60.
前に突き出した両手に触れる距離に、最後の壁が展開され、手前から奥に、段々と大きくなる壁が何十にも重なり、半透明の筈の壁の向こうは中心に近ければ近い程見えなくなっていた。
矢が新たに出現しなくなった頃には、矢の数は数える事すら難しい程に密集し。その鏃の先が全て俺達に向いた瞬間ゴブリンが上に掲げていた杖を勢い良く振り下ろした。
「あっ…死n……」
光輝いた矢が瞬く間に壁に衝突し消え、矢が飛来してる事すら認識する前に、衝突音が遅れて耳に届き、一度聞こ始めた音はゲリラ豪雨がトタンを打ち当たる様に激しく鳴り響いた。
「いっゃやぁぁあぁあぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あッ」
展開した壁は無情にも、一秒にも満たない程一瞬で粉砕され、また一壁一壁とガラスが砕ける様な音を出し、後ろで叫ぶ白浜さんの声をかき消していた。
狙いを定められ矢は、広く展開された壁の中央部に命中し、徐々に強度が増している壁をいとも簡単に突き破り続けていた。
「止まれれぇええ!!!!!!!!!!!」
壁と矢が衝突し弾け飛び、それが重なり合い前方が見えない中、突如訪れた静寂に全員が反応し目の前に目を向ける。
「生きてる…私達、生きて…」
「馬鹿ッ喜ぶのが早い!」
「え、何で?だって攻撃しのいで生きてるじゃん」
「全部千田さんのおかげで、お前は何もやって無いだろ」
喜び始める白浜さんを、鈴木さんが止めるが、確かに喜ぶのは少し早い、敵を倒した訳じゃないんだからな。
「良かったわね、敵も一発強いのを放って来なくて」
望奈さんに言われ嫌な予感がした俺は、悪い視界の中で必死に杖持ちゴブリンに注視しするが、杖をゆっくりと着くように持ち直しているだけで、攻撃する素振りは無かった。
「望奈さんが言うと現実味が出てくるので、ヒヤッとしますね」
「何よそれ」
不満そうに送ってくる視線とは合わせず、再び前方に視線を戻す。
状況が状況だけに、前を行く二人は進む事を止め、俺達と杖持ちの丁度中間程の位置に陣取り、ゴブリン達を薙ぎ払らい戦っていた。
「あの壁って、人体の中には出せるの?」
「流石に試して無いので分かりませんが、基本的にあの壁は、壁よりも強度が脆い物なら出現時に押し込み、割り込む感じですね」
「なら、此処で作られた場合は?」
望奈さんが自分の首を触りながら聞いてくる。
「首が折れながら強い衝撃に押されるか、広がろうと展開する速度の壁に耐えきれず、首が切断されるかのどっちかだと思いますよ」
「なるほどね、分かったわ有難う。それじゃそろそろ私も突っ込むわね」
「構いませんが、冗談抜きで、一部のステータスだけならあの杖持ち、コレと粗変わりませんよ?」
望奈さんにだけ見える角度で、カバンに指を向ける。
「それくらいは見てたら分かるわよ。大丈夫そう簡単に殺られたりしないから」
少し振り向きながら、話し切った望奈さんが歩き始め、やがて速度を上げてゴブリンに突っ込んでいった。
「皆さん行きましょう、なるべく離れないでください、そしてあの杖持ちを倒そうとせず、周りのゴブリンを優先的に倒してください」
「はい」
「了解です」
「らじゃ」
駆けて行った望奈さんは既にゴブリンと接敵しており、器用に矢をゴブリンの喉元に突き刺しては抜き、ゴブリンを一瞬で絶命させるか瀕死に追いやっていた。
「「マジックアロー」」
鈴木さんとタイミングが重なり、同時に二本の矢が放たれ、心臓を射抜いた矢が一匹のゴブリンを的確に仕留め。もう一矢が無造作にゴブリン達を貫き、身体の部位を吹き飛ばし集団に亀裂を作る。
「先程も観てましたが、やはり悔しいです。どうして自分にはその力が無いんだろうって」
一度見せた威力を隠す事無く、放った俺の矢と見比べた鈴木さんが、矢を放ちながら独り言に近い呟きを俺に投げかけた。
「マジックアロ‥」
返答するよりも先に、望奈さんの近くに矢を放ち、密集し始めていたゴブリンを倒し、望奈さんが動きやすいスペースを維持する。
「鈴木さんも成れますよ」
「成れませんよ、そんなチートみたいな状態には。僕は選ばれなかった、ただそれだけの事何でしょうね。千田さんもステータスを全て見せろと言われたら隠したい力の根源ぐらい在るんですよね?」
皮肉を込められた言い方に、思う所はあったが、人は持っていないモノを妬む傾向にある、それ故の発言だと思えば割り切り、無視出来る。
「マジックアロー」
俺から再度放たれた矢が、通った線を観、鈴木さんが歯を食いしばり、口を閉ざしてるのが分かるが、望奈さんの戦いをサポートする為に仕方なく放ったので、別に嫌がらせするつもりは無かったが、間が悪いとはよく言ったものだ。
「やり方次第で成れますよ、見せるつもりはありませんが、良くあるラノベみたいなチートは持ってませんよ。これは断言しときます」
俺のステータス欄にあるのは、到底他人に見せて良いモノでは無い。人種殺し‥こんなのがあるだけで終わりだ。それに極振りの実績なんて、自分で馬鹿とさらけ出す様なものじゃないか。
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