61.


 ゴブリンが犇めき合う中をすり抜け、五島さんと麓山さんが戦っている場所に辿り着いた望奈さんが、密集していたゴブリン達を押しのけていた。


 何度観ても思うが、良くやるよ、ほんと。望奈さんのステータスと職業で近接戦闘なんて、ゲームじゃない現実世界で何人の人が行えると言うのだろうか。


「緋彩先輩っ凄ッ」


「千田さんもそうですが、あの方もかなり突出してますね。本当に凄い方達だ」


「それでもあの人も、何かしてるのでしょ?千田さん」


 白浜さんと九藤さんの話に鈴木さんが入り、その言葉を聞き、流石に苛立ちめいてしまう。


「ちょッ海維かいあんた今、私の緋彩先輩にいちゃもん付けたでしょッ!」


 俺が言葉を発するよりも先に、白浜さんが割り込み鈴木さんに突っかかり始めた。


「小言の一つや二つ出ますよ、僕達は選ばれなく、選ばれて人が目の前に居るんですから」


 恐らく鈴木さん俺と望奈さんは、何か特別な力を持ってると思ってるんだろうな。まぁ俺のがINT値を偽って告げた後に、全力を見せた為そう勘違いしてしまったのだろう。


「止せ海維、千田さん達は何も悪くないだろ」


「良いんですよ九藤さん別に。でもそうですね、後で望奈さんに怒られるかもしれませんが、望奈さんのステータスを正確に教えましょうか?」


「良いんですか?」


 最初に聞いて来たのは九藤さんだった、それは白浜さんが前澤さんのステータスを話そうとした時に止めかけた様に、ステータスの開示に関してはかなり慎重を期しているのに、俺が話そうとする事に疑いを持っているのだろう。


「はい、構いませんよ。最悪怒られるのは俺だけです」


「是非聞きたいですッ!ステータスの端から端まで、更にそれを手に入れた経緯から何からスリーサイズも!」


「流石にスリーサイズは分からないよ。白浜さん…」


「チッ」


 おいおい、この子今舌打ちしなかったか!?俺の聞き間違えじゃないよね、それに俺が知ってたら知ってたで君絶対怒ってると思うんだが?!


「他はともかく、ステータスだけで良いので、千田さんお願いします」


 何かを得られると考えてるであろう、九藤さんが白浜さんに呆れながらも、話を進めて来た。


「分かりました、その前に確認しても良いですか?」


「何でしょうか」


「皆さんを観てて思うのですが、AGIやVITは六人でなるべく近い数値まで振ってるんじゃないですか?まぁ麓山さんのVITは高いとしても」


「そうですね、我々は六人で行動しますので、誰か一人が遅いと全体が遅くなります、なので元々の運動能力も考慮して振っています」


「Lv7だとして、基本的にSPは35しかありません。それをAGIに9、VITに15程振ってしまえば、残ってるのは僅か11程度、職業と合わせてもINTは20に届けば良い方でしょう」


「全く。白浜っ話したのか」


「違う違う、私そんなに話して無いから!」


「九藤さん、白浜さんは話してませんよ、観てれば大体分かります」


「鑑定とかそういったスキルでしょうか」


「いえいえ、違いますよ。皆さんの走ってる時や、戦ってる時の恐怖加減で予想しただけです」


「まさかそれだけで、当てられる何て、千田さんおかしいですよ」


「まぁ敢えて言うならゲームで培った観察力です」


「変態でしょ。私だけじゃなく、華憐ちゃんや真姫ちゃんの事も凝視してた訳でしょ‥緋彩先輩に言いつけちゃお」


「やっぱり話すの止めようかなぁ~」


「ぅぅ、酷い。色々酷いです、良いでしょう此処は先輩のステータスを知る為にも、私達が凝視された事は知らなかった事にします」


「ちょっ、私の意見は?!」


「華憐、耳元で大きな声を出すな、驚くだろ」


「ごめん」


「気をつけてくれればそれで良い、すいません千田さん、お願いします」


「まぁそんなステータスに成ったのは、九藤さんがメンバーの安全を第一に考えてステータス構成を考えたから何でしょうね。僕も悪いとは思いませんし、仲間の事を考えていて素晴らしいと思いますよ」


「そう言って下さり、有り難う御座います」


「確かに生存率で見ればかなり高い、ですがパーティー全体で考えると良くも悪くも、今の九藤さん達の状態は器用貧乏です」


「どうしてですか?安定を目指すなら、これが良い筈なのでは?」


「それは街中での雑魚との接敵での話です。今回みたに相手の土台に引っ張り出されてしまえば意味が無い。貴方達だけで敵が普通のゴブリンだけなら、この数を突破出来ましたか?」


「いえ。恐らく、無理だったかと」


「でもステータスの振り方次第では、可能だったと思いますよ」


「いったい‥」


「まず後衛がAGIやVITにSPを使い過ぎですね」


「それだと攻撃を喰らった時、どうすれと言うんですか」


「まぁ普通はそうなる訳です。でもそれが普通の事ですので仕方ありませんが、それだと器用貧乏のまま何ですよね」


「リスクとリターンですね」


「ざっくり言えばそうです、結局STRが無くてもゴブリンなら刃物で倒せますし、VIT何て必要無いでしょ?望奈さん何て5ですよ?」


「えっ?‥‥ええええええええ!!!!!ちょ千田さん、凄く危ないじゃないですか、早く止めないと私の緋彩先輩が、先輩がぁああ。ぁぐッ」


「落ち着かんか、白浜」


 九藤さんからチョップを食らい、白浜さんが頭を抑えて静かになる。


「まぁそれでAGIは普通に30を超え、今は35は言ってるんじゃないですかね、そんな感じで望奈さんは戦ってるって訳です」


「そんなの一発脆に受けたら動けなくなって、そのまま‥」


「そうですね、でもハイリスク・ハイリターンですよ、九藤さん。九藤さんも麓山さんにVITをこれから上げてもらって盾役をやってもらって、鈴木さん達はINTを上げると良くなると思いますよ。まぁ皆さんが感情を割り切れるかどうかですが」


「割り切るって、そっちは何の話しをしてるの?」


 急に前方から声を掛けて来たのは、五島さんと麓山さんと合流し、敵を倒しながら前線を下げて来た望奈さんだった。


「お疲れ様ですぅ、望奈さん」


「それで?何の話だったの?」

 

 俺の話しを聞いていた他の皆は既に、麓山さんの元に駆け寄り説教をしてる演技を行っていた。


 彼奴等、綺麗に見捨てやがったな。


 割に合わねぇ。


 


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