86.
薄暗い廊下を微かな光で照らし進んだ俺は、角を二回曲がり、再度角を曲がろうとした所で足を止め、ライトを消していた。
二人か…
話し声を聞き分け予想を立ててから、最小限に覗き込み廊下の向こうに目を向ける。
角を曲がった先の廊下は変わらず暗闇のまま、20m程先の周囲だけが照らし出され、一人が背を向ける形で、二人の男が向かい合いながら談笑していた。
覆いかぶし消したライトにを目を向け、光が漏れて無い事を確認し、武器庫から拝借したナイフを取り出してから角を曲がり、壁擦れ擦れをゆっくりと歩き出す。
「――好きだねぇ。でももぉ死んでんじゃねぇのか?どうやっても戦えなさそうだしよ」
「何ぃ言ってんだ、か弱いからガキは良いんだろ。こう無抵抗の細い手足をよぉ」
「あぁ分かった分かッたから、落ち着けって」
呑気なものだな…
まぁ、善人じゃないみたいで良かったが。
暗い道を歩けど、二人が気づく事は無く、後数歩も歩めば、奴らが持つ灯りによって足が照らされる距離にまで、来ていた。
ギリギリの所まで進んだ俺は、身体を前に傾け、伸ばした両の手は、背中を向けていた男の首筋にまで届いていた。
「んッ…‥‥」
ナイフを持った右腕を引くとナイフが皮膚を貫く感触が伝わり、勢い良く引き抜いてから地を蹴り、驚愕の表情を浮かべる目の前の男の胸に、深く突き刺した。
「なッ…て。めぇ‥‥」
ゴブリンが硬過ぎておかしくなるが、やはり人は柔いな。
ナイフを引き抜き支えを失った男共の身体が崩れ落ち、どさりと倒れる音が耳に届くが、叫ばれないで殺せた事を考えれば些細な事だ。
近くに誰か居れば何かしら反応して音が聞こえると思い、耳を澄ませても聞こえて来るのは、引き抜かれたナイフから血が地面に滴り落ちる音だけだった。
「ふぅぅ...」
深く考えるな、考えるな。
後何回も同じ事をやるんだから。
【千田 本暁】 Lv11(581/1100)
増えてる。な‥‥
人を殺めといて違った。そんな事にならなかったのは取り敢えず良かったが、成ってしまったからには、殺す他無い。
重たくなった足取りで先を急ぎ、突き当りの階段から上に上がり、階段辺の廊下の造りが似て居た為、男二人組が居た場所にまた人が居るのかと思いきや、誰も居らず静かで暗い廊下が在るだけだった。
そもそも何故あの二人は、一階に居ながら居座り続けたんだ?逃げようと思えば建物からは簡単に出られる筈だ、実際俺は簡単に入って来たのだから。
誰かに配置され見張りを兼ねていると思ったが、同じ構造のこの階には居らず、下に居たのは単にあそこが一階だったからだろうか、それなら一階の入り口を見張らせれば良い筈だが‥‥だめだ今はただ進もう。
ライトが無ければ歩く事もままならない暗い廊下を歩き、部屋があればその都度ライトで中を照らし確かめる。
照らす部屋には物しか無く、有っても死臭を漂わせる死体だけが転がり、奥の部屋には無数の死体が人為的に詰められたりしていた。
「えげつねぇな」
殺して放置した俺が思うのも変な話だが、俺が死体ならこんな無造作に押し込まれるぐらいなら、廊下で放置してくれた方が有り難いというものだ。
「刑務官か‥」
大島さんが此処を放置してた事が不思議だったが、元から居た職員だけで抑え込めてたんだろうな、だけどゴブリンが外で暴れ始めたのを気に暴動が起き、手早く殺しきれない刑務官達は殺された感じか。
「強制力が、有れば…か」
山積みにされた死体の中で、刑務官らしき服装を探すと数名分目に入り、明らかに他より身体の小さい死体などが在ったが、だからと言って何も出来ない俺はその場を離れ歩く。
それから歩けど歩けど、放置された部屋しか無く、生きてる者を見つけられないまま階段を上り、同じ様に探すも何も見つけられないまま、再度階段を上り四階にたどり着いていた。
四階に着き、階段を上がった先に下の階とは違う部屋があり、まだ上の階が在るのに階段も途切れ、上に上がるには他の階段を探す他無かった。
せっかく二階、三階と歩き、図面を頭に入れた意味が消え失せたと思うと残念だが、仕方ないと言えば仕方ない。
目の前の部屋の扉をゆっくりと開け、部屋の中を確認するが、幾つもの机が置かれ、その分だけ椅子があり、部屋の角にはソファーが置かれており、職員が使っている部屋らしき場所だった。
此処も――
この部屋にも誰も居ない、そう思い扉を閉めようとした時、何処からか話し声が微かに聞こえ、目を動かし部屋の中を見るとパーティション越しに扉の一部が目に映り込んだ。
少しは自重して静かにしとけば、俺が気づく事も無く、生き残れたかもしれないのに、どうしてこうも騒ぐのだろうか。
お前らが呑気に話してる間も、人が外でゴブリン共と戦い、殺し殺されの戦いをしてるのに、話に花を咲かせてるお前らを経験値に変えても、別に、良いんだよな。
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