89.


 左右に立ち並ぶ人達から戦意は感じられず、殆どの者が怯えて居るのか、身体を縮こませ言われたまま立っている置物であり、性別も違えば年齢も関係なく、小学生らしき子から高齢の方までがじっとしていた。


「で、王様は何がしたいんだ?」


 問いかけて直ぐに返事が返って来る事も無く、奴が首を傾げて数秒してから、耳に響く甲高い声が聞こえて来た。


「何って王様だよ?王様は、偉くて、何でも出来るんだよっ!知らないの?」


「それで人を殺して、王様に成った訳だ?」


「だって皆、僕が命令しても聞かないんだもん」


「だから、殺したのか?」


「そう!王様の命令に従わない奴を殺していけば、皆従う様に成ったよ!ほら今だって良い子に並んでるでしょっ」


 高らかに声を出し椅子から立ち上がり、両手を左右に広げ、躊躇いなく両サイドに居る人達を示して良い子と言い張っていた。


「お前が自分の我儘の為に人の命を奪う様に、俺も自分の為にお前を殺すがお互い様だよな?…‥死んでくれ」


「え?」


 会話する事を止めた俺の発言を聞いた王様が、口を開いたまま動きを止めるが、気にせず片手を上に上げ魔術を発動させていた。


「魔術展開―魔攻炎岩えんが


「ちょちょつっちょっとッ!たんま!待ってってッ!」


 膨れ上がる三つの炎を見て、慌てふためいてるが、構わず魔力を流し続け放てるまでに完成させ、答えながら魔術を放っていた。


「誰が待つか」


「あああっ来るなぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁあぁぁ‥‥」


 奴はただ叫ぶだけで動きもせず、両手を前に出し無闇に動かしているが、それで何をする訳でも無く、奴を飲み込む程の炎の塊が迫って行った。


「なんてねっ。消えて―」


 奴と接触する直前で炎の塊は突如として消え、渦巻く炎の音で消えた後に聞こえてくるのは奴の笑い声だけだった。


「ははっはっはっはっはははっ最高ッだよ!ねぇどんな気持ち?ねぇねぇ?!今どんな気持ちなのさ!?」


 真面目に答える気も無いが、正直訳が分からない、奴の叫び声までは聞こえていたが、その後に呟いたであろう口が動いた途端に消えやがった。


 そもそも力技で相殺したんじゃ無く、一方的に消された感じだったが、そんな事が有り得るのか?まぁ有り得るから現実に起こってるのだろうが、それでもそんな出鱈目な力を持ってるなら、こいつが外で暴れてゴブリン倒せよ。


「何をした」


「分かんないよね、教えて欲しぃよね?ねぇねぇ?!でもだめ~教えないもんね~」


「お前に聞いた俺が悪いわな、馬鹿じゃ人に教えられないのも無理ないか」


「んぁ?なんて言った?」


「馬鹿じゃ、人に教えるのも無理って言ったんだが、違うのか?」


「殺す――死ね!」


 急に声を張り上げ奴が叫ぶが、特に気にせず自分に魔術を掛けていた。


「魔術付与―重軽化」


 さてと、扱いやすくて助かるな、まさか一瞬で怒ってくれるとか有り難い限りだ、怒れば怒る程周りが見えなくなるからな。


「なんで‥‥なんで死なないんだよッ!」


「ん?何言ってる?なんかしたのか?」


「怖い怖い、なんの妄想してるか知らんが、いくら理不尽なゲームでも、即死なんてある訳無いだろ」


「黙れッ!おいお前!」


 急に怒鳴った奴が、俺から見て右側の奴に一番近い男性に指を指していた。


「―死ね!」


 再び声を張り上げ奴が叫ぶと、指を指されていた男性がバタリと倒れ、全く動かなくなった、まるで死んでしまったかの様に。


「‥‥嘘だろ、おい」


「ひぃっひぃっひぃっひぃ、死ぬじゃん、死ぬじゃん!だから、お前も死ね!」

 

 引き笑いをしながら、俺を指差し奴が叫び咄嗟に身構えそうになる。


「まぁ、一回やって無理なら無理だろうが、見せられたら流石に不気味だわな、その力。それでそれは何なんだ?流石に教えて貰わないといけないな、それは」


「何でだよぉおおッ!何で死なねぇんだッ!」


 地団駄を踏みながら喚く姿は、子供としか思えない程に無分別で、その容姿が青年では無く幼い子どもの姿だったらと思うが、そうで在ったのなら遠慮なく殺せていたか疑問が残ってしまう為、今で良かったのかもしれない。


 なるほど、だから周りの人達は逃げもせず逆らいもしないのか、動けないもしくは動いても殺される。まぁそんな状況なら仕方ないわな。


「お前が王様の時間は終わりだ」


「黙れッ黙れッ!僕が王様なんだお前なんかに上げるか!」


 誰も欲しいとか、名乗るとも言ってないが、理性を失った奴に何を言っても無駄か、王様とか恥ずかしい名称を自称するだけで、あの力が手に入るなら考えなくも無いが、そういった力付きの称号なのかは殺せば分かるか。


「じゃ、死んでもらうか」


「まてッ!良いのか?」


「この期に及んで何だ?何が良いんだよ?ちゃんと分かる様に言ってくれ」


 流石に不思議な力を持つ相手だけに、軽率に無視するのを避けた俺は、ゆっくりと聞き返す。


「お前がそれ以上近づいて、僕に何かするならこいつらを全員殺すぞ!」


「何だそんな事か」


「何だってなんだよ、良いのか!殺すんだぞ!?全員だ!全員ッ!この場に居る奴皆殺しに―」


「俺に何の関係がある?無いだろ好きにしろ」


 奴が喚き散らかすのをお構いなしに、仕舞っていたナイフを取り出し、ナイフを手に持ったままゆっくりと歩き出していた。

  

 


 


 

 




 

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