78.

 辺り一面を埋めつくした矢が斜め上を向き宙を漂い、望奈さんが指を動かしたので注力すると、先程まで見えてなかった弦が目に見え、薄らと青白く輝く弦を望奈さんが引いていた。


 両の手を離し、引いた弦が弧を描き。弦を最大限引き、望奈さんが一呼吸置いてから指を外し、弦が勢い良く反発し止まる事無く振れた青白い弦は、鳥打をも通り抜け霧の様に広がり、宙に浮く矢を下から弾き飛ばした。


 放物線を描きながら高く上がった矢が、ゆっくりと頂点を通り越し次第に加速しながら、矢の雨と化し密集するゴブリン達に降り注いだ。


「「「「「ギャギア゙ア゙ア゙ア゙!!」」」」」


 降り落ちた矢がゴブリンを、無数に掠め擦り傷を作り、一部が身体に刺さり更にゴブリン達が暴れ回る。


「「「「「ギィ、ギィィ……イ」」」」」


 矢が降り注ぎ皮膚を裂き、突き刺さる音が無数に聞こえた後には、悲痛な叫び声が一体感を増して聞こえてきた。


 そう、ゴブリンが痛み苦しむ声が平然と聞こえていたのだ。


「半殺しですね」


 攻撃を受けた数百匹以上のゴブリンの九割程は生きており、後は脳天に綺麗に突き刺さるか、Lvの低い個体の身体に無数に矢をが刺さり絶命させていた。


「悪かったわねっ!でもこんな感じの技だって、知らなかったのよ…」


 息巻いた発言と結果が噛み合っておらず、望奈さんが顔を薄ら赤らめながら、焦りながら言い訳を言い放っていた。


 別に、責めたりしませんし、何ならもっとやらかして下さい、今の望奈さんが見れるのなら何度でも良いです。


「何よ…言いたい事があるなら、言いなさいよね」


 別に言いたい事は、いやあるな、どうせならその状態を維持でお願いします、何て言える程平和な世界だったら良かったか、まぁそんな世界なら出逢う事すら無かっただろうが。


「いえありませんよ、それよりもう一度使えますか?」


 生きてると言っても、瀕死の奴や元気に走れないだろうゴブリンも半数は居ると目算し、それならもう一度使えば半分は殺せると思った俺は望奈さんに確認していた。


「無理ね」


 呆気なく返ってきた答えは半ば予想通りだったが、これで面倒な潰しを行う羽目になった。


「分かりました、なら全員で突撃しましょうか、今なら簡単に踏み殺せそうですし」


「ゴブリンはそんなに柔く無いのですが…」


「例えですよ、あっでも踏み潰せるなら別にやっても良いですよ?見てますから」


「え、いやそれは、遠慮させて頂きたいです」


「セクハラよね」

「ですよねッ!?」


 返答に困る返しをされ、何も考えないで投げ返すと、時葉さんが口籠ったまま遠慮し、望奈さんが呟いた言葉には声を上げ飛び付いて反応していた。


 何がどうセクハラ扱いされたのか知らないが、この二人ほっとくと女子特有の空間を生み出しそうだが、今は、水を失った魚同然のゴブリンをさっさと殺したい。


「二人がやらないのなら、俺がやります」


 経験値は手に入るなら幾らでも俺は欲しい、まぁ必死に生きる人なら大半はそうだろうが。その人が何を一番優先するかで変わってくるからな。


「総員、三人一組で突撃!一匹でも多くを」


 どの口が言ってるのか気になる程、リーダー感満載な時葉さんが指示を出し、先陣を切って突撃し、その後には自然と九藤さんや五島さんまでもが後に続いていた。


 あれ、五島さんがリーダーじゃ、それに九藤さんと鈴木さん、戦うのは良いけど大丈夫だろうか、投げやりになって戦われると流石に助けられない。


「俺達も行きますか」


「そうね。余り乗り気にはなれないのだけれど」


 俺と望奈さんも後に続き、負傷しているゴブリンは他に任せ、俺と望奈で矢の範囲外だった無傷のゴブリンを優先的に狙い倒し、五島さんや時葉さんが過剰になった方に働き掛け、安定した戦いが数分以上も維持され、ゴブリンの数を千余りは倒した気がしていた。


「十分経ちました、下がります」


 時間を決めていた訳では無いが、時葉さんが俺と望奈さんも含んだ考えで撤退を示唆するが、既に瀕死のゴブリンも粗方倒し、逆に倒した死体に群がるゴブリンが増え始め、そろそろ退かなければまた危うい状況に陥ってもおかしくない状況だった。


「了解です、望奈さん退きましょう」


「え、ぇえっ」


 返事をしながら一本の矢を飛ばした望奈さんだったが、その矢は吸い付くようにゴブリンの眉間に、綺麗に突き刺さっていた。


 そして下がろうと向きを変え始めた俺と望奈さんは、突如聞こえた怒声により足を止めたのだった。


「君何をッ!?止めたまえッ‼」


 その場に立ち止まり、何処からか聞こえた怒声を探そうと、周囲を見渡す視線が捉えたのは、言葉を理解出来ないゴブリンは相変わらず動いていたが、先程の怒声を耳にした人は動きを和らげ、意識を割いていた為に、事の発端を見つけるのには時間を要し無かった。


「何が‥起きて――」


 余りにも咄嗟の事で俺も返す事を忘れ、ただ視線を向けた先で起きた事を理解するのに、全ての思考を奪われていた。


 それは倒れている人を庇い、立って居たであろう人が、その真正面に居た人物によって、無惨にも殴り飛ばされている光景だったのだ。


「あの人物に対し、射殺を許可します」






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