98.


「オイ‥オイッ!アンちゃん!」


「‥ん?どうした」


「大丈夫カ?」


「あぁ、大丈夫だ」


 ゴブリンの親玉が、他のゴブリンを守った光景を目にし、深く考え込んでいた所を呼ばれ、遅れてから俺は返事をしていた。


「大丈夫だ、勝てる、勝てる筈だ」


 あのゴブリンが仲間を守ったんだ、単に同族思いだったのなら話は別だが、今までのゴブリンを見る限り奴らにそんな仲間意識は無い。なら守った理由が、勝てる確率を上げる為だと言うのなら、奴単体にすれば勝機はある。


「俺が突っ込む。ドクロン、お前は援護しながら細かいのを優先的に攻撃しろ」


「アンちゃん、囮ナらオレが‥」


「お前のその小ささでか?無理だろ。役割が逆でも、弱い俺から潰すのが楽だからな向こうもそうするだろうよ。それなら、お前が動きながら片付けてくれた方が良い」


「死ヌナよ」


「だから、ちゃんと援護しろって先に言ってるだろ?」


「ハッハッァ、ソウダッタナァ!」


 俺の無理難題を笑い取ったドクロンが、弾かれた様に飛んで行き、囮の筈の俺よりも遥かに早くに、壁際のゴブリンの目の前に移動していたのだった。


「ハデニイコウゼッ! ファイヤ・ストーム」


 突然地面から現れた炎がゴブリンの足元から纏わり始め、一瞬にして火柱と化した炎がゴブリンを包み、広がりながら空高くに伸びていた。


「なっだよそれ‥」


 あの野郎、まだ隠してたか。


 予想外の事で止まっていた足を動かし距離を詰める。


 化け物が一匹から一個増えただけだ、気にしててもしょうが無いし、元々分かりきっていた事だ。Lvシステムの戦闘で、明らかに場違いな俺が戦闘に関与するには、極振りの数値を、同じ舞台まで上げる以外には無い。


 自重しろ、考えろ、最善を‥


「魔術展開―魔攻炎岩えんがッ!」


 距離を詰めた俺は、手を前に出し即座に魔術を使い始める。


 張り上げた俺の声を聞いたハイゴブリンが、壁上に張り付き三匹が顔を出し、両肘で身体を支え片手を動かし、口の前で構え始めていた。


「オウヨォ!マジックアロー」


 ドクロンが放った矢が三匹目掛け飛んで行き、的確に狙われた矢が綺麗に三匹を捉え、進んだ矢がゴブリンに命中する直前、炎の中から飛び出た剣が矢を防ぎ、剣が届かなかった一本の矢だけがゴブリンを貫いていた。

 

 矢を防いだ剣が勢いよく真横に振られ、ゴブリンを取り囲んでいた炎が徐々に消え、姿を現したゴブリンは多少焼けているものの、どう見ても支障があるとは言えない程度の火傷で済んでいた。


「庇いやがって、お返しだ」


 敵のハイゴブリンの攻撃を防いだ事で、炎の塊は形を整え、剣を振るったゴブリン目掛けて動いていた。


「ギィッ」

「マジックアロー」


 唸ったゴブリンが剣を上部に移動させ、迫る炎を切り裂こうとするも、奴の剣の間合いに炎が入るよりも早くに、俺の放った矢が炎を貫き、ゴブリンの身体の中心に浅く刺さり、穴が空いた炎の塊は激しく爆散した。


「ギィヤァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―」


 ドクロンの炎に焼かれたとは違い、ゴブリンの甲高い悲鳴が辺に響き渡っていた。


「それ熱いよな」


 距離があろうとも火傷を負わせる爆発を、至近距離で受けたゴブリンを、負った者として多少は気の毒に思いながらも、次の攻撃を放っていた。


「マジックアロー・テトラッ」


 炎を必死に退かそうと身体を動かしているゴブリンに矢を向け、俺が矢を放つと同時にゴブリンは、炎を払っていた手をピタリと止め瞬時に、その手を握りしめていた。


「ッ!」

 

 その動作に覚えのある俺は即座に飛び、離れた周囲の地面が盛り上がり、放った矢をも止めながら、居た場所は土で覆い尽くされていた。


「マジックアロー」


 矢を放ち周囲を見渡すもドクロンの姿は無く、ドクロンが先にハイゴブリンを倒しに壁の向こうに居るのなら、囮は囮に徹する為に、下がりながら秒間隔で矢を放ち続けていた。


「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 放つ矢は悉く打ち斬られ、感覚を掴んだのか、ゴブリンが壁の向こうに視線を向け、瞬時に片手を向こう側に向けていた。


「マジックアロー・テトラッ」

 

 咄嗟に四本の矢を飛ばした事でゴブリンの意識はこちらに向き、身体を動かし二本の矢を避け、一振で二本の矢を打ち落していた。


「よそ見すんなよ」


 火傷を負い矢が刺さった身体を動かしたくないのか、明らかにゴブリンは、余分な動作をする事を嫌がっていた。


「マジックアロー」


 再び俺の放った矢を左上から斜めに叩き斬り、姿勢を前に倒したゴブリンが前に飛び出、距離を詰めて来る。


「マジックアロー」


 走るゴブリンが矢を躱し、走りながら後ろに構えられた右手の剣の刃は傾き、俺を切り裂こうと下から振り上げる体勢で、ゴブリンが目の前で止まっていた。


「マジック―」


 左肩を前に出し、左に飛び退いた身体の服が剣に裂かれ、過ぎ去った剣を見る間も無く矢を放っていた。


「アロー」


 顔目掛けて放った矢を、ゴブリンが首を捻り躱し、過ぎ去った剣が再び俺に向かう中、大量の矢がゴブリンの背後に突き刺さっていた。







  





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