73.
「失礼します」
簡易テントに入り際に挨拶をし、俺は中に入って行った。
「熱心じゃないか、まさか君が最初に来ようとは」
中に入って直ぐに、先程の返しとばかりに冷やかされるが、特に気にせずそのまま中に踏み込む。
「五島さんは居ないんですね」
「彼なら、野戦病院に行かせたよ、彼は貴重な戦力だからね」
「そうですか」
俺が短く返した為に一時の間が出来るが、互いに一呼吸行ってから、話始めた。
「敵の主力の一体倒したと聞いている」
「はい。ですが、麓山さんが亡くなりました」
「……あの、勇敢な青年か…」
重々しく開かれた口からは、暗く冷淡に言葉が呟かれ、不明瞭な声色からどっちつかずの感情が、垣間見れた気がした。
「助けに走りましたが、間に合いませんね。奴ら、ステータス的には相当高いかと」
「その点についてだが、偵察隊からの情報では、敵の鎧を着た奴は名称で、ゴブリンナイトと言い、君らが倒した個体のLvは13だと言う報告が、少し前に届いた」
「その情報は、そういった力を持ってる人が?」
「鑑定というスキルで敵の事が分かるみたいだが、敵の名前が分かれば良い方だと聞いている、何でも敵とのLv差で名前は見えても、Lvは見えなかったり、名前すれ見えないとの事だ」
「それはつまり、ゴブリンナイトとか言う奴以上にLvが高い奴が、居るって事ですよね?」
「あぁ、君も何処かで見たかもしれないが、敵の大将らしき個体がそれに該当した様だ」
まぁ想定通りと言えば想定通りだが、絶望の一歩手前だな。
鎧を着たゴブリン、ゴブリンナイトは数人で隙を作り、最高の形で大ダメージを負わせる事に成功し、奴の意識を周囲から外せたから、望奈さんが仕留められたが、そんな偶然二度は続かないだろう。
「五島さんの部隊以外に動ける所は?」
「残念ながら、無い。今や殆どの部隊を出払って居る。それにそんな奴相手に、瞬殺されない者と判断された者は元より、あの部隊に居る者で全てだ」
「つか……そうですか」
確かにあの女もそうだが、五島さん以下、九藤さん達以上にはステータスが高かったな。
「後で言っといて下さいね、あの女性隊員、こちらの安全ガン無視で手榴弾使ってきましたからね、一緒に殺す所てしたよ」
「今のは聞かなかった事にしよう、私も既に胃が痛いんだ、これ以上悩みの種を増やさないでくれると助かる」
「善処します、それで、敵は一旦下がりましたが、突いても構いませんか?」
「構わない……と、私個人としては言いたい。だが最高指揮官としては止めざる終えないのが現状だ」
「それはどうしてですか?」
「敵が下がると言うのなら、こちらも体制を立て直すチャンスだからだ」
「立て直して仕切り直しという訳ですか、負けますよ?」
「君は今から、攻撃に転じ一気に押し返した方が良いと言うのかね?」
「はい、元々万全の体制で戦ってこの有様なんだ、次に同じ事をやっても、前回より状況が悪いこちらが圧倒的に不利じゃないですか、それぐらい分かっている筈ですよね、それでも受けに回る愚策を行う理由は何ですか?」
こちらの食い込んだ質問に対し、大島が姿勢を少し起こし、手を組んで、小さなため息を吐いてから話し始めた。
「私は先程から情報漏洩なんぞ気にせず、ペラペラと年甲斐もなく話していたが、今度の話はそうもいかん。聞いたら最後、協力してもらうぞ?」
「負ければ全員死にますからね、それが戦局を左右する情報なら大島さんが秘匿する意味が無い、だって貴方は一人でも多くの市民を、生き残らせる事なのだから」
「言質が欲しかっただけだ、気を悪くさせたのなら、謝罪しよう」
「結構です、それで何があったんですか?」
「まず……ゴブリンナイトはもう一体居る」
「知っています」
「ッ!?……そうか、なら話を進める。その一体が此処から離れた戦線に現れ、勿論君も五島の部隊も居ない状況での討伐は実質不可能と誰もが分かっていた筈だ、それでも彼等は頑張り足止めし、時間を稼いだ。いや途中までは稼げていた」
「敵の増援ですか?」
「それなら良かったんだがな、」
何も言わず、ただ大島さんが話すのを待ち、大島さんが唐突に話始めた。
「自衛官だけで無く、防衛に加わっていた市民までもが、背後から攻撃され粗壊滅状態になったそうだ」
「殺しましたか?」
「いや、運良く戻って来られた者の話を聞いた限りでは、その者が何処に行ったのかすら分かっていないのが現状だ」
同じ人であり、共通の敵が居る状態でまさか背中を刺されたか。起こり得そうで起こり得ないと高を括っていたが、やはり間違いだったか。
「それで、どんな奴何ですか?」
「君も一度は見てる筈だ。市役所で会議をした際に舎弟なのかは分からないが、取り巻きを連れてた少しチャラい青年だよ」
思い出せそうで思い出せん、というか市役所での会議事態色んな事が同時に起こりすぎてて、記憶がやけに飛び飛びだ、謎に急にワールドゲームとか仕掛けられたり、俺と望奈さんで乗り込んだり、力を証明するためにマジックバリア使っ‥‥‥
「あぁ、結局は肉体がどうのこうの言ってた奴ですか?」
「ちょっと待ってくれ」
そう言い大島さんが、紙の束を取り出し、ペラペラと捲りながら目を左右に動かしていた。
「うん、君の言った通り、彼がその発言をした人物で間違い無いようだ」
まさか会議録を作成してるとは思っても居なかった俺は、呆気にとられるが、確かにこの戦いが無ければ、微かに余裕が残っていたのかもしれない、それか大島さんが揉め事を嫌い作らせたか、のどっちかだろう。
「それで、自衛隊の対応はどの様に?」
「今は防衛に当たらせて居る者以外に、割ける人員が居ないのが現状だ。だから君も十二分に注意して休んでくれたまえ」
「分かりました。それじゃゴブリンの奇襲は無しという事で、自分も今から少々休みますので、ゴブリンが来ても休憩の邪魔、しないで頂けると有り難いです」
「分かった、そうしよう」
「何処に、行くつもりかしら?」
話を終えた俺は、テントを出て、近くの自衛官に休める場所を聞こうとした途端後ろから肩を抑えられ、ドスの利いた声が耳元で囁かれ、身を震わせながらゆっくりと後ろを向いたのだった。
「あははは...望奈さん、お元気そうでぇご機嫌うるわしゅう御座いますぅぅ‥‥」
「そ・れ・で?どうしたのかな」
問い詰められてる筈が、望奈さんが笑顔なのが凄く怖く、俺は早々に観念し大島さんとの会話を省略して望奈さんに伝えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます