75.
【千田 本暁】 Lv11(500/1100)
素直に休めば良かったとも思うが、開けば表示される経験値がそれだと手遅れだと感じさせ、俺は一人で自衛隊基地外の南側を歩いていた。
この辺りの建物は基本的に大きく、それは病院や警察署も例外では無い為、此処にある病院と基地内の格納庫に避難民を集め、自衛官がその周囲を守っていた。
「流石に多くは無いな」
聞いた話では小村さんと前澤さんが格納庫の方に居るんだっけな、流石に基地内の方が人員が多そうだが、突破されれば真っ先に狙われるだろうな。
頭の片隅ではそんな些細な事よりも、望奈さんが起きた時の説教をどう回避するかを全力で考えていた。
それに睡ってもらうとは言え、やり過ぎだったかもしれない。もし望奈さんにバレたら――
「あっ、千田…さん‥」
考えながら夜道を一人で歩いていると、不意に歯切れの悪い言い方で名前を呼ばれ、振り向くとショートヘアの茶髪の女性、自衛官が居た。
「あ、ども」
今思えばこの人の名前が分からず、丁寧に挨拶を返そうと思ったが、分からず咄嗟に相槌で返してしまった。
そして、俺達が出逢えば必然であるかの様に、沈黙が颯爽と現れた。
「それじゃ、失礼します」
数秒、数十秒なのか分からない時間を耐え、その場を離脱する為に俺から一言告げ、歩き出そうとした時だった。
「待って、ください……」
これで二度目だが、この人はどうも発言で起こる結果、沈黙が訪れる事を察せられないらしい。
「何ですか?」
だからと言って、今は長話をしたい気分でも無い為、ぞんざいに返す。
「その………あっ、すいません。私自分の名前すら言ってませんでしたよね…」
実に今更である、俺の名前は大島さんか五島さん辺りから聞いたのかも知れないが、こっちも知ってる前提で話をずっとされても、互いの距離感の差が出来るのも当たり前と言えば当たり前だ、何せこっちは誰なのかすら分からない他人に該当する訳だが。
「そうですね、すいません。つい名前で呼ばれてたので、挨拶した気でいました」
「此方こそ、最初に名乗るべきでした、お許し下さい」
「いえ、特に気にしてませんから」
「痛み入ります。それでは改めて名乗らせて頂きます。私は陸軍第一師団所属、
最後、目を逸らされた意味が分からないが、これで互いに名前を知ってる状態で、話せると言うものだ。
「尉官というと、五島さんよりは上です、よね?」
「そういう事になります。ですが、現在は陸将が編成される部隊のリーダーは選任、もしくはステータスが高い者が優先されています」
「だから、大島さんの部隊に」
「はい。それにあの人は先輩に当たるので‥‥」
時葉さんが言いながら、バツの悪い顔を段々浮かべ、先輩を階級的に抜いてしまった事を気にしてるみたいだが、戦果を次々に量産してるであろう五島さんなら、時期に追いつけるだろう。
まぁ、いつまで自衛隊が機能してるかだけど。
「それで時葉さんは、今は何をしていたんですか?」
外で会話をし寒さの中、身体を微動だに止め話す者は少なく、それは良く沈黙を生み出す俺と時葉さんも例外では無かったが、俺の問を聞いた途端に、時葉さんの身体がまるで石化した様にピタリと止まった。
「いえ、私は巡回警備をしていただけです。そしたら偶然にも千田さんを見つけ、この機にと思い立ち、話し掛けるに至った次第です」
「そうですか、それなら――」
半ば棒読みで返していると、発している声を止めるには十分過ぎる音量でサイレンが鳴り響き、咄嗟に基地の方に目を向けると、至る所で明かりが点灯し始めていた。
「敵襲です、千田さん行きましょう」
時葉さんに促され、此処で無理に断る理由を押し付ける、時間の消費を嫌った俺は、即答し時葉さんに付いて行く事にした。
「分かりました、付いて行きます」
数分前までは静寂に包まれていた防衛ラインは、俺と時葉さんが駆け付けた時にはゴブリンと人が入り乱れ、戦線と呼べる場所は何処にも無かった。
「時葉さん、可能な限り纏めて離脱して下さい」
「はい」
たった一秒ですら無駄に出来ない中で、俺と時葉さんは互いに左右に別れ、各々が混戦の中に向かって走り出した。
「
放たれれた矢が手前のゴブリンの頭部を貫き、そのまま一直線に飛んで行く、そのままゴブリンを数匹貫くのを確認して目を離すが、近くで戦っていた人には当たっていなかった。
攻撃を放った事に後悔してる余裕は無く、乱戦で思うように戦えない自分のステータスを呪いたくもなるが、既に割り切っていた。
「当たった奴は、運が悪かったって事で」
一人でも多くの人を助けるなら、ゴブリンを殺すしか方法は無く、人とゴブリンが乱戦している所に矢を放てば、矢が貫くのは元より数が多いゴブリンの方が圧倒的に多いと考えていた。
そしてこの世界に現れたゴブリンは、一匹が人一人と戦えるだけの力を有しており、一匹でも避難所の中に入られてしまえば、それだけで大惨事なのは間違いない、それに背丈が高い人はゴブリンが居ようとも視認出来る為、矢が当たるとしても白浜さんなど、一部例外的な人だけだろう。
「
再度放たれた矢が狙っていたゴブリンを貫き、何匹ものゴブリンを貫くその矢が通った場所には、爪で引っ掻いた様な通り道が出来ていた。
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