85.
自己犠牲か…‥分からんでも無いが、面識すら無い奴の為には俺は出来ないな。
「一部省略しましたが、突き落とす人は体重がかなりあり、落とせば確実に止まりますが、貴方みたいな華奢な人が落ちても止まる保証はありませんよ?貴方が死んで五人も死ぬ事だって全然有り得ます」
「それでも私の答えは変わりませんよ。私が死ぬ事で誰かが助かるかもしれないなら、それで良いじゃ無いですか」
大多数の他人の為に俺は死ぬ気はサラサラ無い、だが時葉さんは違う。だからと言って、人種側で高Lvの俺か望奈さんが、時葉さんを殺したから奴に勝てるのだろうか、俺の予想が正しければ1Lvは上がるが、それだけなら希望的観測に過ぎない。
今は確実性を得なければ文字通り全滅する。
「先程何を話してたのか聞かれましたね」
「えぇ教えて頂けるのですか?」
肥えた経験値が無いのなら、数で賄うしか無い。
「俺が今から人を殺しに行くんですよ」
「‥‥‥え?今、なんて言いました?」
大島さんとは違い明らかに動揺が見て取れる。
「人を殺すんです」
「だれ‥が?」
「俺がです」
「なんの、何の為にですか」
「人を殺せば、経験値が手に入る可能性がある、だから殺すんです。そして時葉さん、貴方は他人が助かる為なら命を投げ入れると言った、嘘じゃありませんね?」
「だから、こんな質問を‥‥」
「まぁそうですが、平然と違う答えを言われた時は驚きましたがね。それで貴方は、俺に殺されても良いんですよね?」
明確に殺意を向けられた時葉さんが反射的に身構え、俺から距離を取ろうとした力んだ所で動くのを止め、強張っていた身体が、徐々に戻っていた。
「私一人が死ねが、事足りるのでしょうか」
「足りませんね。ですが殺す数が減るのは確かです」
「‥‥そうですか、一人でも多くが助かるのなら構いません、人思いにやって下さい」
「言質は貰いましたし、それじゃ時葉さんは今から防衛に加わってゴブリンを倒して下さい、あっ、勿論無駄死には禁止ですからね、サクサクゴブリンを殺して少しでも肥えて下さい」
「‥‥‥」
俺の物言いが悪いのか、時葉さんが固まってしまうが、今直ぐ彼女を殺めるメリットが無い限り殺さない、それよりは防衛に加わって時間稼ぎをして貰った方が良いだろう。
「それと強ゴブリンには絶対殺され無いで下さいね、敵が強くなるので」
「は、はぁ...分かりました‥‥」
「それじゃ」
時葉さんが呆けて居る間に俺はさっさとその場を離れ、俺は再び基地外の南側を歩いていた。
この辺の建物の中には、この状況下でもそのまま取り残されてる奴らが居る、警察や軍も割ける人員など居る筈も無く、最低限の食事を用意した後は放置状態と化した拘置所だ。
未決拘禁者には悪いが判別してる時間は無い、だから手当たり次第に殺すだけだが、そう簡単じゃ無いだろうな。
「殆ど真っ暗だな‥」
拘置所に辿り着き正面の扉を開き中を覗くが、入り口から差し込む月明かりが途切れた先は、暗闇に包まれていた。
まぁ何とかなるか。
手を後ろに回し、ポーチからペンライトを取り出した俺は、上着の袖で先端を覆い、ペンライトの光を弱めてから中に入って行く。
自分の構造感覚を信じ奥に進み階段を登ると、両開きの扉があり、丈夫に作られた扉の枠には、鉄格子に加えガラスが間に挟まれ反対側が見える様になっており、扉の先の廊下には幾つもの扉が左右にズラリと並んでいた。
最悪だ..
本当に最悪だ。
目に飛び込んで来るのは無造作に開け放たれた扉の数々、そして廊下に散りばめられた小物やシーツなどの布と、死体だった。
ドクロンを連れて来るべきだったか、いや違うか。彼奴は望奈さんと居た方が役に立つ。
だけどこれじゃ時間が足りない。
一部屋一部屋見て回らないと行けないし、背後にも気を配らんと行けないのは正直言ってかなり面倒だし、外でいつ戦闘が始まるか分からない状況は最悪だ。
隠れられたら面倒だが、走って手当たり次第に生きてる奴を殺すか?
もし人と人が初期で殺し合えば、一人を殺った時点でLvは2で、そいつら同士が殺し合ったとしてもLvは3の後半か。
この建物に収容されてる人数が300から400なら一人に集約されたとしても最高Lvは‥‥‥Lv13辺が限度化か、それに、分散されてたとしてもLv10が二,三人は居るな。
まぁ集約してた方が殺す数が少なくて済むが。
そんな奴は間違いなく殺人鬼の心を持つ、死刑囚なんだろうな。
「はぁ...」
小さな溜息をつきながら扉をゆっくり開け廊下に入ると、漂う死臭が鼻を突き刺し記憶がフラッシュバックし、吐き気を催してしまう。
「情けねぇな、今から人を殺すってのに‥」
呼吸を意識から外し、口から吐く息と共に無用な感情を押し留め、全身の力みを外し手足の先までの感覚が行き届くのを感じてから、軽くなった足取りで静かに進み出す。
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