76.
水矢を二度放ち、幾分か風通しが良くなった気はするが、集まろうとする人に対し、ゴブリンが狙いを定めた者に個々で迫り、無邪気に張り付いていた。
張り付くと言っても追いつけば殴り倒し、笑いながら人の顔や身体を引っ掻き回しあざ笑い、精神が崩壊した者で上で飛び跳ねたりと、改めて敵がゴブリンである事を認識させられる。
その為、身動きを取れない生きた者が疎らに広がり、矢の射線を悉く塞ぐので、これ以上は当たる事を前提に、矢を放たなければならなかった。
俺が敵の懐に潜り込めれば、人が居ない敵方に向け矢を放てるが、逆を言えば俺以外に人は居らず、乏しい近接戦闘能力で
正直いって無謀も良いとこだ、近接戦も出来るステータスかスキルがあるなら話は別だが。
「マジックバリア」
前方に投影された影が背後で動く物体を告げ、俺は右手を左脇の下から回し、背中を守る為に半透明の壁を生み出していた。
飛び掛っていたゴブリンが、突如現れた壁に勢い良く激突し、ゴブリンが頭から地面に落ち、身体は動かないまま頭だけを微かに動かしていた。
「
寝転がっていたゴブリンを狙い放つ、ゴブリンを貫いた矢がアスファルトを削り、原形を失った矢は、瞬時に水分を飛沫させながら、消えていった。
「はぁ..」
これ以上は不味いな。
周りに居た人が引き下がるか、死んだ為に俺を狙うゴブリンの数が増えて来た。
「もぉ飛びつく餌が減ったってか?」
周りを見ても、ゴブリンの背丈から突出してる人影は見えず、何処からか聞こえる悲鳴だけが、その辺で伏されている人の存在を示していた。
もぉ殺しても変わらないか。
どうせ、生きてても助けなければ、地獄と代わりなだろう。
考えてる内にゴブリンが周囲に密集し、俺が走って逃げるにはその隙間は狭く、無造作に殺していた俺を訝しがるゴブリンが、5m程間隔を空けながら俺を取り囲む円が完成してしまった。
「魔術展開……‥‥」
円を成す最前列のゴブリンだけでも二,三十匹は超えており、自陣側の人まで矢が貫く可能性を考えると、取れる手段は他に無かった。
両手を左右に伸ばし、前後左右全てに魔術陣が浮き上がり、魔力が模様をなぞり次第に光輝いた。
「助けぇ..」
微かに声が聞こえ、目を周囲に動かすとゴブリンの足の間で止まり、無数にある足の隙間からは血にそまり目からは涙を流してる顔が、そこにはあった。
「魔攻‥
前後左右の魔術陣から生み出された灯火が瞬く間に渦を巻きながら膨張し、背丈よりも大きい炎の塊が勝手に浮き上がり、視界を遮らない高さまで上昇していた。
突如現れた大きな炎の塊を見たゴブリンが逡巡し、円が乱れるが今更どうなろうがやる事は変わらない、見えるゴブリンを一匹でも焼き焦がし吹き飛ばすだけだ。
「テトラ」
意志を持った様に魔術が言葉に反応し、四つの炎が同時に動き出し、ゆっくりとゴブリン達に向かって進んで行った。
ゆっくりと迫り来る炎の塊を、目に焼き付けたゴブリン達が次々に声を上げ暴れ始め、恐怖に駆られたゴブリンが他のゴブリンに突き飛ばし、混乱したゴブリンが縦横無尽に動き回っていた。
「死ね」
炎の塊がゆっくりと着弾し、身体の一部が飲み込まれても一瞬で死ねないゴブリンが絶叫を上げながら飲み込まれ死に、炎が地面に接触すると同時に爆散し、飛び散る火の粉を追い熱風が吹き荒れゴブリンを吹き飛ばし、火の粉に触れたゴブリンが悲鳴を上げのたうち回る内に火が燃え広がり、ゴブリンの悲鳴激しさを増し、文字通り喉が焼き切れた時には、火が全身を覆い焦がしていた。
近場のゴブリンの声が先に消え、騒騒しく聞こえる悲鳴の中から人らしき声色が聞こえ、位置が分かってるからこそ、耳が的確にその声色を聞き分けてしまった。
「すまない」
憎悪が含まれた断末魔が鮮明に聴こえ、咄嗟に声に出し謝ったが、既に死んだ人が聞ける筈も無く、仮に生きてたとしても、それは無意味な発言で、自分を肯定しようとする卑怯な意図が無意識的に入り込んだのだろう。
死人が怨み妬みで蘇るのなら全力で謝るが、骨までも消し炭と化せば常識外のこの世界であっても
「
思考を切り替えた俺は直ぐに離脱する為に、燃え広がる火の海の中から、火が一番薄れてる場所を探し出し全力で走り、手を持ち上げ上段からゴブリンの腹部を狙い矢を放った。
ゴブリンの胸を貫いた矢は、他のゴブリンを貫く事は無く、地面に着弾し消えていく。
離脱しようと自陣側に向かって走るなら、矢を水平に放つ訳にはいかず、例えMPの無駄使いであっても、まだ動ける者に当てない為なら、仕方無かった。
「時葉さんッ!」
自陣に駆けた俺が、集団の先頭に立ち戦う時葉さんの姿を見つけ、声を張り上げ聞こえるように呼び掛ける。
気づいた時葉さんが戦闘を止め、数歩後ろに下がり集団が足並みを揃え、ゴブリン達から離れる様に下がっていった。
「
横一列に余り間隔を空けずに並んだ矢を、先程まで時葉さん達が戦闘してた場所に向け放ち、ゴブリンを貫殺した矢が作った道を、更に速度を上げ死体を踏みつけながら、駆け抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます