90.


「来るなぁあああッ」


 耳障りな声を意識したくは無いが、何を言ったのか把握してないと厄介だ、逆に聞いていれば奴が何をしたのかが分かる。


 今叫んだのは力なのか単なる拒絶なのか分からないが、俺の動きが止まる事は無く進み続けていた。やはりLvが自分より低い者だけが対象か、MPの総量の優越で変わるのだろうな。


「相性最悪だな」


「何がダぁあッ!くそッ‥お前ら何突っ立てる奴を殺せ、殺すんだよッ行けッ!」


 奴の号令により左右に立つ並ぶ、三,四十人程の人らが一斉に迫ってくる。


「マジックアロー」


「消えろッ!ははっさせねぇよ」


 下がりながら発した矢が即座に消され、下がり続けたまま再度矢を出現させる。

 

「マジックアロー」


「消えろッ無駄だ何回でも消してやるッ」


 現れた矢が消され、時間も無ければ後のMP残量も考えなければならない為、矢は放つ構えを担っていた左手をポーチの中に入れ、取り違う事の無い残っているフラッシュバンを部屋の中央目掛け投擲した。


「なんソレ」


 意識を集中させていた為、小さく呟かれた奴の声が聞こえ、部屋の中央を舞うフラッシュバンが容赦なく発光する。


「あ"ぁぁ"あっぁ"ああ"あぁ"目がぁあ"ぁぁあ"ぁぁ‥‥」


 まぁ最近の若者なら知ってると思ったが、常識じゃ無いもんな、それに知ってても訓練してなきゃ咄嗟に目は逸らせ無いよな。


「マジックアロー・ペンタ」


 一本の矢で奴を狙い、残り四本の矢で俺を追い、列を成した左右に二本ずつ矢が飛び、視界を奪われ叫んでいた奴が攻撃に気づく筈も無く、気づいたのは、放った矢が腹を貫いた後だった。


「痛ったぃ....ぇ?なに、これ‥血がぁ..ぁあっ、あぁぁッ―――――」


 高過ぎる声が途切れ奴は蹲りながら膝を着き、周囲からも悲鳴が一つ聞こえれば広がり、耳を覆いたくなる程の囂然さが起こる中で、無傷の者はそのまま迫り、怪我を負った者も血を垂れ流したまま俺に向かって来ていた。


「マジックアロー」


 奴が俺の攻撃を消す事は無いまま、放たれた矢は、一番近い敵に命中し、その後続もを容赦なく貫いていった。


「マジックアロー」


 自然と最短距離で追いかけて来る敵に対し、下がりながら矢を放てば奴らは殆ど一直線上に居る為、俺の攻撃が消される事も無いまま何度か繰り返していると、立って動ける者は全員死に、残っているのは這いつくばって迫る者と、奥で蹲りながら倒れてる奴だけだった。


「お前が死ぬまで、迫って来るのは中々に良い力だな。色々有用性が有りそうだ」


「痛ぃ...助けて」


 横になったまま俺を見、枯れた声で助けを懇願して来る姿には、最初の威勢のいい高笑いの奴の印象は何処にも無かった。


「って言ってるが、皆さんどう思います?こいつ助けても良いですか?」



「殺せ...」

 這いつくばり、ゆっくりと近づいて来る数名の中から聞こえた声を逃す事は無く、上がりそうになった頬を止め声を出した。


「だってさ、どうやら君は全然慕われてない王様だったみたいだ。すいませんでした、もぉ楽になって下さい。マジックアロー。マジックアロー。マジックアロー。マジックアロー」


 一人一人確実に、頭を狙い命を断つ。


 別に恨まれても構わないが、無用に苦しめる趣味は俺には無い、苦しめられるのは俺みたいなのか、目の前で蹲り、涙と血で顔がグチャグチャに成っている此奴みたいな連中だけで十分だろう。


「よぉ、まだ生きてるよな?」


「たすぅ..けて....下さい」


「命乞いすんなよ」


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ‥あしぃがぁ...」


 横になっている奴の足を全力で踏みつけ、骨の折れる音が足から伝わり、足を退けると足が置き去りにされ変な方向に動いていた。


「さて時間が無いんだ、さっさと答えてくれよ?じゃないと指を一本一本折ってる暇は無いから次は目だぞ」


「やめてぇっ..」


「はいはい、なら答えようね。お前のステータスだが、職業は?」


「・・・ぅ..」


「聞こえん」


「言魔士‥‥」


「何だそれは、最初から選べたのか?」


「ぅ‥」


 微かに奴が頷くので、肯定と捉えるが、最初から選べるにしては些か強過ぎないだろうか、明らかに特殊だし、汎用性が高すぎて純粋に、羨ましい。


「他に設定してる職業は?」


「‥ぃ」


「無いのか?」


「う‥」


「それは設定出来なかったのか?それともぉっ―」


 急に激しい爆発音が聞こえると同時に建物が振動し、窓を探すも周りには無く、再度の爆発音と振動だけが、伝わって来る。


「それでお前が設定しなかっただけなのか?出来なかったのかどっちだ!?」


 多少早口に成り問かける。


「‥‥‥っ」


 しかし奴が声を発する事は無く。目から光は消えており、奴の全身がぐったりと地に張り付き、強張っていた身体が、微塵も動かなくなっていた。


「血を失い過ぎたか」


 だからと言って、加減なんて出来ないし、仕方無かったと言えば仕方無かったが、どうせならもう少し答えてから死んで貰いたかった。


「おやすみ、王様」


 結局情報は得られず仕舞いか、だけど経験値は‥


【千田 本暁】 Lv13(1281/1300)


 良し上がってるな、どうせなら後少し有ったら良かったが、幾ら何でも無い物強請りが過ぎるか、どうせ直ぐに上がるか、死ぬだろうし、気にしてても仕方ないな。


 下りて全滅してましたじゃ、流石に笑えない。


「生きてるだけで良いから――」


 

  

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