82.


 あぁ‥「そういう事か」


 起きてしまった事を受け止め、訳の分からない1、という数値を得られた理由を考えていると、呼吸のリズムは正常に戻っていた。


「どういう事よ何でこうなってるのよ」


「望奈さん、落ち着いてください」


「…うん」


 口調が早まる望奈を抑える為に、意図的にゆっくりと話、話す速度を下げさせる。それに今から話す事も仮定でしか無く、冷静さを欠いた状況で聞けば鵜呑みにされかねない。


「望奈さんの経験値は、501ですよね?」


「そうよ、だから謎なんじゃない、増えてないもの」


「でも逆に言えば、殆ど増えて無いおかげで、一つの仮説が当てはまりました」


 そう、この想像は恐らく当たってるだろう、だけど同時に最悪である事に変わり無く、言ってしまえばその時点で常識では勝つ事は不可能になってしまう。


「勿体ぶらないでよ…」


「すいません、本当に合ってるか考えてましたか」


「私も、少しは冷静になったと、思うから、一緒に考えれば良い事よ。それに三人いれば文殊の知恵ってね」


「まだLv10に成って居ないのですが」


「気にしないで下さい、何か不自然に思ったら、どうぞ御遠慮の無い意見を頂ければと思います」


「はい。頑張ります」


「それでだが…」


 二人に話しても良いのか再度一考し、俺は話す事にした。どちらにせよ、絶望的状況なのは変わらなく、状況が多い方がより選択肢を得られるというものだ。


 俺なんかより二人の方が頭の回転早そうだし。


「俺と望奈さんの経験値が501で止まっており、ゴブリンを倒しても経験値になっていないのは明らかですが、まず最初に確定してるのが鎧のゴブリンは500経験値占めます」


「えっ、あのゴブリンそんなに貰えるんだ…」


「まぁ、その分苦労しましたし、普通は勝てそうに無いじゃないですか?」


「確かに…」


「そして残りの1ですが、これは憶測の域を出ませが恐らくは、俺か望奈さんの流れ弾による被弾で、普通のゴブリン以外が死んだんでしょう、あの背の高い奴とか」


「それじゃ普通のゴブリンは幾ら倒して無駄なの?」


「今は無駄でしょうね」


「失礼、それはゴブリンのLvが9以下だからですか?」


「…そういう事になりますかね」


 渋ったつもりは無かったが、時葉さんに先に言われてしまい、二人がその意味と状況を重ね合わせ、思考を巡らせれば巡らせる程その顔色は悪くなる一方だった。


「それって無理じゃない?だって、この戦いの枠にあの図体の大きいゴブリンが混じってる時点で、勝てる方法無くなってるじゃない」


「厳しいと言わざる、ですか…」


「まぁあのゴブリンはレイドボスだった訳ですか」


「強襲して倒せって?」


「すいません、俺みたいな奴が言う意味は、大勢で強敵を倒す意味で使いますね。だから、あの馬鹿でかいゴブリンはLv10が最低条件の人が、二,三十人集まって挑んでやっと勝てるかどうかの敵か。そもそもゲームじゃないんですから頑張れば勝てる何て事は、無いのでしょうね」


 結局、これは現実であり、ゲームじゃない。


 それなら幾らゲームの知識があろうが、この世界に適した正攻法を行うのは王道で、ゲーム概念に捉われるのは邪道だろう。


「やっぱり、勝てないのね」


 呟いた望奈さんから表情は消え、逆に時葉さんは諦めまいと必死に考えていた。


「まぁ最初に戻っただけですよ、気楽に行きましょ」


「千田さんは少し気楽過ぎます!」


 必死に考えていた時葉さんが食い付き、俺にも考えて欲しそうに、こちらを見ていた。


「まぁ場所が限定されてるのは辛いですが、Lv10でリセットだと思って、また地道にノッポなゴブリン、ハイゴブだっけ?とかを倒しとけばまたLvは上がって行くって事でしょ?リセットですよリセット」


「それもこの戦いに負けたら出来ませんよ、だからあの親玉を倒そうと考えてるんじゃ無いですか」


「幾ら時葉さんが考えても、そんな方法はありません、あるとしたらそうですね、自衛隊が実はピンポイントで使える生物兵器とか、この基地にたまたま完成品の超電磁砲がありました!とか言わない限り無理ですね」


「そんなのは有りません。それに先程の砲撃で死なないのなら、既存の武器では太刀打ち出来ないのでは無いでしょうか」


「考えても仕方無い事も有りますが、そろそろ最終防衛線に行きますか。まぁ手遅れの可能性はありますが」


「行って下さるのですか?」


「俺は一体何だと?」


「自由な放浪者?」


「何ですかそれ。ちゃんと行きますよ」


「本当に行くのね?貴方にしては珍しいじゃない」


 ようやく時葉さんが抱く俺の印象を少しは動かせたと思えば、望奈さんが横槍を入れ崩し去っていく。


「珍しくありませんから、ささっ行きますよ」


「りょーかい」

「分かりました」


 二人の反応はそれぞれだが、唯一の救いは誰も投げやりに死ぬ気が無い事だろう。


 二人を急かし俺達は走り出した。


 余りにも遅くてはい、手遅れでしたなんて事は避けたい。せめて大島さんには生き残ってもらい、この戦いの後の厄介事を全て背負ってもらわなければ困る。











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