93.
階段を駆け下り急いだ俺が辿り着いた場は、既に爆発音などは無く、周囲から煙が無数に立ち上がり、手前には人の死体が転がり、土嚢を超えた先はゴブリンの死体で埋め尽くされ、折れた戦車砲やへしゃげた戦車が放置される中で、一つの車両だけが動いていた。
「止まれぇえ!」
最後の車両が、鎧のゴブリンに向かってるのを目にし、声を荒らげるも止まる筈無く突き進み、その後ろには小さな人影もが存在していた。
「時葉…さん、待ってぇえッ!!」
鎧のゴブリンの一撃で、中心から凹んだ戦車は動きを止め、その隙を突いた時葉さんが鎧のゴブリン目掛け、飛び込んでいた。
身体を大きく逸らし避けたゴブリンが、振るった腕が宙を舞う時葉さんを捉え、防げたのかも分からないまま、勢い良く吹き飛ばされた時葉さんは、かなり離れた壁に激突し、その壁を砕き止まっていた。
「またお前が奪うのか‥‥」
敵に殺されないでと、言ったのに時葉さん、貴方は、自衛官過ぎです。
退いてくれれば、俺と望奈さん、それにドクロンも合わせて戦えば、鎧も親玉も倒せる考えだったのに、望奈さんも居なければドクロンも居ない、何処で戦ってるのか知らないが俺一人か。
「いきなりか」
俺を認識した鎧のゴブリンが俺に指を差し、二匹の杖持ちゴブリンがマジックアローを生成し始めていた。
「相変わらず、羨ましいな。どうやったらあの数出せるんだよ」
次々に出現する矢を見ながら愚痴が自然と溢れ、頭痛が無さそうな事がそれ程までに羨ましかった。
「マジックアロー・ジ」
お前らを殺すには、数じゃなく威力が大事なんだがな。
人を殺しLvが上がった俺は、全てのSPをINTに流した結果、俺のINT値は今や98と馬鹿げた状態に成っていた。
放たれた二本の矢が杖持ちに向かい、奴らは咄嗟に矢を消し、壁を正面に展開していたが、壁を削り貫いた矢が進み、杖持ちの脳天に突き刺さった。
「彼奴等の強度超えたか‥そりゃそうだよな」
純粋に振り分ける人なら、Lv20で超えてたら良い方だろうし、他を考慮しないならもっと先に成るのが平均的なんだろうな、つまり俺も奴らからしたら化け物だ。
「マジックアロー」
静観していた鎧のゴブリンに、意表を突いたつもりで矢を放ったが、声が届かない程離れている状態では平然と避けられてしまった。
「ステータス……」
杖持ちを倒したと予想した俺はステータスを開き、上がってる事を素早く確認した俺は、迷う事無くINTにSP5を振り、INTが103に成った瞬間に勝手に数字が変わり、INT値が113にまで増えていた。
「極振りの経験者か…‥」
ステータスを閉じ、閉じる間際に目に入った、実績の名称を口に出していた。
「何処がだよ、諸刃の剣の間違いだろっ」
他なら違うだろうが、俺に限って言えば間違い無かった。
攻撃を当てれれば良いが、受ければ死に直結するのだから。
「魔術付与―重軽化」
身体に魔術を再度付与し、戦いの途中に切れる懸念を消してから俺は走り出した。
身軽になった身体で土嚢を飛び越え、ゴブリンの死体の上を走り、俺が走り出したと同時に鎧のゴブリンも走り出していた。
「マジックアロー」
走りながら放った矢を、鎧のゴブリンが速度を落とさずに位置をずらし避け、お返しとばかりに奴が地面からゴブリンの死体を掬い上げ、俺目掛けて投げてきた。
「うわぁっ…‥ッたく」
自分が放つ矢と同等か、それ以上の速さで飛来した死体を真横に飛び避け、無造作に転がるゴブリンの死体に足を取られ転びかけていた。
「魔術展開―魔攻
顔を上げる最中に魔術を使い始め、視線が前に向く頃は予想通りと言うか、そうであって欲しいという希望であったが、鎧のゴブリンは既に三十メートル程の距離にまで迫っていた。
奴が更に一歩、二歩と距離を詰め、距離が更に半分に踏み込んだ時に、ようやく完成した炎の塊が放たれた。
「はぁっ!?マジックバリア」
俺が放った炎の塊がまるで見えて無いのか、鎧のゴブリンは特に武器を振るう事もせずに進み、大きさが更に増した三つの炎の塊と鎧のゴブリンが接触し、激しい爆炎と爆風が周囲を襲い、展開してた壁が刻みに振動する。
「グォァァ"ア"ア"ア"ア"」
甲高い声が耳に届き、俺は無意識に気が緩んでいた。
吹き荒れる炎の中で灼熱に曝された鎧のゴブリンが叫び、声を荒らげ苦しみ絶命する、INTが上がり壁を貫いたからか、鎧のゴブリンもそのまま倒せると思っていた最中、飛び出して来たゴブリンは無傷の状態で、目を見張る間も無く壁を打ち砕いたゴブリンの攻撃が俺を横に吹き飛ばしていた。
「ぅッ―」
受け切る思考なんて最初から無く、吹き飛ばされる方向に進んで飛んだ為、勢いを増した身体は予想以上に飛び、地に足が着いてからも勢いを殺すまで数え切れない程転がっていた。
「痛てぇえ、彼奴、無効化のスキル切って、悲鳴で騙すとか、やる事がゴブリンじゃねぇだろ、人のそれだ…‥ろって、え」
戦ってた主戦場から離れた為にゴブリンの死体も周りに無ければ、土嚢の向こうに集まる死体も無い筈の場所で、起き上がろうと地を擦った手からは、人肌の感触が伝わり反射的に目を向けていた。
横たわる華奢な身体と、長い髪が目に入り、瞬く間に跳ね上がった鼓動が音を消し、思考する間も無く俺の手は、顔を覆っていた髪を、手でゆっくりと動かしていた。
「望奈」
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