80.
時間があるなら、ゆっくりと戦いたかった、だがそんな時間は無い。
「死ね」
「はぁ?」
俺の言葉が耳に届いたのか、男は訝しげな表情を浮かべるが気にしない。
「水矢」
「はっ口だけかよ、そんなちっぽけな矢で俺が殺せるかよッ」
「マジックアロー」
奴の言葉を聞き流し、声を張り上げスキルを発動させる。
「今度は威勢を張って、何の意味が‥‥何だこれ」
男が喋ってる間にも矢は生成され始め、一本、一本、また一本と現れる速度は増していき、数十、数百のマジックアローが、奴の周囲を逃げ場無く囲み。
「
望奈さんの声が背後から聞こえ、背後からの風きり音を起点に構え、矢が奴の上空から落下し始めた途端に、周囲の矢も動き始め、地以外の全方位から迫る矢が奴の逃げ場を完全に塞いでいた。
「ふざけんじゃねぇええッ!」
奴の身体から微妙に光、何かのスキルを使ったらしいが、関係ない。
「死ね」
男は腕を振るい一矢、二矢と、迫り来る矢を叩き落とすがら、飛来が僅かに早かった矢を打ち落としに過ぎず、背中に一本の矢が当たったが刺さりきらず落ち、痛みに反応し腕で後方を振るうがその時に矢は無く、男が振り向ききった瞬間に数百、千をも超えていそうな数の矢が、無情にも飛来し続けたが男をハリセンボンの様に仕立て上げていた。
「て…テメぇ」
速度を失った矢が数秒で消え、男の身体を視認するが、全身は赤い斑点に埋め尽くされ、腕で守ったのか顔だけは周囲が少し腫れている程度だった。
「テメえだけは許さッ――」
男が喚き出したタイミングで最後の矢を放ち、男の心臓に深く突き刺さる。
「言わなかったっけ、関係ないって、あっ言ってなかったかすまんな」
「おぼぉ、え…」
「死人に口無しだ覚えとけ」
口から血を垂れ流し声を出し、胸部に深く刺さった矢が消え、血が盛大に吹き出し男は、胸を押さえ付けたまま倒れていった。
「行きましょう」
「何言ってるんですか、早く行って加勢しなくては」
「時葉さんが突っ込んでる間に、ヤバいのが出てきたんです絶対に勝てない、五島さんが時間を稼いでる今し―」
「伏せてッ」
俺と望奈さんの肩に手を置いた時葉さんは、俺達を伏せさせ、俺と望奈さんは片膝を着き身を縮める。
遠くで炎が巻き上がり煙を上げ、耳を塞ぎたくなる爆音が轟、遅れてやって来た爆風が遠く離れていた俺達までも吹き飛ばそうと吹き抜けて行った。
「もぉぉおおおおお、信じらんないッ!二人とも口開けてッ!」
三人で身を寄せ爆風を耐える中、時葉さんが口を大きく開け叫び、音が交差する最中聞き取れた言葉通りに、俺と望奈さんは口を開けると、先程の爆発が連続的に起こり、鳴り止まぬ轟音と爆風が身を打ち付けた。
「「あああああああ」あぁぁ」
段々と音が戻り無意識に発していた声を止めると、消え行く望奈さんの声が僅かに聞き取れていた。
「逃げましょう」
「でも流石に」
「何言ってるんですか、関係ないッ走って下さい」
今使われた爆発の原因を正確に知らない俺と、恐らく知っているだろう時葉さんでは、敵の生存予想に差があるが、最悪を想定するなら敵は生きてる前提だし、死んでたら運が良かったと後で思えばいいだけだ。
「魔術付与―重軽化」
時葉さんに魔術を掛け、軽くなった身体を無理やり立たせ背中を押し、強引に一歩を進ませ更に押しながら、自分と望奈さんにも魔術を掛け走る。
後方で大きな音がし、振り向くと爆煙に横穴が空いており、煙が逃げ出す様に舞っていた。
「生きてたか」
「嘘でしょ、あれを受けてどうして生きてるのよ」
飛び出して来た全身鎧のゴブリンが五島さんと共に残っていた人達に身体をぶつけ、人が次々に跳ね殺されて行く。
「走ってッ!」
後ろを見る為に止まった足を全員か再び動かし、この時には時葉さんも割り切っていたらしく、躊躇う事無く走り出した。
「ィイギギギギギギギギァアアアアアッ!!!」
ゴブリンから発せられたとは思えない低い声が、空気を震わせ身体の芯にまで届き、身体に重りが付着したかの様に、走る動作からリズムが消えた。
「なにっこれ…重い、動けない…」
時葉さんが止まった為、後ろを向きその姿を見るが、既に片膝を地に着きかけており、身体を硬直させどうにか立っている状態だった。
「時葉さん!?」
「え、どういう事?私は重いけど、そんなには」
「Lvか、時葉さん現在のLvは?」
「Lv、9の、8割り、程よ」
全身に力を入れ抗う時葉さんは話す余裕すら無く、どうにか答えるのが精一杯だった。
「9以下は抗えない広範囲スキルかよ、ごめんなさい。失礼します」
「えッ!ちょっ駄目ぇえ!」
「荷物は黙ってて下さい」
「はぃ」
時葉さんを担ぎ上げると存外楽に持ち上がり、重力が増したなどでは無く、身体の硬直に類する効果のようだ。
後ろに一瞬目を向ければ、人が吹き飛ばされ宙を舞う光景が目に入り、焦りを感じ急ぎ足を動かしながら前を向いた。
「グゥギギギギィィ…」
「は?」
「え「……」」
逃げようとし前を向くと無かった筈の陰が道を塞ぎ、人の背丈の倍はあろう高さの鉱石が、月明かりに照らされ光っていた。
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