96.


「アンちゃんも、随分ト、染まっチまったナ」


 茶化すでも無く発せられた音は、夜道を歩く俺の肩から聞こえていた。


「‥そうか?何を判断してそう言ったのか知らんが、お前がそう言うならそうなのかもしれんな、俺が違うと言っても、体裁なんて他人が言う方が的確なんだからな」


「ソウじゃねぇよ」


「なら、何だよ」


 僅かに苛立った口調で返してしまい、間が悪くなると俺が思っていると、ドクロンはそんな事を気に留める事すら無く、普通に話していた。


「簡単に言やァ、アンちゃんを取り巻くMPが黒くなっテんのさ」


「はぁ‥?」


 今なんて言った此奴、見えている?MPがか?見える物なんかMPって、いやいやいや、それが本当でも黒くなるって何だよ。使って減って回復してじゃ無いのか、どうやったら黒く成るんだよ。


 立ち止まって思考を働かせた俺は、バックからドクロンを取り出し、手の上に乗せ、見下ろしていた。


「やっぱり、シャバの空気はうめェゼ」


 取り出された頭蓋骨は、顎を動かしたと思えば、訳の分からん事を発し、満足気に骨を動かしていた。


「おい」


「おっ、出してくれテ助かったゼアンちゃん、有難うナ」


 そんなつもりで出した訳じゃ無い俺は、手に乗る頭蓋骨を、無性に投げたい気持ちに駆られ、その気持を抑えるという理不尽な状況になっていた。


「そんな事はどうでも良い。それよりもお前、MPが見えるのか?それはどんな感じにだ?出してやったんだ、教えろ」


「何だ、アンちゃん見えてねぇのか?魔法士か魔術士んっナら、そのうち見えるだろうよッ」


「だから、どう見えんだよッ!」


「おっとト、ソウだったナ。言ったらロ?アンちゃんの周りのヒフから出テ、モワって広がっテ、周りを覆っテんだよ。デ、アンちゃんハ、ソレが普通より黒いんダよ」


「何で黒くなってんだ」


「ソりゃ分からんガ。殺シタデ、黒っテもんじゃねェシ、ソんナ気にすんナよ」


「一応聞くが、どんなけ黒い?」


「……言いタきャねェガ。アノヤバいゴブリンの次ぐラいには、黒いナ」


 聞いたのが間違いだった、最悪だ。


「マジか」

「マジダ」


 再度ドクロンに肯定されてしまい、身体が重くなった気さえしていた。


「はぁ、そんなに酷いんか」


 殺したから黒いって訳じゃないと、ドクロンは言うが、敵が黒いんだから、その可能性も十分あるんだろうし。何か、益々生きづらくなるな。


「それで、その見える力で、MPの量とかも判断出来るのか?」


「誤差はアるガ、分カると、言えバ分かるテいドにハナ」


「そりゃ有能だな、でだ。俺とお前で勝てそうか?ドクロン」


「分かラねェ、相手ガ今のオレや、アンちゃんみたいな戦い方ナラ勝テると言エるガよォ、剣持っテ振り回す奴相手に、MP見テも分かラねェナ」


「にしても、近接良いなぁ。俺も変わろうかな、これ以上MP増えても俺の黒さを目立たせるだけだろうし」


「ンナの抑エれバ、良いじゃねェカよアンちゃん」


「そんな事、出来んのか?」


 まさかの話しを聞かされ、驚いた俺はその場で立ち止まり、次の言葉を待つ形で、ドクロンを見ていた。


「アンだけマジックアロー撃っテんダ、身体からナンカが抜けテ行く感じハアるダろ?」


 天才肌に成った覚えの無い俺は、そんな事を言われても直ぐに分かる筈も無く、記憶を辿り、頭を回し、考えていた。


 言われてみれば、鳥肌が立つ感じに近い謎の寒気みたいなのが、腕辺りに頻繁に感じる様な気もするかもしれない、いや。そもそも最初の頃は異様に感じていた疲労感も今は感じないのは、俺のMP量が増えたからなのか?俺が慣れだと思っていたが、それが違ったのなら、分かるが‥‥


「分からんが、感じと言えば感じる」


「ナンダソりャア、まァ良いケドよ、ナらソれを抑エる感じデヤっテミ」


 そんな訳の分からないのを抑えろと言われて、抑えられる訳が無いが、殺しに関係して黒くなる可能性があるなら、MPもまた心と同じ精神的な分類をされててもおかしくない筈だ。


 それならその感じてる気がする、寒気みたいな物を感情と一緒に、今の溢れ出た状態よりも、更に圧し殺して内に隠すせば、きっと‥


「どうだ、ドクロン変わったか?」


「オウ、無さ過ぎテ、怖いぐラいだゼ。アンちゃん」


「これで良いのか」


 感情を消し、無心に近づく。

 

 イメージとしては寒気的なのも混ぜ込んだつもりだけど、これなら元々行っていた可能性すらあるが、戦った相手でMPを見れてた奴が居たかも分からないし、既に死んだ奴相手じゃ、確認のしようが無い。


「ソレよりもアンちゃんよ」


「何だ」


「‥‥イヤ、ナんデもねェ。ヤっぱ言ウか」


「どっちだよ」


「早いトコ倒しチまオうゼ、ゴブリンを」


「そう焦らなくても、もう着くよ」


 そもそも最終ラインより後ろに位置する場所なんて、あって無い様な広さしか無い為、数分も歩けばもう一箇所の避難所には辿り着け。


 建物の角を曲がった俺とドクロンは、避難所に指定されていた筈の建物に目を向け、無惨に破壊され建物を見ながら近づいていた。


「一匹残らず」


「殺しダ」


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