74.
寒くも無く暑くも無い、そんな快適な部屋に通されてしまえば、俺達が特別扱いされてるのは明らかだ。
ベットが二つあり、椅子やテーブル、そして二つのベットの間には寝室台までもが置かれている部屋で、俺と望奈さんはテーブルを挟んで向かい合い、椅子に座っていた。
「少し暑いな」
「えぇそうね、これだけ外との寒暖差が大きいと快適とは言い難いわね」
そう言って望奈さんが上着を脱ぎ、背もたれ部分に綺麗に掛け、望奈さんがテーブルに用意されていた、コップとピッチャーから水を入れてくれたので、俺は一口飲んでから再度問いかけた。
「ちゃんと休まないと怪我、治しませんよ?」
「大丈夫よ、もう殆ど動くから」
マジかよ、人の回復能力はそんな早かった覚えないぞ、弓も消えてるし、新しいスキルか。
「それでも休める時に休んだ方が良いと思いますよ?」
「あら、随分私を寝かせたがるわね、何を企んでるのかしらね。またどっか行くつもりなのかしら?それとも、違う目的が?」
酷く悪戯的なニュアンスを含んだ言い方に、意外性を感じるが、重々しい会話ばかりを避けての事だろう。
「俺も休みたいからですよ」
「なら、先に休めば良いじゃないの」
「何言ってるんですか。望奈さんの寝顔を見て精神的疲労を和らげるんですよ?」
「なんで疑問系なのよ…」
待って分からん、何故俺はジト目で睨まれてるんだ、その反応は何ですかね、俺はどう応えるのが良いんだよ。
「でも、俺も休むのは本当にですよ、さっきも伝えたと思いますが、大島さんに止められましたし、それに幾ら何でも俺も疲れてます」
「なら休むと良いわ」
先に休むと言った方が負けな感じはするが、眠気があるのは事実なので、折れる事を決め、椅子から立ちベットに埋もれる様に倒れ込んだ。
「なら、お先にです。電気は」
「消して良いわよ、此処だけ明るいと外から、目立つもの」
確かにそうだ、この状況下で電気を自由に使える部屋なんて極僅かしか無いだろう、離れて居る為ないと思うが、避難してる人達が見れば何かと文句を言って来る姿が目に浮かぶ。
「有難うございます」
寝室台を操作して電気を消し、仰向けに寝返るが真っ暗になった部屋では、視界が取れる事は無く、ただただ暗かった。
「外の光も完全に遮断されてたみたいですね」
「そぅみたいね」
短い返しの言葉だけが聞こえ、呼吸音すら聞こえそうな程に静かな部屋は居心地が悪く、見えない天井を見上げたまま、音を立てていないか過剰に気にしてしまう。
「そっちは大丈夫でしたか?」
「一応ね」
直ぐに返事は来ず、家具が軋むこもった音が聞こえてから、望奈さんの声が聞こえて来た。
あれ、この人いつ、椅子から離れたの?というかこの暗闇で動けるのは、流石と言うべきか。床に物が散らかって無いとは言え、家具の配置されてる間隔を覚えて無いと、進めど進めど触れない恐怖心程厄介な物は無いからな。
「文明が無いとこうも真っ暗なんですね」
スマホの充電中の点灯も無ければ、窓も完全に塞がれ、光るデバイスも無い空間は、新鮮さすら覚えてしまう。
「部屋で光を持っているのが、あの小さなエアコンだものね」
本当に暗い。
寝室台の明かりぐらい付けて置いても良いのでは、と思った俺は手を横に伸ばしてから、寝室台に打つかるまで上にスライドさせる為に、肋の上に置いていた左手を、真横に伸ばした。
真横に伸ばした手がベットとベットの間の、何も無い空間で宙吊りになり、腕ごと少し上にスライドさせると、当たる訳が無い温かい人肌に触れ、咄嗟に手を止めてしまった。
二人して電気を付けようとしたのか、何やってるんだか。
「ねぇ」
触れ合った手が離れるよりも先に、小さな声が聞こえてきた。
「何ですか?」
「私達、ちゃんと勝てるのかな」
いつもの望奈さんからは想像出来ない、程に弱々しく呟かれた弱音が深く突き刺さり、胸を締め付けられ心臓が跳ね上がり、自分の鼓動が微かに伝わってくる。
「楽勝は、無理ですね、それだけは断言できます。次戦闘が始まったら、生き残れるのはゴブリンと一対一を繰り返せる少数か、その人達が守れるプラスαの少数の人達だけだと思います」
「誰かを守りながら、戦うなんて、余っ程、ステータスが高く無いと、不可能よ‥‥」
「そうですね。でも、無理だと知っていても。彼等には、それをやり遂げて貰わないといけない。それで勝つ可能性が、少しでも上がるなら、少しは期待したいじゃないですか」
「‥‥‥それは―」
小さく声を出した望奈さんの声が途切れ、考えているのだろうと暫く待っても、返事は無く。暗闇の中で数分が経ち、静寂の中で小さな寝息が、耳を澄ませると聴こえていた。
少し時間が掛かったな、やっとか。
肩を損傷して血を流し、戦闘開始から何度も走り続け、精神をすり減らす筈の精度で矢を放っているのに、本当に凄いよ望奈さんは。
「おやすみなさい」
自分自身で聴き取れるか聴き取れないかの声量で言い、ゆっくりと動き音を出さずに、部屋の扉を開け、廊下を照らす月明かりが長いしない間に扉を閉め、歩みを進めた。
「行ってきますね、望奈さん」
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