋骨が反動で何度も飛び跳ねていた。


「いや、止まれよ。止まれるだろ」


 俺では比べ物にならない程の、芸当を出来るドクロンなら、大きさを変えたマジックバリアを幾つも展開出来る為、頭蓋のサイズなら利便性が良い筈だが、ドクロンは転がっていた。


「MPノこシテるンダ」


 俺とドクロンでは戦い方が違い過ぎる為、転がりたければ勝手に転がれと程度に考え、瓦礫の山と化した場所を見続けていた。


「マダ湧いテ来ルのカよ」


 瓦礫が積み上げられ生き埋めになってても、不思議は無いその場所から、ゴブリン共が次々に隙間から手を出し、身体を滑らせては這い出ていたのだった。


「流石にきもい‥」


 人なら自力で出られない状態から、出てくるゴブリンには驚かされるが、隙間から伸びる腕は長く、這い出た胴体も見慣れた長さとは明らかに違っていた。


「ってこいつらハイゴブリンか!?」


「アンちゃん潰すゾっ」


「ああ、一匹も出させるなッ「マジックアロー」」


 もぐら叩きの様にゴブリンに矢を当て、命中すれば一撃で倒せ、いち早く攻撃に気づいた者は再び瓦礫の中に戻っていた。


「なんでこんなに居るんだよ」


「分カラねェよ」


 居ても数匹だと思っていた、それなのに倒した数と逃した数を合わせれば既に十は超え、明らかに異常過ぎる数だった。


「厄介ダナ」


「それにこいつらッ・・・」


 顔を出した所を狙い、確実に数を減り始めたと思ったのもつかの間に、ゴブリン共がピタリと顔を出すのを止め、瓦礫の中から視線だけを向け、膠着状態になっていた。


「もう一度纏めて焼き払うから下がってろ、魔術展開―魔攻炎岩えんが!!」


「マテアンちゃんッ!」


 ドクロンからの呼び掛けを聞き、止められない炎の塊から意識を外し、周囲に視線を配り警戒するも、ドクロンが危惧した要因は分からないまま、形を成した炎を解き放った俺は、最速で後方に飛び退いていた。


 進んだ燃え盛る炎の塊に何かが当たり、その場で動きを止めた炎には穴が空き、風船が破裂したかの様に、炎の塊はけたたたましい音を出しながら爆散した。


「ぁッちぃ!」


 飛び退き距離はあったものの、顔を隠した両腕から熱が伝わり、風圧によって身体は下げられていた。


「何処のどいつがやりやがった..」


 爆散した火の粉が辺りに飛び散り、炎が遮っていた先に視線を向けると、一匹のゴブリンが瓦礫の中から顔を出し、親指と人差し指で作った輪っかを口の前で構えた姿は、吹き矢を使っているかの様な姿勢だった。


「あぁ?」

 

 軽く焼けた自分の腕を見て、一瞬ゴブリンに恨みを向けるも、変に意識すれば痛みを感じてしまい、直ぐに対処法だけを考えようとするが、考えるも何も、残された攻撃手段は一つしか無く。

 

 半ば勝手に動いた身体が横に走り、矢を飛ばしていた。


「マジックアロー」


 矢に気づいたゴブリンが顔を下げ、瓦礫の中から見えていたゴブリンが見えなくなるも、放った矢が顔を出していた下部を貫き、顔を出していた箇所からは、血が飛び散っていた。


「死んだか」


 飛び出した血を見て、倒したと感じた俺は、同じ様に矢を放ち瓦礫を貫かせ、中に隠れるゴブリン共を一掃しようと、手を前に構え、動きを止めていた。


「マジックバリア」


 手を構えた途端に瓦礫の中から顔を出したゴブリン共が、俺目掛け口から何かを飛ばすも、展開していた壁がそれを阻み、跳ね返った飛来物は地面に落ちていた。


「あぶねぇ..」

 

 二度目は無いと思いながらも、火傷を負った身体からの痛みが壁を展開させ、またもや攻撃の隙を突いて来たゴブリンの攻撃を、ギリギリで防いでいた。


「オレが殺ルッマジックアロー」


 転がっていたドクロンが飛び跳ね、瓦礫の前方で宙に浮きながら叫び、ゴブリンが居た場所を狙った矢を即座に放っていた。


「くタバンナッ!」


 ドクロンの攻撃に反応出来ないゴブリン共に矢が飛び、数匹のゴブリン一匹、一匹に矢が飛んで行き、瓦礫の最前列にまで飛来した矢は、巨大な土の壁に衝突し霧散していった。


「ナッ!?」

 

 現れた壁の向こうから、瓦礫の崩れ落ち音と砕ける音が聞こえ、壁の上に立ち昇る砂埃が揺れ、中から飛び出した手が壁上に置かれ、途切れた壁際の高い位置に現れた鉱石が、辺りを燃やす炎の色を反射し、輝いていた。


「ヤベェゾ前よリモ黒ク―」

「関係ないだろ、殺すだけだ」


「‥‥」


 明確に狙うべき敵が現れてから、俺の目はそのゴブリンだけを凝視し続けていた。

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