64.
ドクロンをカバンに詰め、空いてる肩に下げ移動した俺達は、十分程で九藤さん達が休んで居た場所を偶然見つけ、ゴブリンが侵攻した後の地で戦闘する事無く、合流する事が出来ていた。
九藤さん達は塀で囲われた民家の庭で、最低限周りを警戒しながら芝生や塀、建物の壁に背中を付けと、一時的に居座ってる感じだった。
「緋彩先輩ッ、えっ。待って先輩が死んじゃうよ、どうしようどうしようどうしたらッ‥ぃだぃ」
「だから、落ち着けって。千田さんがそのまま連れてるんだがら、大丈夫って事だろ」
「あっ」
間抜けにも声が出てしまい、それを聞いた全員から視線が集まった。
「千田さん?」
「すまないが手当はしてない、移動を急いだし、忘れてた」
「ちょッ千田っち何やってるのよ、退いて代わって」
急いで駆け寄って来た小村さんが、望奈さんを反対側から支え、ゆっくりと壁に凭れさせながら座らせた。
「ごめんなさいね小村さん、有難う」
「いえいえ気にしないで下さい、戦闘では役に‥立てないので」
動かしてた手が、一瞬止まったが直ぐに動き出し、手慣れた手付きで肩周りの衣類を退かし、簡易的な応急処置をし始めていた。
「千田さん、申し訳ない。自分が先に足を引っ張ってしまった…」
五島さんは仰向けで横になり、身体をまともに動かせないのか、肘で上半身を起こそうとしていた。
「五島さんそのままで良いですから、動かないで下さい」
外見上は大きな怪我は見られないが、その動きを見れば誰だって重症と分かる程に、五島さんの挙動はおかしく、力を入れた箇所が震えていた。
「すまない」
「HP的には大丈夫何ですか?」
「あぁ、HPはすっかり回復した。だが、身体が動かないなんて笑いものも良いところだよ」
「そんな事ありません、五島さんが最初にあのゴブリンに向かって行かなければ、間違いなく死人が出てました。それに、あの初動の動きのおかげで敵の身体能力が少しは分かったから、今自分と望奈さんは生きてます。有難うございました」
「そぉか、それなら、名誉の負傷になるかな?」
恐らく冗談で言っただろうが、五島さんが最後の言葉を言う時には、その口元が少しばかりか緩んでいた。
「はい」
「千田さん、それであのゴブリンは」
横を向けば九藤さんが、鈴木さんと一緒に近づいて来ていた。
「痛み分けって所ですかね、他のゴブリンは気づけば居なくなってたので、侵攻を再開したと思います」
「そうですか。でも、あのゴブリンを相手に、無傷なんて流石ですね」
別に皮肉を言われる訳でも無く、九藤さんの雰囲気は称賛を口にしている感じだった。
「他が頑張ってくれましたからね」
「他が?ぁぁ緋彩さんですか。確かに彼女が怪我を負っているのを見た時は驚きましたよ。本当に千田さんと緋彩さんは、ギリギリの状態で戦ってるんですね」
「じゃないと勝てませんからね」
「私ももう一度考え方を改めてみるとします」
締めくくった九藤さんが、一瞬横を見。
「その、色々と失礼な事を言ってしまい、すいませんでした」
促された鈴木さんが一歩前に出、腰を深く折り謝る。
「良いですよ鈴木さん、別に対して気にはしてませんでしたから。俺だって理解出来ない強キャラが居ると、チートを疑いますもん」
特に考えず素で返し、その例えに自分で苦笑してしまったが、それを聞いた鈴木さんから、張り詰めていた感じが薄れ、俺自身が少し安堵していた。
「まぁ、敵はチート野郎も同然の強さでしたけどね」
「それは中々、笑えない話ですね」
「自分でも思います、何ですかねあのチートゴブリン、どうやって倒せば良いのか検討もつきません」
「でも千田さんそのゴブリンって今は」
「はい。片目を失ってるとはいえ、集団に戻ったのなら何処かで戦闘してる筈です。そして恐らく自衛隊の武器が効かないなら誰も止められないでしょうね」
「でも、自衛隊にも戦える人が‥‥」
「それは残念ながら無い、と思うよ九藤くん。情けない話だが、Lvだけなら僕より高い人は開始時点では居なかった筈だよ」
ステータスが戦闘を大きく左右する中、その五島さんを僅か数秒で倒したゴブリンを、一体誰が止められると言うのだろうが、九藤さんも鈴木さんもそれを考え、顔色が忽ち悪くなっていく。
「だから、早く行かないと、いけない」
「無理ですよ、まだ動くのは危険過ぎます!それに行った所で……」
「行ったって無駄だって言いたいのかな?」
「…はい」
九藤さんに対して怒る訳でも無く、力ずくで身体を起こした五島さんが、ハッキリと答えた。
「例え無駄に死ぬのだとしても、守るべき市民が居て、仲間が戦ってるのに、僕だけ逃げ隠れするなんて事は、誰が許しても僕自身が許せない。だから僕は向かうよ」
意を決して向かった所で結果は見えている、仮にあのゴブリンじゃ無くとも、杖持ちが現れても勝てると断言する事は出来ないのだから。
もし、もしも勝てる可能性があるとすれば…
【千田 本暁】 Lv10(718/1000)
残りの経験値を手に入れ、その先に僅かな可能性を賭ける他ない。
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