67.
千田達と分かれた後、直ぐに連絡を取った九藤達は、五島を連れ最前線付近にある司令部に辿り着いていた。
司令部と言えど状況が状況なだけに、簡易的なテント設けられ、中は椅子が何個かあり、机が一つ置かれている簡易的な物だった。
「陸将すいません。下手、打ちました」
中に入り、独りでに歩いき姿勢を正した五島が、真っ先に謝罪をする。
「大丈夫‥では無さそうだが、君を後方でのんびりと、休ませて置く余裕は残されていない、理解してくれるかね」
「問題はありませんっ、私は軍人です。軍人として最後まで戦い抜くだけです」
「分かった。だが楽にしてくれ、君が軍規や礼儀を行う為に体力を使うぐらいなら、そこに寝転がって話しをして貰っても結構だ。その方が市民を一人でも多く守れる事に繋がるのなら」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
やはり無理をしていたのか、五島は身体の力を抜き、乱雑に椅子に腰掛け、九藤達も近くの椅子に座り始める。
「それで君達は、確か九藤くん、だったね?」
五島の行動を見て苦笑を浮かべていた大島が、九藤達五人を一瞥して、九藤に話しかけた。
「はい。私が九藤です、大島さん」
「まずは、五島を連れて来てくれて有難うと言おう」
「いえ礼を言われる様な事はしてません、寧ろ私達が居たから五島さんは怪我をしました。こちらこそすいませんでした」
「なに自衛隊員が怪我をしただけだ、君達が気にする事では無いよ、それよりも。君達はどうするのかね?今からでも他の市民と同じ様に避難するなら、案内させよう」
首を動かし後ろを見た九藤は、他の四人を見てから前を向き、返事を返す。
「二人だけお願いします」
「ちょ、待ってっ、それって」
「華憐その足じゃぁ仕方ないさ、休んで欲しい。君を庇いながら戦うなんて事は、僕達には出来ないからね。そして真姫、君は華憐と一緒に居て欲しい」
「余裕無いって言っときながら、私も外して大丈夫なの?」
「任せとけって、俺と海維で九藤のサポートするからよ」
不安を払拭する様に麓山が、九藤と鈴木の肩に手を回し引き寄せ、男三人で愉快にやると行動が示していた。
「まぁ、私が居てもだしね、分かった。華憐は私が見張っとく」
「えっ見張る?ん?、待ってよ真姫っち、何か違うくない!?」
「違わない違わない」
「それじゃ手配しよう」
大島が手を机の上で動かすと、直ぐにテントの中に自衛隊員が入って来、前澤と小村の二人を引き連れ、外に向かって歩きだす。
「死なないでよ」
ボソリと呟いた前澤が振り返る事無く、テントから出て行き、小村が三人を見てニヤけながら、前澤の後を追って出て行った。
「有り難う御座います」
「うむ。それじゃ現状の説明だが、今から話す事は他言無用だが、構わないね」
「「はい」」
「うっす」
「一五:〇〇、戦闘開始から、既に市役所を奴らに奪われ、防衛に加わった市民の半数と、隊員の三割を失い、現在も尚押されているのが状況だ。こんな話しを避難してる人達が聞いたらどうなるか、言わなくても大丈夫だね」
「はい‥」
何故他言無用なのか、少し考えれば分かる事だったが、大島が避難所を連想させた事で、三人の表情が少し険しくなった。
「間違いなく躍起になって、暴れる者が出てきますね」
「そうだ、だから何が何でも知られる訳にはいかない、これ以上避難所に割ける人員は存在しないのだから」
「私達は何をすれば」
「君達は、五島と共に彼の部隊と合流の後、ハイゴブリンと戦ってもらう」
「すいません、ハイゴブリンとはどの様な」
「報告では、通常のゴブリンより背が高く、細身の身体付きと聞いている」
「あれか…」
「あれですね」
「君達は戦った事があるのか?」
「いえ、陸将。私も側に居ましたが目視しただけになります」
苦悩を浮かべる九藤よりも先に五島が口を開き、答える。
「そうか、だが見た事があるのなら都合が良い、こちらで確認した限り、他にも筋肉質のゴブリンも居ると報告が上がっているからな、標的を間違われ情報の誤差で死なれては厳しくなる一方だろう」
「陸将、他にも二種のゴブリンが居ますが、その様な報告は上がって来てますか?」
「なにっ?!、まだ他にも居ると言うのかッ。敵の頭すら能力が分かって無い中で‥」
握りしめた拳が震え微かに浮き上がり、大島がため息を吐くと同時に徐々に力が抜け、握りしめていた拳が開いていく。
「すまん、それで五島、どんな奴だった。違って欲しいが、その傷はそいつの仕業じゃ無いだろうな」
「残念ながらその内の一種です。それも、自分は接敵して数秒で意識を失い‥その後はあの二人が対応に当たりましたが、倒しきれなく痛み分けと聞いております」
「それで彼等は今何処に、無事なのか」
「はい、詳しい経緯は分かりませんが、緋彩さんが片肩に怪我を負い、今は千田さんのLvを上がる為別行動中です」
「あの二人なら大丈夫だろう、何せ私達に虚偽の話しをするのだから」
麓山と鈴木が何か話しているが、それに気づいた大島の視線を受け、直ぐに口を閉じ背筋を伸ばした。
「それで。もう一度戦えば、勝てるのか」
「……陸将、厳しいと言わざる終えませんが。そいつは全身鎧の敵でしたが、もう一匹の杖を持ち魔法を使うゴブリンなら、可能性はあると思います」
「なら早速で悪いが、部隊と合流し報告に在ったハイゴブリンを倒し、そのゴブリンも倒しに向かってくれ、通常種ならいくら残してくれても構わんっ、こちらで対処する」
「鎧のゴブリンは、どうするつもりで‥」
「鎧の奴以外を先に全て倒し、私も含めた全ての隊員で挑めば少しは可能性があるんじゃないか?もし、もしも自衛隊の人員と武器を全て投入しても勝てないのなら、後は生き残る者だけが生き残るだけの話だ。それでも最後に、この戦いを勝ち抜くのは人だろうがな」
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