63.


身動ぎすら行って無かったゴブリンが、望奈さんが空中で体勢を崩した刹那、望奈さんの頭上から振り下ろされ剣を、宙に浮く身体を回転させ、間一髪避けた望奈さん声を出す。


「……アウェイっ」


出遅れ発動したスキルを使い、望奈さんがゴブリンの鎧を壁代わりに蹴り、横に流れる勢いを両足を地に着け流しながら、俺の斜め後ろで綺麗に止まる。


「マジックアロー・ペンデ」


『「マジックアロー」』


等間隔で横に五本の矢を並べ放ち、ドクロンが十数本の矢を反対側から無造作に、狙いを外し放っていた。


ゴブリン目掛けて飛んで行った、五本の矢を追尾する一本の矢が、耳元で風切り音を鳴らし過ぎ去って行った。


「ギァギァギァギァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア!!!」


ドクロンの矢がゴブリンの周囲を掠め、放った五本の矢を振り叩いたゴブリンが、腕を振るった状態で望奈さんの矢をその目に受け、悲鳴を上げ叫び暴れ経て、姿勢を低くしたままこちらを睨んでいた。


このまま行けば殺せるか?嫌や、流石に短兵急過ぎか、勢いで動けば全てが無駄になる。


「怪我の具合は?」


「怪我なんてしてないわよ‥‥」


虚勢なのか、怪我をした事に気づいてないのかは分からないが、望奈さんの腕からは、血が滴り落ちていた。


「ギィヴヴヴヴヴ」


片目を失い無視出来ないダメージを負ったからか、ゴブリンが歯を剥き出しにし、ハッキリと声に感情が込められていた。


「何だ、もう片方の目も抉り取ってやろうか?」


自分の目を抉る動作をしながら、ゴブリンに話しかけ、言葉が通じ無くとも、身振りなら伝わったらしく、ゴブリン苛立ち鞘を強く握り締めていた。


「ちょっ、流石に」


望奈さんが口を開き、話出したタイミングを狙ったかの様にゴブリンが、俺を目掛けて一直線に向かって来た。


「マジックバリア」


殆ど脊髄反射で発動したマジックバリアが、展開した直後、ゴブリンの剣によって切り裂かれ、切っ先が服を掠めながら一瞬にして空を切った。


振り下ろされた剣が、即座に下から振り上げられ、長い刃渡りの剣が胴を切り分けるには、十分過ぎる程に近かった。


「マジッk…」


幾ら早く唱えようとも、迫り来る剣が止まる事は無く、間に合わないと悟った時には、既に声は途切れ只その光景を目に映し入れていた。


「あんちゃん、先に死のうってか?」


急に声を掛けられ止まっていた思考が戻り、死ぬ筈だったのに、今も生きてる事を理解するのに幾許か時間を要し、振り上げられた剣が空中で止まり、目を凝らし観ると、小さくなり四角いマジックバリアが四方八方から何個も剣に絡み付き、動きを止めていた。


「マジックアロー」


動きが止まっていたゴブリンの顔に矢を放ち、素早く後方に下る最中追加で放つ。


「マジックアロー」


矢が甲冑に命中し霧散し、目視で確認出来ないが、二矢目も命中したのか霧散した名残が増し漂っていた。


「はぁ‥はぁ、はぁ‥ぁぁ…ッたくほんとっ‥割に合わねぇよ」


「あら、生きてたの?」


「生き、て、ますよ‥ダメ、でしたか?」


「誰もそこまでは、言ってないでしょ」


横から小言を言われ、言うが、互いに視線だけはゴブリンから一度も離れていない。


「ギダダァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」


ゴブリンが叫び散らかし、剣を縦横無尽に振り回し、動きを止めていたマジックバリアを力ずくで破り、振り回した剣に振られ蹌踉いていた。


「ギィ"ィ"ィニ”ン・ゲン”カ”ッ」


「お前、喋れ、る…のか?」


「ア”ア”ア”ッ――」


 ゴブリンから漏れた音が聞こえるが、言葉が紡がれる事は無く、ゴブリンが大きく後方に跳躍した。


「待て!マジックアっ」


「ダメッ、何もこっちから無理に深追いしないで!もぉ、貴方もドクロもMPが無いでしょっ」


 跳躍して空中に居るゴブリンを狙い、攻撃を放とうと伸ばした手を摑まれ、掴んだ手を滑らせ巻き込まれた腕に、望奈さんがしがみ付いていた。


「…すいません、おかげで助かりました。有難うございます」


「良いわよ、私も衝動的に、攻撃してたかもしれないもの」


「あんちゃん、嬢ちゃんよ。これからドオすんダよ」


 ドクロンにどうするか聞かれ、迷わず周りに目を向けた、通常のゴブリンが腐る程周りに居る筈だったからだ。


「はぁ?何処行った彼奴等は!」


 周囲を見渡しても、何百何千と居たゴブリンが消え去り、杖持ちのゴブリンすら居なくなっていた。


「奴ら、さッキのゴブリンが来た時にハ、退いて行ったゼ?その顔ハ嬢ちゃんも気ヅいて無かったみたいダな」


「うるさいわよ、ドクロ」


 望奈さんが掴んだ腕に寄りかかり、文句を言うその声は、今にも倒れそうな程に弱気だった。


「まぁ、そう虐めないでやって下さいよ」


 一応命の恩人。人では無いから恩骨か?まぁどうでも良いが、少しは庇いながら、疲労が少ない身体を無理やり動かし、望奈さんの背中に手を回し支える。


「どうせなら、担ぎ、なさいよね‥」


「すいません。流石に厳しいです」


「重いとか言うんじゃ、無いでしょうね」


「違いますって、MPが殆ど無いせいか、身体に力が入らないんですよね」


「それただの根性なしじゃない」


「意味が違うからその言い方はしないでください、お願いしますから」


「んふっ、冗談よ。ありがとう」


「お互い様です」


 俯いている望奈さんから少しの笑い声が聞こえ、九藤さん達が逃げて行った方に足を向け、ゆっくりと進みだした。


「チョッ俺ハ!?待って、あんちゃんッ」


「あっ‥すまん」












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