62.


望奈さんが合流した時には、戦闘を繰り返した麓山さんは冷静さを取り戻し、望奈さんの指示を素直に聞き後退して来たみたいだ。


「これだけ雑魚を倒したんだ、攪乱としては上出来だろう、皆さん退きましょう」


それに正直に言うと、範囲攻撃を行える杖持ちの相手が、こんなにも厳しいとは思わなかった、常に俺の後ろに居られては動きづらい。


「待ってくれ、千田さん!」


「どうしましたか五島さん」


急に五島さんに名前を叫ばれ、直ぐに意識を向ける。


「悪いがアレを放置して逃げるのは、許容出来ないな」


五島さんが観ている視線の先に、合わせる様に目を向けると、杖持ちのゴブリンでは無い、何か別の動く姿があった。


150cm程で中肉の身体付き、そいつがゴブリンと分かったのは、全身に身に着ける鎧の甲冑部分の隙間から、独特の緑の肌が見えたからだ。


「また変なゴブリンが出てきましたね、と言っても無理ですよ五島さん、こちらにも被害が出てますからね、これ以上の戦闘は許容出来ません」


「だが…」


流石に両方を、五島さんに押し付けるのは悪いな、それに五島さんには前に助けられたしな。


「分かりました、五島さんは他の皆を」


「そんな時間無いわよ全員身構えてッ」


五島さんと話してる最中、聴き逃しようが無い望奈さんの声が、全員の耳に透き通り、最前列で話していた、俺と五島さんが意識を前に向けると同時に驚愕する。


大きく跳躍したゴブリンが今まさに、空中で手に持っていた剣を投擲しようとしていたのだ。


「回避ッ」


声を張り上げ叫び、各々が飛び退けた中心に、風切り音が聴こえるよりも遥かに早く、剣が深く地面に突き刺さり、周囲の瓦礫を弾き飛ばしていた。


無理無理、一点突破型の攻撃なんてマジックバリアじゃ防げねぇよ。


「来るぞッ」


高く跳躍したゴブリンが、何も無い筈の空中を踏みしめ、勢いよく迫ってくる。


「マジックアロー」


放った矢が、一直線に向かってくるゴブリンと、空中で勢い良く衝突しかけたその瞬間、ゴブリンが片腕を振るい矢を叩き落とした。


「なっ‥」


その馬鹿げた光景を目にし、目を見開くが地に着いた足で再び飛び退け、先程と比べ物にならない程、大きく地面を抉り飛ばし飛来したゴブリンを、奇しくも全員で囲んでいる状態になってしまった。


不味いな、今あいつが俺か望奈さんと、前衛の二人以外に攻撃を仕掛けたら間違いなく一人死ぬ。


「エンアトラー!!」


その可能性を危惧したであろう五島さんが、スキルを使うが、その効果は正確には分からないが、踏み込む動きからして、能力上昇系かヘイトの類だと今は思い込む。


踏み込んだ五島さん対して、ゴブリンが素早い蹴りを放っち、避けられない五島さんがそれを両腕で受け止めてしまう。


「ゔッ‥‥」


蹴りを受けた両腕が沈み、受け止められないまま吹き飛ばされる。


「嘘だろ、化け物かよ」


いや、最初っから魔物なんて化け物でしかない、だがこのメンバーで一番近接よりのステータスを持ち、尚且つ近接戦闘のプロが、一瞬で蹴り飛ばされる何て誰が思うだろうか。


「麓山さん、五島さんを担いで、九藤さん達は全員逃げて下さい」


「まだ戦えます千田さん!」


「お前が居なくて、誰がそいつらを守るんだ」


のんびりしてる時間は無く、納得してくれそうな理由を押し付け、黙って受け入れて貰うしか無い。


「分かりました…」


「すいません。‥ご武運を」


「緋彩先輩が残るならわ」


「邪魔だから行きなさいッ」


目も向けられずに、半ば怒鳴られた白浜さんが、黙り込み歯を食いしばり、その場に立ち続けていた。


「千田っち死なないでよ、行くよ菜奈っ」


「あっ嫌だぁぁ、行かない…私もぉーー」


小村さんに無理やり引きっぱられ、白浜さんを最後に全員が急いで後方に走って行く。


「何だ、親切に待ってくれたのか?」


「貴方っていつからモンスターに話しかける様になったの?全然知らなかったわよ」


俺と望奈さん、そして鎧のゴブリンだけが残った状況で、俺が無駄と知っていながら、ゴブリンに話しかけてる所に望奈さんが茶々を入れてくる。


「おい、お前も戦え」


無造作にカバンを開き、中に入ってるモノを床に撒き散らす要領でカバンを放り投げる。


「おい痛ぇよあんちゃん、扱いがちと雑過ぎねぇか?ずっと頑張って魔法使ってたのに」


中から転げ落ちた頭蓋骨が、地面に一回当たり跳ねると、宙に浮いたまま停止し、顎の骨を動かし喋り出す。


「そんな余裕あると思うか?」


「まぁ普通に考えればねぇわな」


気丈に振舞ってるだけで、誰もがそれを理解してながらも、悟られないようにしていた。


「プランBやるわよ!」


僅か一秒で何を指してるのか理解し、俺は即座に行動に移した。


「マジックアロー」

「『マジックアロー』」


俺が放つと粗同時に、ドクロンからも矢が放たれ、二方向からゴブリン目掛けて矢が飛び。


既に走り出してた望奈さんが、矢が命中するその瞬間に合わせ、攻撃体勢に入っていた。


「やっ!」


三つの攻撃が同時に迫り、どれかを避ければどれかが命中する、そんな状況をだった。


しかしゴブリンは身動ぎすらせず、ただ立ったまま鎧が一瞬光り、全ての攻撃が弾かれマジックアローは霧散し、矢を突き刺そうとしていた望菜さんは、体勢を崩し宙を舞っていた。








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