83.
目視で人が判別出来る距離にまで来た俺達を待っていたのは、絶望感漂う空気と、疑う様な冷たい視線だった。
「烏合の衆ね」
「時葉さんも居るんですよ」
「取り繕っても意味無いでしょ、それに私善人面するの、嫌いなの」
確かに良くも悪くも、望奈さんは優しい一面を持ち、同時に切り離す時に上辺は無く、容赦なくそれを実行していた。
「まぁ最前線で戦ってるのに、これはな」
「私の事はお気になさらず。それに事実と言われれば事実ですから…」
自衛官、防衛に加わっている市民から、視線を向けられながら歩き、俺達三人は大島さんが居る天幕の中に足を踏み入れていた。
「此処は場所が移っても変わらないですね」
嫌味を込めた挨拶を最初に当て、いつもと変わらない感じで互いに接していた。
「少しばかりか、騒がしくなったのは残念だが」
「彼の、生死は見たかね」
「確認してません。ですが爆発に巻き込まれたのは、確実かと」
「そうか…愈々運にも見放され、万事休するか」
「みたいですね」
「その割に随分と落ち着いてるじゃないか」
「逃げられるなら多少は焦りますが、それも出来ないと来たら観念するしか無いだけですよ」
「ちょっと良い、かしら」
俺と大島さんの会話に入り、俺達が軽く頷くと、望
奈さんは言葉を続けた。
「私ちょっと抜けて良いかしら」
「何処かに?」
「あら、私が何処に行くのか気になるの?ふ〜ん」
「何ですか急に…」
とわ言ったものの気まずいのは事実だ、急に変なからかいして来ないで貰いたい。
「冗談よ、最後に。いつゴブリンが攻めてくるか分からないから、可愛い後輩があの世でも付き纏わない為に話をしに行くのよ」
嫌それ、逆に死ぬ間近に接触してたら、余計未練残って付き纏われるのでは?まぁ本人の自由だが。
「なるほど、後輩思いの望奈さんらいしですね」
「違うわよっ。貴方は姿を消さないでよ、探すの大変なんだから、じゃ」
用件を伝えた望奈さんが天幕から出て行き、中には俺と大島さんに、終始静かな時葉さんだけが残った。
「叔父さん」
「おじッ!?」
「全くっ。最後の最後に何をしでかしてる、まぁもうどうでも良いが」
「あっー……その、失礼致しました」
急に頭を下げる時葉さんと、苦笑面で話す大島さんを見て、俺はようやく理解した。
「お二人は、その〜」
「姪と叔父だ」
「どうやったらこんなハンサムの血系で、美人が生まれてくるんだよ!あ、すいません独り言です」
意外さに驚き、つい心の声が出てしまったが、俺は気にしてないのだが、横の人物は酷く動揺していた。
流石に自衛隊のトップに口の利き方がなって無いとか、思ったのだろうが今更帰るつもりは無い。
「それなら、俺は下がりましょうか?家族水入らずとは違いますが、親戚水入らずにしましょう」
「いや、構わん。それでどうした?」
酷く動揺している時葉さんに、大島さんが話し掛けていたが、その顔付きは先程より優しさが増し、何処にでも居る叔父さんそのものだった。
「叔じ…失礼しました。大島陸将、御提案があります」
「聞こう」
「今こそ部隊を再編し、動ける者全員で攻め返すべきです。このまま守っていても勝てません」
「攻めれば今よりも市民が死ぬ」
「負ければ全員死にます、それよりは可能性がある方が私は良いと思いますが。何が違うと言うのですか」
既に二人の会話は親戚同士の会話からはかけ離れ、熱を帯び始める部活と、常に冷静に答える上司のそれだった。
「市民に一緒に戦ってくれと言うのか君は、そんな事をすれば間違いなく暴動が起き、ゴブリンに殺される前に死傷者で溢れかえるぞ」
「ちゃんと話あえば、理解をー」
「無理ですよ、時葉さん」
「千田さんまでどうして…」
「言ったと思いますが、自分は他人をそんなに信じてません、だから彼等が一致団結するとは思えない。それぐらいならゴブリンがあの場に入るまで大人しくして貰ってた方が助かります」
「それに、いざ戦う所まで行ったとしてもだ。追い詰められ脅威が迫れば冷静にスキルを使える者など限られる、元より覚悟のある者は最初から戦っている彼等だけだ。それ以外は戦う事を恐れ、我々に庇護を求めてきた者達だ、それなら自衛隊が居る限り守るのが我々の存在意義であろう」
そう締めくくった大島さんに、自衛官である時葉さんに反論する余地は少なく。これがただの親戚間の会話だったらどんなに気楽に反論出来ただろうに。
「分かりました。失礼します‥」
時葉さんまでもが出て行き、天幕には机を挟み座る大島さんと椅子に座らず、机の前に立っている俺だけが居り、話を聞く者は一人も居ない、そんな状況が意図的に作られてしまった。
「さて、これで良いかね」
「僕は何も頼んでませんよ?」
「人払いをしろと、君の目が訴えていたよ」
無意識にそうしてたのなら、親戚の最後かもしれない会話を奪ったのは、申し訳ないな。
「それは素直にすいません。別にわざとじゃ無いんですよ」
「構わん」
大島さんが座り直し、外に視線を動かしてから、再び口を開いた。
「それで私に、何をさせる気かね?」
「具体的に、何かをしてもらう気は、ありませんよ。大島さんはただ黙認してくれれば、それで良いんです」
「何をだね」
丁寧に聞かれ、こちらが丁寧に返そうと思っても、それは出来ない。今から発する言葉に丁寧という言葉は当て嵌まる筈も無く。ただ言うしか無い類の言葉を、俺は何の躊躇いも無く言っていた。
「簡単ですよ、俺が人を殺す事をです」
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