77.
「千田さん、ご助力感謝します」
時葉さんが先頭に立つ集団は二,三十人は人が居り、大半が誰かに支えられながら立っている状態だった。
「良いですよ、それよりもっと下がりましょう、直ぐに奴らが来ます」
一刻も早く下がってもらう、全員が走れない状態の今は即断即決こそもっとも重要だが。
「はいっ…」
決断しきれてない時葉さんの返事は、曖昧さが入り混じっており、集団の意思決定者としてはどうかと思う。
「時葉さん諦めて下さい、理解して尚悩んでいるのだと思いますが、だからこそもう一度言います、諦めて下さい。一人を助けに行き結果的に二人以上が犠牲になるのなら、愚策以外の何でも無いです」
だが半数以上が自衛官で構成されたこの集団は、それ相応に仲間意識が高く、時葉さんの罵倒が飛んでくる事も無く、彼女は口を開いた。
「負傷者を真ん中に寄せ後退、前方は気にせず背を気つけて走れ!」
時葉さんが指示を飛ばし、自衛官が動き市民と位置を変えながら、集団が動き始める。
「三匹出現ッ!」
前を走る自衛官が声を張り上げ、集団が走る音を通り越し、後方に居た俺にまでハッキリと聞こえた。
「魔術付与―重軽化、
自身の身体が軽くし垂直跳びの要領で飛び、軽々と人の背丈を超えた位置から水矢を放ちゴブリンを倒す。
「進みなさいッ」
誰かが戸惑い止まりかけ、全体の移動速度が落ちる前に時葉さんからの檄が飛び、集団は止まる事無く進むが、誰かが新狩りを務めない限り、後ろから迫ってくるゴブリン達が止まる事も無かった。
さて、もう一度ぐらい魔術を押し付けてるか、今使えばかなりの距離を得られる筈だ。
「千田さん」
「千田さ〜んッ!」
ゆっくりと小さく、そしてハッキリと名前を呼ばれ、再度進行方向に目を向けると走って来る。九藤さんと鈴木さんに、五島さんの姿があり、何故かその後ろには望奈さんの姿も見えていた。
「えっ」
どうして起きてるの?嘘でしょ……
まだ望奈さんが眠りについて一時間も経っていない筈、それなのに目を醒まして起きて来るとか、望奈さん真面目過ぎやしませんかね、少しぐらい根負けして二度寝してくれて良かったのに。
「おはよう、千田、さん」
ニッコリとした表情を維持したまま、怒りに満ちた発音が、俺の胃を締め付けた。
「
後方から迫る脅威をより、正確に伝える為に矢を放ち、望奈さんの視線を誘導さながら、まくし立てる口調で話、奇跡的に流れてくれる事を願った。
「そぉね…」
流れる感じが現れ俺は喜びそうになるが、今表情に出てしまったら全てが無に帰す。
「なら落ち着いて話せるぐらいまで、数を減らした方が良いわね」
その発言が成す事など、大した事では無いと言う様に、望奈さんから余りにも軽い口調で言われた言葉を想像するのに時間を要してしまった。
「そんな気楽に出来ます?あの数ですよ」
再度後ろを振り向けば、ゴブリンが満遍なく身体を寄せ合い、一体と成って迫って来る光景は、まさに動く濁流その物だった。
「あの数でしょ?」
恰もそれが普通である様に聞き返され、正しい感覚を持ってるつもりであろうが、こうも冷静に言われては俺の方がズレている様な気さえしてしまう。
「変わらなければ見てて良いわよ」
「分かりました」
俺と望奈さんが足を止め立ち止まると、それに気づいた時葉さんが戦える者とそうでない人で分け、戦える者だけを残し横列に並ばせて居た。
「千田さん、ゴブリンをこれ以上は行かせたくは、ありません」
全員に指示を出してから、隣に並んだ時葉さんが俺にそう言うが、軽傷者も含め大半の人を横列で展開した時点で、彼等は死すらも厭わない覚悟を恐らく持っており、言葉の重みが自然と増していた。
「善処します」
「はい」
短い言葉を交わし前を向くと急に望奈さんが振り向き、目が合うが俺が部屋から消えた事を怒っているのか、細目で睨まれてしまう。
「さぁ頑張るぞぉ~」
「ぉっ‥はい」
謎に時葉さんが乗り掛けたが、我に返り二つ返事で終わってしまった。
前を向き直した望奈さんが、肘が伸び切らない位置まで左手を上げ、何も掴んで無い指を軽く曲げ、手で何かを掴む様にしていた。
「材の
何も握って無かった手には大きな弓が握られており、それは数時間前に目にした弓であり、声が届くこの距離だからこそ弓の細部まで目が行き、大弓を型どっている弓柄以外の表面が鮫肌の様に切り立っていた。
細部を見れば刺々しさが感じられるが、全体的に見れば洗練された大弓としての印象を受け、鮫肌による負のイメージなど懐きもしなかったが、その大弓には弦と呼べる物は何も付いていなかった。
「あれは、弓なの?」
時葉さんが疑問を口にするが、それは俺にも分かる訳が無く、俺達、時葉さんやその背後に居る九藤さん達、更には周りの横列を成している全員が次の動作に注力していた。
「
大弓の弦があるべき場所に指を掛け、望奈さんが見えない弦を弾く様に指を動かした瞬間、望奈さんの頭上に数百、数千の矢が光を纏い現れ、辺一面が真昼の様に照らし出されていた。
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